有名車種が日本で終売、しかし海外では引き続き販売されるという事例が相次いでいます。なぜそうなってしまうのでしょうか。そうした海外車種の日本販売あるいは再導入は多くありません。背景にはある戦略の変化がありました。

枚挙にいとまがない「海外で生きる車種」

去る2023年11月14日トヨタは北米で次世代の「カムリ」を発表しました。11月中旬に開催されている「ロサンゼルスモーターショー2023」のトヨタの目玉のひとつとして高い注目を集めています。

しかし、日本においてのカムリモデルチェンジすることなく、今年12月に生産終了という寂しい状況。また、かつて人気を誇ったコンパクトクロスオーバーの「C-HR」も、新型が欧州で登場したけれど、日本での販売という声は聞こえません。

こうした知名度の高いモデルが、いつのまにか日本で発売されず、海外だけで売っているというケースは、意外とたくさんあります。たとえば日産のコンパクトクロスオーバーの「ジューク」やセダン「サニー」SUVの「テラノ」、ホンダセダン「シティ」(グレイスの海外名)に「インテグラ」「アコード」などなど――。

ちなみに、海外では日本と違う名前を名乗ることもあります。日産の「エクストレイル」は海外では「ローグ」ですし、トヨタの「クラウンエステート)」は前出の新型カムリとともにアメリカでは「クラウンシグニア」の名前で発表されました。マツダの「ロードスター」は、海外では「MX-5ミアータ」と呼ばれています。

では、なぜ日本の人気モデルが海外に行ってしまったり、名前が地域により変わってしまったりするのでしょうか。

端的に言って、自動車メーカーの販売戦略が理由になります。かつては「グローバルカー」と呼んで、世界で同じクルマをいかにたくさん売りさばくかに注力していた時代がありました。当然、名前も統一していました。しかし、よく考えてみれば、世界各地でユーザーの望むクルマは異なります。

日本のように道が狭い国もありますが、一方でやたらと広いアメリカという国もあります。小さくて取り扱いがよいと日本で人気の軽自動車を、アメリカに持って行っても喜ばれるとは思えません。また、高速道路が発展し、高い速度で走ることが多い欧州では、当然、高速走行の性能の良いクルマが好まれます。一方で、渋滞がひどく、アベレージ速度の低いアセアンでは、高速走行性能は求められません。

アクの強いやつよりコンサバSUVの方が日本で売れる?

さらに、デザインの好みにも国民性が出ます。個人的に世界各国で取材していて思うのは、「可愛い」を好む感性は多数派ではないということです。同じアセアンでも、タイでは「可愛い」がウケるけれど、インドネシアは女性でも「格好いい」を好むように見受けられました。

名前に関しても、各国で感性が異なります。例えば中国語で「250」は、スラングで「バカ」を意味するそうです。そのため車名やグレードに「250」は使いたくないというケースもあります。

つまり、多様で異なる世界各地のニーズに対して、グローバルカーの名の元、ひとつの価値観だけを押し付けるのには、やっぱり無理があるということ。そのため、現在では、どこの自動車メーカーも、販売地域ごとに特化した戦略を実施しています。当たり前ですけれど、日本には日本に向けた商品。アメリカにはアメリカというように、その国ごとの商品作りとラインナップを揃えています。グローバルカーも残っていますが、それ以外の地域専用車がしっかり脇を固めるという構図です。

そうした地域ごとの戦略の例と言えるのが日産「ジューク」です。かつて日本で人気を集めたジュークが2020年デビューの「キックス」と入れ替わるように日本から去っていきました。これは、パーソナル色の強いジュークより、コンサバなキックスの方が日本で売れそうという判断のもとだったといいます。また、日本で2つのSUVを並べるほどの余裕がないというのも理由でしょう。

地域ごとに販売戦略を立てているからこそ、名称もいろいろ変わります。ですから、日本でカムリやC-HRを売らないのは、日本市場むけの戦略ということ。過去の売れ行きが悪かったという理由や、他のクルマを売りたいという考えがあるのでしょう。

それもこれも自動車ビジネスの競争が厳しいからこそ。競争を勝ち抜くために、名前くらいであれば簡単に変えてしまうわけです。そして、売れ行きの鈍くなったモデルをいつまでも売り続けるのは、自動車メーカーにとって、非常に苦しい状況となるのです。

日本では生産終了になる「カムリ」(画像:トヨタ)。