2003年に映画監督デビューしてから20年で6本の長編映画を発表し、そのいずれもが高い評価を得てきた西川美和監督。その長編監督作全6作品が、11月24日(金)よりPrime Videoで一挙に見放題で配信される。そこで本稿では、西川監督のこれまでのキャリアをたどりながら、今回配信される6作品を一気に紹介していこう。

【写真を見る】是枝裕和が惚れ込んだ脚本を映画化したデビュー作『蛇イチゴ』も見放題配信

■家族の綻びを描く鮮烈なデビュー作『蛇イチゴ

早稲田大学在学中にテレビマンユニオンの新人募集に応募し、そこで面接を担当した是枝裕和の目に留まったことから映画界入りを果たした西川監督。是枝が監督を務めた『ワンダフルライフ』(98)を皮切りに、森田芳光、諏訪敦彦らの現場で助監督を経験し、『蛇イチゴ』(03)で監督デビュー。西川監督の手掛けたオリジナル脚本に惚れ込んだ是枝がプロデューサーを務め、西川監督はその年最も優れていた新人監督に贈られる「新藤兼人賞」の銀賞を受賞。一躍オリジナル脚本が書け、高い演出力を持つ若手監督として注目を集めることになる。

幼いころから正義感の強いしっかり者の長女(つみきみほ)、優しい母(大谷直子)、働き盛りの父(平泉成)、ぼけてはいるが明るく楽しい祖父(笑福亭松之助)。そんなどこにでもいる平凡な家族のもとに、ある日突然、勘当され行方不明になっていた長男(宮迫博之)が10年ぶりに舞い戻ってくる。それを機に、一家の平穏さの裏に隠されていた嘘と欺瞞が次々と噴出することに。

■西川美和監督の人気を確立した代表作『ゆれる』

デビュー作の後、短編オムニバス映画『female』の一編「女神のかかと」を手掛けた西川監督は、自身が見た夢から着想を得たという長編第2作『ゆれる』(06)を発表。母の一周忌で久しぶりに帰郷した猛(オダギリジョー)は、兄の稔(香川照之)と幼なじみの智恵子(真木よう子)と共に近くの渓谷に行くのだが、そこにかかった吊り橋から智恵子が落下してしまう。

第59回カンヌ国際映画祭の監督週間にも出品された同作は、日本公開時にロングランを記録。同年のキネマ旬報ベスト・テンで日本映画ベスト・テンの第2位に選ばれ、第61回毎日映画コンクール日本映画大賞など数多くの映画賞を受賞。西川自身も第49回ブルーリボン賞監督賞を受賞するなど、その評価を不動のものにした。

■国内の映画賞を総なめにした『ディア・ドクター』(09)

新作が最も待ち望まれる監督の一人となった西川監督が次に発表した『ディア・ドクター』(09)は、笑福亭鶴瓶の映画初主演作品としても公開当時に大きな話題を集めた。

物語の舞台は山あいの小さな村。村で唯一の医師として人々から慕われていた伊野(笑福亭)が失踪する。研修医の相馬(瑛太)ら伊野と共に働いてきた者たちが困惑するなか、警察がやってきて捜査が始まる。しかし村人は皆、自分たちが慕ってきたその男についてはっきりとした素性をなにひとつとして知らなかった。やがて伊野の不可解な行動が浮かび上がってくることに。

同作はキネマ旬報ベスト・テンで日本映画ベスト・テンの第1位を獲得。さらに第33回日本アカデミー賞では優秀作品賞と優秀監督賞を含む10の優秀賞を受賞。西川監督が最優秀脚本賞、看護師を演じた余貴美子が最優秀助演女優賞を受賞するなど、前作『ゆれる』を上回る高評価を獲得した。

■松たか子×阿部サダヲの夫婦役も話題に!『夢売るふたり』

火事ですべてを失った夫婦が、小料理屋を再建するために共謀して結婚詐欺を働く様を描く『夢売るふたり』(12)は、西川監督の長編映画では初めて女性主人公の作品。夫婦や男女の関係を卓越した心理描写とサスペンスフルな展開で描いた同作では、妻の里子役を演じた松たか子が第36回日本アカデミー賞優秀主演女優賞など様々な映画賞に輝いた。

東京の片隅で小料理屋を営む貫也(阿部サダヲ)と里子(松たか子)の夫婦は、火事で店を失ってしまったことから再出発のために結婚詐欺を企てる。里子が女性たちの心の隙間を見つけて計画し、貫也が言葉巧みにそれを実行。初めは思惑通りに進んでいたが、いつしか騙した女性たちや夫婦間にさざ波が立ち始める。田中麗奈や木村多江、鈴木砂羽など、ターゲットとなる女性キャストの豪華さも見どころのひとつ。

直木賞候補となった小説を自らの手で映画化!『永い言い訳

それまで3年に1本のペースで新作長編を発表していた西川監督だったが、長編第4作『夢売るふたり』から長編第5作『永い言い訳』(16)までは4年の間隔が空く。『永い言い訳』の原作となったのは西川監督が自ら執筆した同名小説で、2015年2月に刊行された同作は第28回山本周五郎賞、第153直木三十五賞に候補入り。映画監督としてだけでなく小説家としても不動の地位を獲得することになった。

人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻(深津絵里)が旅先で不慮の事故に遭い、親友(堀内敬子)と共に亡くなったという知らせを受ける。その時不倫相手(黒木華)と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の夫(竹原ピストル)と幼い子どもたちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから彼らの世話を買って出ることに。

■名優・役所広司の演技にしびれる『すばらしき世界』

役所広司と初タッグを組んだ『すばらしき世界』(21)は、西川監督にとって初めて他者の原作を映画化した作品。佐木隆三が実在の人物をモデルに描いた長編小説「身分帳」の舞台設定を現代に移し、オリジナル要素を交えながら脚色。シカゴ国際映画祭の観客賞とベスト・パフォーマンス賞(役所広司)を受賞したことを皮切りに、国内外の映画賞で高い評価を獲得した。

下町の片隅で暮らす三上(役所)は、見た目は強面で短気だが、まっすぐで優しく、困っている人を放っておけない男。そして実は、人生の大半を刑務所で過ごしてきた元殺人犯だった。社会のレールから外れながらもまっとうに生きようと悪戦苦闘する三上に、番組の取材のために近付く若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)。やがて三上の壮絶な過去と現在を追ううち、津乃田は思いもよらないものを目撃していくことに。

まっとうに生きるということとはなにかという問いを通し、社会と人間のいまをえぐっていく本作。役所が第76回カンヌ国際映画祭男優賞を獲得したヴィム・ヴェンダース監督の『パーフェクト・デイズ』(12月22日公開)の公開が近付くこのタイミングで、日本を代表する俳優の名演を堪能してみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬

名優たちが揃い、高評価を連発!西川美和監督のキャリアを長編6作品に沿って紹介