大手中学受験塾「四谷大塚」の元講師2人が複数の教え子を盗撮していた事件が発覚し、大きな衝撃を与えた。しかし子どもの信頼を悪用する教員や塾講師による盗撮は決して珍しいものではなく、最近では加害者が子どもというケースもある。

シリーズ4回目は、教育機関で行われる盗撮について考えてみたい。(ジャーナリスト・竹輪次郎)

●多発する教師の犯罪 対応に苦慮する教育委員会

学校で行われる盗撮と聞いて、皆さんは何を想像するだろうか。

よく耳にするのは、教師が教室やトイレで生徒を盗撮する事件だ。他にも、健康診断を行う保険医が盗撮したり、同じ学校の女子生徒を男子生徒が盗撮する事案も頻発している。学校内の盗撮画像を販売するSNSもあるのだ。

下記はこの半年で報道されたおもに学校内の犯罪の一部だ。

・勤務先の中学校で盗撮を繰り返した男性教員、懲戒免職に(2023年10月、愛知)

・児童2人を盗撮し逮捕・起訴の小学校教師、懲戒免職に(同、東京)

・女子児童延べ151人を盗撮、横浜の元小学教員を宇都宮地検が起訴(2023年9月)

・県立高校で教師(32)が生徒を盗撮したとして、教師の懲戒免職を発表(同、千葉)

警視庁が大手中学受験塾「四谷大塚」の男性講師を盗撮などの疑いで逮捕(2023年8月)

・児童の更衣室を盗撮した小学校教師、懲戒免職に(同、大阪)

本来なら児童や生徒を守る立場にある教師、学校関係者が盗撮を行っているケースが頻発しているのだ。多くの教師は真面目でしっかりしていると思うのだが、それでも感じるのは学校がもはや“安全な場所”でないということだ。

学校内の盗撮事件は、教師によるものとは限らない。

今年(2023年)1月には兵庫県西宮市の医師が、健康診断中に女性たちを盗撮したとして起訴された。報道によると、医師は大阪や兵庫の中高に健康診断で派遣された際にスマートフォンやボールペンに偽装した小型カメラで盗撮したという。これらの画像を自らの勤務先で保存していたそうだ。

それだけでも恐ろしいことだが、これがいつどういうきっかけで外部に流出するか分からないし、譲渡や販売される可能性だってある。繰り返し述べていることだが、高画質デジタルデータ主流の今はとくに盗撮は一度被害にあうと取り消せないものなのだ。

●隠ぺい工作も!? 統計にのらない校内盗撮

学校内ではさらに衝撃的な盗撮事件も発生している。今年(2023年)10月、東京都内の私立学校で複数の男子生徒が同じ学校の女子生徒を学校外の活動中に盗撮していることが発覚した。しかも男子生徒たちは画像を仲間で共有していたとみられている。被害者は30人にも上るという。

生徒による盗撮被害は近年多発している。後でも述べるのだが、加害者も被害者も未成年ということに加えて、学校の閉鎖性があって被害は表に出にくいものの、ここ1年でもこれだけ事件が発生している。

・高校で、複数の男子生徒が女子生徒を盗撮した疑いがあるとして調査中と報じられる(2023年10月、東京)

・高校の学生寮で女子生徒を盗撮したとして男子生徒3人が書類送検される(2023年9月、徳島)

・高校女子寮の浴室内を盗撮し、県迷惑行為防止条例違反(ひわいな行為等の禁止)の疑いで書類送検されていた当時の男子生徒5人を松江地検が家庭裁判所に送致(同、島根)

・高校の女子生徒約30人が修学旅行先で入浴中に盗撮され、複数の男性生徒が登校謹慎などの処分を受けたり、自主退学したりしたとする報告書を高校が県に提出(2023年6月、熊本)

深刻なのは、被害者たちが負う傷や恐怖心だ。

筆者が話を聞いた女子高校生はスポーツで有名な私立高校で被害にあった。同校の野球部は地区大会でも上位の成績をあげる花形の部活だったが、その野球部の生徒によって着替えを盗撮されていたのだ。女子高生は取材にこう語った。

「授業でも使っているタブレットで盗撮していました。男子生徒は盗撮画像をほかの仲間と共有するなどしたため、盗撮をしていると噂が流れ始め、怪しむ女子生徒たちがついに撮影中のタブレットを見つけました」

タブレットを置いたのが野球部員と間もなく判明したが、その後の学校側の対応は信じられないものだった。

「学校側は盗撮が明らかになっても警察への届けもせず、画像が拡散しているかの調査もしなかったんです。一応の説明会は開かれたのですが、盗撮は犯罪であるという抽象的な講義をするだけで、学校内でおきた事件について詳しい説明はありませんでした」(同)

結局、その盗撮をした生徒は数日間停学した程度で、発覚前と同じように普通の学生生活を送っていたという。

「野球部の顧問は、生活指導部長でした。にもかかわらず、顧問が指導した様子もありませんでした。盗撮した生徒は『誰がチクりやがった。絶対許せない』と、息まいていました。結果を残してきた野球部は学校でも絶対的な地位があるんです。そのためお咎めなしになってしまったのではないかと思っています」(同)

学校に処分を頼れないとなれば、泣き寝入りするしかないのか。

「警察になぜ訴えないのかと学校に詰め寄れば、学校の方針に従わない反抗的な生徒となってしまいます。大学付属の学校なので、内部進学の道が閉ざされてしまうのではと心配です。男子生徒が逆上すれば、盗撮画像を拡散されるかも知れないという恐怖もありました」(同)

男子生徒が画像を保管している可能性がある。女子生徒は悔しい思いをしながら両親とともに口を閉ざすことを決めた。筆者が取材で深入りするのも止められた。

このようなことが今、学校で起きている。公立の学校であれば、教育委員会に連絡する方法もある。しかし私立の場合とは、そうはいかない。事件を隠ぺいしている学校側に相談しても解決には近づかないのだ。

筆者はが出会った別の被害者は、高校内で男子生徒とすれ違うたびに「私の盗撮画像をもっているかも知れない」と恐怖に怯えているという。心療内科にも通い、心の傷を癒していた。

私立は不祥事があれば、生徒数が減少すること、つまり経営が悪化することを心配して、警察に訴え出ることを躊躇してしまう。

学校は学校の体面を気にするあまり生徒を犠牲にしているのだ。盗撮を「子どものイタズラ」ととらえている教師や保護者もいるのも問題を悪化させる原因だ。盗撮の被害がどんなものか想像つかない、運動部が活動停止になっては困る・・・学校が警察に相談したり、情報を保護者や生徒に伝えて安心させるということすらままならない。

これは筆者の私見だが、こうした問題が起きた時は、毅然として対応する学校の方が「通いたい」「通わせたい」学校となると思う。統計に乗らない盗撮事件が学校を舞台におきている。

●SNSで広がる校内盗撮

学校内盗撮を放置しておくことがいかに危険か。SNSを見てみると分かる。X(旧ツイッター)を巡回していると、「校内」もしくは「校内鳥」というキーワードが多く見つかる。これは学校内で(隠し)撮り=鳥という意味の隠語だ。

「校内鳥あります。交換しませんか」「鳥師(=盗撮師)です。画像販売します」などの書き込みがたくさん見つかる。学生と思われる男たちが、学校内の盗撮画像を販売したり、交換しているのだ。

誰でも見られるように画像の一部を貼り付けているケースもある。それを見ると、学校内で撮影されたであろうことは明らかだ。学校内の盗撮が子どものイタズラだと主張する人は、こうした現状を見てもまだ同じ主張を繰り返すだろうか。

学校では教師や同級生に、塾では講師に狙われる。もはや子どもにとって安全な場はないのだ。

これまで4回のシリーズで盗撮の現状を伝えてきた。筆者は、日本が盗撮大国であると改めて感じた。ニッポンに安全な場所は無い、というくらい危険が多いことも分かった。こうした犯罪の類型を知ることが、犯罪を減らすための一助になれば幸いである。

子どもを狙った盗撮事件、加害者は同世代や先生たち 学校はもはや「安全な場所」ではない