亀梨和也主演、三池崇史監督による超刺激サスペンス『怪物の木こり』(12月1日公開)は、サイコパスである主人公が謎の連続殺人鬼に狙われる、異色のサスペンス映画だ。本作の原作は、倉井眉介の同名長編小説。個性豊かなキャラクターと先読み不可な展開で、第17回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した傑作長編である。「このミス」は、2002年に創設されたミステリー文学賞。多くのベストセラーを生みだしてきただけでなく、若手作家の登竜門としても定着。それだけでなく受賞作からは多くのヒット映画が誕生している。そこで「このミス」大賞関連作、「このミス」大賞シリーズの中から、実写映画化され、多くの人の脳裏に刻まれた衝撃作の数々をピックアップしてみたい。

【写真を見る】『怪物の木こり』で亀梨和也が見せる、色気すら感じさせるサイコパス弁護士もすごい!

■医学界で起こる事件に凸凹コンビが挑む『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』

医師でもある作家、海堂尊のデビュー作「チーム・バチスタの栄光」。東城大学医学部付属病院の心療内科医である田口公平と厚生労働省官僚の白鳥圭輔が犯罪を暴く医療ミステリーで第4回大賞を受賞した。『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』(14)は田口と白鳥コンビが活躍するシリーズ最終作「ケルベロスの肖像」の映画化だ。

高性能MRIリヴァイアサン”を導入した国際Aiセンター(Ai=死亡時画像診断)発足で、田口(伊藤淳史)やAi導入を推進する白鳥(仲村トオル)らは多忙な日々を送っていた。そんななか、厚労省や製薬会社など9人の医薬関係者が一緒に死んでいるのが発見された。白鳥は被害者たちが、疼痛薬ケルトミンの関係者だと気づく。本作は2008〜14年に放映された大ヒットドラマ「チーム・バチスタの栄光」の劇場版。伊藤演じるお人好しな田口と、仲村演じる切れ者、白鳥のコンビが、犯人や事件の裏に隠された真実を暴きだす。監督は「BOSS」や「刑事7人」など多くのヒットドラマを手掛けた星野和成。医療事故や薬害被害といった問題を、ヒューマンに寄せて描いた正統派ミステリー映画だ。

■忽然と姿を消した娘の正体に迫る『渇き。』

岡田准一主演作『ヘルドッグス』(22)の原作者でもある深町秋生の本格デビュー作が、第3回大賞を受賞した「果てしなき渇き」。行方不明になった高校生の娘を探す元刑事の父親を描いたベストセラーだ。受賞に際し「友愛や和気を著しく欠いているために、激しい拒否感を抱く方もいるだろう」と作者がコメントしたとおり、目的のために道を外した人々の姿をハードに描いた衝撃作である。

妻の浮気相手を暴行したため失職し、警備員となった元刑事の藤島(役所広司)は、別れた妻から一人娘の加奈子(小松菜奈)が行方不明だと知らされる。加奈子の鞄から薬物を見つけた藤島は、刑事だと身分を偽り娘の交友関係を調査。やがて加奈子の恐るべき一面を知らされる。感情や欲望のままに行動する藤島はまるで獣のような男で、がむしゃらに娘の行方を追う彼が最後につぶやく父としての本音もすさまじい。監督は鬼才、中島哲也。容赦なきバイオレンス描写が少なくないが、多彩なカメラワークや素早いカット割り、幻想的な色彩やアニメーションを挟んだトリッキーな映像が不快さを払拭。役所の怪演や新人らしからぬ小松の存在感に目を奪われるが、妻夫木聡二階堂ふみ橋本愛オダギリジョー高杉真宙ほか脇を固めた豪華キャスト&クセモノ演技も見どころだ。

■現実世界と空想の世界をさまよう『リアル〜完全なる首長竜の日〜』

審査員満場一致で第9回大賞に選ばれたのが乾緑郎の「完全なる首長竜の日」。女性漫画家が自殺未遂で昏睡状態となった弟の脳にアクセスし、自殺の原因を探るSFミステリーである。意識が生みだした空想世界をさまよう浮遊感が味わえる本作を、人物設定を変えて映画化したのが『リアル〜完全なる首長竜の日〜』(13)である。

1年前に自殺を図り昏睡状態に陥ったままの漫画家、淳美(綾瀬はるか)。恋人の浩市(佐藤健)は、彼女を目覚めさせるため “センシング”という医療技術を使って彼女の意識の中に入っていく。センシングを繰り返しているうちに、浩市は幻覚を見るようになるが...。本作で描かれるのは、意識と現実が混在した世界の中で記憶の奥深くに埋もれたトラウマを見つけ、克服するまでの物語。監督は『回路』(01)や『叫(さけび)』(07)など異色スリラーの名手、黒沢清。相手の意識の中で真相をたぐる展開は、犠牲者の脳にアクセスしテロ事件を追う『ミッション:8ミニッツ』(11)を思わせる。謎解きだけでなく、多彩な視覚効果を使って幻想世界に迷い込む浮遊感が味わえるのも本作の魅力である。

■火事を生き延びた少女が夢を叶えようとする『さよならドビュッシー

第8回大賞受賞作「さよならドビュッシー」は、火事でひとり生き残った少女の周囲で事件が続発していく物語。作者は中山七里で、本作と共に「連続殺人鬼カエル男(応募題:災厄の季節)」が同時に最終選考までエントリーされ話題になった。

なに不自由なく暮らしていたピアニスト志望の高校生、遥(橋本愛)は、ある晩、祖父の香月玄太郎(ミッキー・カーチス)やいとこのルシア(相楽樹)と共に火事に巻き込まれてしまう。一人生き残った彼女は全身に火傷を負い、声は出せず、体も満足に動かせなくなる。手術で元の姿を取り戻した彼女は、ピアニストになる夢を諦めず、ピアノ教師、岬洋介(清塚信也)のもと猛特訓を開始。コンクールへの出場権を手にするが、何者かに命を狙われる。玄太郎の死で莫大な遺産を相続することになった香月家の人々。様々な問題を抱えた家族の確執だけでなく、火事にまつわる真実が明かされていく怒濤の展開をみせる本格ミステリーで、橋本愛の熱演や、これが俳優デビューとなったピアニスト清塚信也の鍵盤さばきも見どころだ。

■凄惨な殺人事件に隠された真実とは『護られなかった者たちへ』

このミス」選出作ではないものの、「さよならドビュッシー」で大賞に輝いた中山七理の作品も抑えたい。怒涛の展開を見せる作風により「どんでん返しの帝王」と呼ばれる中山の小説「護られなかった者たちへ」を原作とする、生活保護の実態に迫った社会派ミステリー映画も話題となった。

東日本大震災から9年後の仙台で、連続“餓死“殺人事件が発生。被害者はいずれも周囲から悪い噂を聞かない男たち。警察の捜査線上に浮かび上がったのは、模範囚として出所したばかりの利根泰久(佐藤健)だった。事件を追う宮城県警捜査一課の笘篠誠一郎(阿部寛)は、利根と今回の事件の接点を突き止めるも、犯行の証拠を掴むことができずにいた。日本が抱える社会問題に大きく切り込んだ本作が浮き彫りにするのは、生活苦にあえぐ人々たちを待ち受ける現実。そんな本作に込められたメッセージを、佐藤、阿部を始めとする豪華キャスト陣が魂のこもった演技によって表現した。

■現代に欠かせないスマホに潜む闇『スマホを落としただけなのに』

このミス」では大賞のほか将来性を感じさせる作品に与える「隠し玉」も発表される。第15回の隠し玉作品に選ばれたのが、スマホを落としたカップルの恐怖を描いた「スマホを落しただけなのに」。本作でデビューした志駕晃は、ラジオプロデューサー勅使川原昭のペンネーム。本作以外にもSNSの恐怖を描いた「そしてあなたも騙される」などネットを題材にした作品を発表している。

麻美(北川景子)が恋人の富田(田中圭)に電話をすると、出たのは見知らぬ男。その人物は富田のスマホを拾ったのだと言う。スマホはカフェに預けられ無事富田のもとに戻ったが、それ以来何者かによる麻美への執拗なストーキングがはじまった。クレジットカードの不正使用や行動監視など、スマホが日常生活に欠かせない存在の現代ならではの恐怖を描いた本作。監督は「リング」シリーズの中田秀夫が手掛け、日常が少しずつ狂い始める様がリアルなタッチで描かれる。千葉雄大成田凌ほか、共演陣も当時の若手実力派が集結した。犯人が狙うのは長い髪の女性ばかり。白石麻衣を主演にした続編『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(20)も製作された。

■サイコパスと連続殺人鬼の戦いが始まる『怪物の木こり

第17回大賞に輝いた「怪物の木こり」は、倉井眉介の作家デビュー作。他人に共感できないサイコパスが、連続殺人鬼に対峙する異色作だ。苦悩する殺人鬼を描いたドラマ「デクスター」が執筆のヒントになったと作者が語っているように、ミステリアスな展開はもちろん、主人公、二宮の複雑な内面描写も見どころになっている。

三池崇史監督によって映画化されることとなった本作。人間の脳を奪い去る連続猟奇殺人事件が発生。犠牲者にはなんの接点もなかった。新たな標的にされたのは弁護士の二宮(亀梨)。ところが彼は、邪魔者は容赦なく始末するサイコパスという裏の顔を持っていた。捜査のなかで二宮に不信感を抱いた警視庁の戸城(菜々緒)は、二宮の周辺調査も開始。サイコパスと連続殺人鬼の戦いに、さらに警察まで加わって三つ巴の争いを繰り広げる本作は、二転三転していく展開と、アクの強いキャラクターが織りなす人間模様でぐいぐい引っ張る三池監督らしいパワフルな一本。冷徹ななかに感情をにじませる亀梨和也、執着心の強いプロファイラーを演じた菜々緒の演技バトルも見応えあり。原作とはまた違うラストが余韻を残す、ワザありの超刺激サスペンスである。

ミステリーファンを唸らせた「このミス」大賞シリーズを原作とする映画は、どれも緻密に練られた粒ぞろいの作品ばかり。そして、サイコパスvs連続殺人鬼という異色の攻防を描く『怪物の木こり』は、その「このミス」実写化の系譜をしっかりと受け継いだ衝撃作に仕上がっている。多くの話題を集めた原作を、三池監督と主演の亀梨はどのように再現したのだろうか?公開を間近に控えた本作に期待が高まる。

文/神武団四郎

※記事初出時、作品名の表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

優秀な弁護士としての表の顔を持つ“サイコパス“二宮(『怪物の木こり』)/[c]2023「怪物の木こり」製作委員会