パタリロ!」などで知られる魔夜峰央1982年に発表したギャグ漫画を実写映画化し、興行収入37.6億円の大ヒットを記録。さらに第43回日本アカデミー賞では最優秀監督賞など4つの最優秀賞に輝くなど大旋風を巻き起こした『翔んで埼玉』(19)。その待望の続編となる『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』が11月23日についに公開を迎えた。

【写真を見る】大河ドラマや『シン・ゴジラ』の名手が手掛けたデザイン画には、こだわりがいっぱい!

名門私立高校である白鵬堂学院の生徒会長、壇ノ浦百美(二階堂ふみ)が、帰国子女の転入生、麻実麗(GACKT)と出会い、埼玉を解放する戦いに身を投じていく様が都市伝説として語られた前作。それから3か月後を舞台にした今作では、“日本埼玉化計画”を推し進める麗が越谷に海をつくることを計画。美しい白砂を持ち帰るためにはるばる和歌山へと向かうのだが、それがやがて日本全国を巻き込んだ東西対決へと発展していくことになる。

“埼玉ディス”をはじめとした各地のご当地ネタはもちろん、スケールも前作から遥かにグレードアップを遂げた本作。なかでも注目は、やはり登場キャラクターたちのビジュアルだ。前作も原作漫画の世界観を忠実に再現したことで話題を集めたが、今作では原作に登場しないオリジナルキャラクターが映画をさらに盛り上げていく。そこで本稿では、人物デザイン&衣装デザインの裏側を劇場パンフレットから抜粋して紹介していこう。

キーワードは“フェイク感”と“ズレ感”!

人物デザイン監修・衣裳デザインは、前作に引き続き柘植伊佐夫が担当している。柘植といえば、NHK大河ドラマ「龍馬伝」や「どうする家康」の人物デザイン監修を務め、『おくりびと』(08)や『シン・ゴジラ』(16)にも参加したこの部門の第一人者。過去には鈴木清順監督の『オペレッタ狸御殿』(04)や実写版ゲゲゲの鬼太郎」シリーズ、実写版進撃の巨人」も手掛けており、独特な世界観を有する作品はまさにお手のものだ。

そんな柘植は、「翔んで埼玉」の世界に臨むうえで重視しているポイントについて、「前作から意識している創作上のトーン&マナーは、どこか表面的で本物ではない匂い=フェイク感を出すこと。伝統や文化に憧れ、本物を後追いしているエピゴーネンの“ズレ感”が本作には流れており、キャラクタービジュアルもそれに従って表現しています」と語っている。

また今作にあたっては「舞台が関西になったことで、インパクトのある出オチ感を匂わせながら、それだけに終わらないよう文化的な背景もちりばめて、咀嚼もできる奥行きに配慮しました。大阪側は“粉”がキーアイテムですが、それを利用して、和や祭祀を表す“白”を記号として取り入れています」と説明。実際に本作で初登場を果たした関西のキャラクター4名のデザインをチェックしてみよう。

■関西の主要キャラクターたちは、衣装もキャラも強すぎる!

まずは、和歌山の海岸に漂着した麗が運命的な出会いを果たす“滋賀のオスカル”こと桔梗魁。近江が栄えていた戦国時代の南蛮渡米文化をイメージした衣装をまとい、麗と生理的に惹かれあう感覚が麗と同じ髪色である“紫”という色彩によって表現。しかもケープのようなショートマントは麗のロングマントと同じ文脈にあり、ブラウスのフリルは百美のリボンの引用。3人の“三角関係”が衣装によってあらわされている。

この桔梗魁を演じた杏は、柘植のデザインに加えて、かつて近江を争っていた武将たちの家紋を入れたいとリクエストしたという。勲章のようなバッヂとして取り入れられたそれらは、魁を過去の栄光に固執している人物として見せるなど、美しさだけではない奥行きも生むことに。東西対決のキーパーソンとなる魁が、劇中でどんな活躍を見せているのかは、映画が始まってからのお楽しみだ。

そんな魁をはじめとした滋賀解放戦線と対立する“大阪府知事”の嘉祥寺晃(片岡愛之助)は、吉本新喜劇池乃めだか師匠にオマージュを捧げたド派手な出立ち。前身頃がダブル、後ろ身頃がモーニングという変則的なブリティッシュスタイルは“フェイク感”を匂わせ、亀甲花菱の紋様は北近江の浅井家の家紋と同じ。柘植いわく「横溝正史的な血脈の因縁があるのかもしれませんね。あくまで妄想ですが」とのことで、そのバックグラウンドもつい想像したくなることだろう。

一方、藤原紀香演じる神戸市長は、神戸という土地柄のゴージャスさを表すかのように、名作『ティファニーで朝食を』(61)のオードリー・ヘップバーンの衣装をオマージュ。ボディラインや肌の露出を美しく見せるために何度も補正を行なうなど、本作のどの衣装よりも高い技術で作られているのだが、柘植は「クオリティを上げてゴージャスにするほど本物感から離れてヴァニティー(虚飾)が現れる皮肉があります」とも語っている。

そして川崎麻世演じる京都市長は、祇園祭の山鉾を引く人々の白装束からインスパイアされたという白い着物をまとい、武内英樹監督のアイデアでカンカン帽を採用。“洛中至上主義”を掲げる京都市長の扇子には「洛中」の文字が記されており、このデザインひとつとってもフォントからサイズ、配置まで様々な試行錯誤が重ねられている。

上映劇場や東映ONLINE STOREで販売されている劇場パンフレットにはほかにも、今作から新たに登場する登場人物たちのデザイン画と共に、それぞれのデザインの裏話が数多く掲載されている。

ほかにも美術や音楽、VFXにいたるまでスタッフたちの“茶番”ではない本気の仕事ぶりがわかる情報がぎっしり掲載されており、もちろんメインキャストや監督、原作者のインタビューから登場人物紹介、関西に馴染みのない人にとってはありがたい「よくわかる関西MAP!!」までが網羅された充実の内容となっている。映画を観たあとにパンフレットを読めば、もう一度劇場に足を運び、その緻密なこだわりぶりをスクリーンで確かめたくなることまちがいなしだ!

文/久保田 和馬

※川崎麻世の「崎」は「たつさき」

『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』は人物デザインと衣装にも注目!/[c]2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会