60歳の定年を前にした50代は、会社員人生のなかで給与額が頂点に達する時期。子育てもひと段落して、次は自分たちの老後のためにお金を貯めるぞ! と意気込んでいるタイミングです。一方で「親の介護」という新たな難問を突き付けられる場合も。要介護となっても「経済的な負担は親が負う」というのが一般的ですが、想定外のことも。みていきましょう。

会社員として給与がピークになる50代…親の介護の心配も増大

高校まで、大学まで……どこまで進学するかによって変わりますが、社会に出ておよそ40年近く、仕事を頑張る日本人。たいてい年齢を重ねるごとに給与もあがっていきます。

男性50代後半の平均給与は、月収で41.6万円、年収で674.0万円。女性の50代後半は、月収で28.0万円、年収で428.1万円。60代定年を境に男性は3割、女性は2割程度、給与がダウン。まさに50代は社会人としてもピークに達するときです。

30代前後で結婚、そして30代前半で第1子誕生。40代になる前にマイホームを購入し、50代で子どもの教育費は目途がつく。その分、自分たちの老後に向けて、資産形成を加速。「目指すは。老後資金2,000万円!」というのが、よくあるパターンでしょうか。

一方で、50代になると心配になるのが「親の介護」。子どもが50代だと親は70代後半から80代くらい、という組み合わせが多いでしょうか。

厚生労働省総務省の資料によると、年代別人口に占める要支援・要介護認定者の割合は、「70代前半」で5.8%だったのが、「70代後半」では12.1%と倍以上に。さらに「80代前半」では25.8%と4人に1人の水準に達し、「80代後半」では59.8%と半数を大きく超えます。ちょうど子どもが50代に差し掛かるタイミングで介護を必要とする親はぐんと増えるわけです。

実際に親が要介護・要支援となった場合、まず問題になるのが「誰が介護するのか」。厚生労働省令和4年 国民生活基礎調査の概況』によると、「同居する配偶者」が22.9%、「同居する子」が16.2%、「別居する家族等」が11.8%、「子の配偶者」が5.4%。そして「事業者」が15.7%となっています。

また男女別にみていくと、要介護者と同居の場合は、「男性」31.1%、「女性」68.9%。要介護者と別居の場合は、「男性」26.0%、「女性」71.1%。どちらにせよ、女性のほうが介護負担を被るケースが多いようです。

夫婦の年齢差や男女の平均寿命から考えると、「配偶者=夫の介護をする妻」が多く、夫(父)が亡くなり、今度は妻(母)が要介護になったら、今度は「同居する子」の出番となる……そんなパターンが多いことが推測されます。

老人ホームに入居を決めた母…想定以上の長生きに複雑な気持ちになるワケ

50代になると「親の介護不安」が増すものの、在宅介護では負担が重すぎたり、親の介護をするには家が遠すぎたり……そうなると事業者にあれこれと頼むほか、老人ホームへの入居が現実路線、といったところ。

老人ホームといっても色々な種類がありますが、比較的費用の安い公的介護保険施設には、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、いわゆる特養)、介護老人保健施設、介護医療院、 介護療養型医療施設の4つがあります。要介護と認定された人であれば、施設サービス費用の1~3割を負担します。

その費用は誰が負担するのでしょうか。株式会社Speeeが運営する「ケアスル 介護」が行った調査で「介護施設の料金は主に誰が支払っていますか?」と聞いたところ、「入居者自身」が最も多く64.0%。「入居者の子ども」24.8%、「入居者の配偶者」6.4%、「入居者の孫」1.6%と続きます。圧倒的に入居者本人が払うケースが多いものの、その子どもが払うケースも4人に1人という水準です。

元会社員の夫(父)を亡くした妻(母)の場合、自身の年金と夫の遺族年金が毎月の収入となります。平均的な金額だと、およそ額面14万円ほど。施設費用がこれで賄うことができなければ、あとは貯蓄を取り崩すことになりますが、老人ホームの費用は施設によってピンキリです。

まず初期費用となる入居一時金は、0円をうたう施設から、数億円と高級をウリとする施設まで。さらに月々の利用料は、15万円~30万円程度がベースで、さらに利用料に含まれない費用が、平均月2万円だといいます。たとえば月々の利用料がおおよそ20万円程度だったなら、平均的な年金額では月7万円ほどの取り崩しが必要となります。

――老人ホームに入るわ。大丈夫、年金と貯金でなんとかなるから(80代母)

そうは言っていたものの、母の入居期間は予想以上に長くなり……長生きは嬉しいことであるものの、お金は底をつき、ひとり娘に泣きつくことに。

――えっ、私が立て替えるの⁉ なんとかなるっていったじゃない!(50代娘)

厚生労働省の調査によると、老人ホームの平均入居期間はサービス付き高齢者住宅(サ高住)で約4年、住宅型有料老人ホームで約6年、介護付き有料老人ホームで約9年だといいます。ただこれは平均値。入居期間が10年以上に及ぶことも珍しくはありません。親が長生きすることは喜ぶべきことですが、経済的な負担が子どもに及ぶ可能性があります。

50代は自身の老後のために資産形成を加速させたい時期。そのタイミングで親の老人ホーム費用の肩代わりは、できれば遠慮したいところ。このような子どもの事情も考慮して、親もきちんと準備しておきたいものです。

(※写真はイメージです/PIXTA)