21日のシリア戦はトップ下に起用された久保建英のミドルで先制すると、CFの上田綺世が2ゴールを奪うなどアウェーにもかかわらず5-0と圧勝した。残念ながらテレビ中継はなかったが、今回の日本側の代理店やテレビ局の決断は正しい判断だったことは先週のコラムでも書いた通り。

今回は2次予選だし、相手はシリア、さらに夜中の時間帯とあって試合の“商品価値"はかならダウンした。それを知らずに放映権を1億円までつり上げた相手側代理店の判断ミスであり、“欲をかいた"ことで“泣きをみる"ことになった。自業自得と言ってもいいだろう。

そして現地からの報道である。自宅近くのコンビニに朝イチで買いに行ったところ、一面で扱っていたのはスポーツ報知だけで、スポニチや日刊の一面はやはりプロ野球だった。

知り合いの新聞記者からは、「速報版を販売できるエリアは都内なら環状七号線以内に限られる」とは以前に聞いていた。自宅は残念ながら環七よりも環八のさらに外側だけに、コンビニに他のスポーツ紙の速報版は届かなかったのかもしれない。むしろ報知新聞の販路の広さに驚かされた。

報知は、紙面的には一面だけで、久保の先制点の写真を使いながら、11版も版を重ねていた(二面と三面も11版なので、どれを一面に持って来るか最後まで悩んだかもしれない)。さすがに国内での試合のように、中面まで詳しく報じることは無理だったのだろう。「速報では一面が一番融通が利く」とも聞いていたので、そのメリットを生かしたというわけだ。

書き出しも特派の記者が現地の気温や湿度を紹介しつつ、蒸し暑さと警備の厳重さを描写。こうした書き方、現地の臨場感を読者に伝えようとする原稿は、80年代の日本代表のアウェー戦、テレビ中継などない時代の定番でもあった。

そして23日はスポニチと毎日新聞を宅配しているのでスポーツ面を開いたところ、スポニチは図解や写真でゴールシーンを詳細に解説しつつ、やはり1日遅れのためニュースとして鮮度が落ちるせいか、ゴールを決めた選手にフォーカスした“個人もの"で試合を振り返っていた。

そして毎日新聞である。記事も写真も共同通信からの配信を使用。思わず「そうだよな!」と納得した。共同通信時事通信はマスコミ各社に速報のニュースを配信するのが仕事である。それを使わない手はないことを、ここ十数年近く失念していた。

コロナ禍でカタールW杯のアジア予選、アウェーの試合を取材しなかったせいもあるかもしれない。これまで東南アジアや中東での試合では、W杯予選でも日本国内での試合のような記録用紙が配布されることはない。そこで共同通信時事通信の特派員は、ゴールが決まるたびに何分だったか互いに確認。さらにアシストはつくのかどうかもその場で話し合って決めていた。対戦相手の協会から正式な記録が出ない以上、両社の配信する記事が日本国内では正確な記録として残るからだ。

それこそ80年代は、アジアでの取材になるとシュートはもちろんゴールキック、CK、FKの本数までノートにつけていた。

毎日新聞としても、アジア2次予選のまだ2試合目で、中東のサウジアラビアまで経費を使って記者とカメラマンを派遣する必要性を感じなかったのだろう。そこら当たりがスポーツに割ける紙面に限りのある一般紙とスポーツ紙の違いでもある。

森保一監督は久保や伊東純也遠藤航冨安健洋ら主力選手をミャンマー戦では温存し、シリア戦でスタメン起用して5-0の大勝を収めた。この2試合の背景には、体調を崩してイングランドに戻った三笘薫をはじめ、ケガや体調不良で代表を辞退した選手も多かった。

2次予選はそんなにシャカリキになる必要はない――そう思っているのはメディアも同様だったことが判明したシリア戦ではないだろうか。(ただし来年3月のアウェー北朝鮮戦は別の意味で注目度が高まるはずだ)。このぶんだと6月6日のアウェー・ミャンマー戦もテレビ中継があるのかどうかわからないが、その頃にはもう日本の最終予選進出が確定しているかもしれない。

カタールW杯で世界を驚かせた森保ジャパンは、その後も三笘や久保の成長、伊東純也も好調を維持してさらにグレードアップ。それを実証したアウェーのシリア戦でもあった。日本がアジア2次予選から出場することの是非を問う意見が多くなったのも当然だろう。これはこれで、難しい問題である。



【文・六川亨】