ともぐい
『ともぐい』(河﨑秋子/新潮社

 北海道で生まれ育ち、動物を題材とした作品を数多く生み出してきた小説家・河﨑秋子。作家としての原点を“新たな熊文学”へと昇華させた最新長編『ともぐい』が、2023年11月20日(月)に発売された。

 著者の河﨑は、2015年8月に刊行された『颶風の王』で作家デビュー。新人のデビュー作でありながら、馬とかかわる数奇な運命を持つ家族の歩みを圧倒的スケールで描き、「JRA賞馬事文化賞」や「三浦綾子文学賞」、さらには雑誌『ダ・ヴィンチ』の「今月の絶対はずさない!プラチナ本」に選ばれ、いきなり3冠を達成していた。

 そんな鮮烈なデビューを果たした河﨑には、実はもう一つ“羊飼い”という別の顔がある。現在は専業作家として活躍しているものの、当時は執筆活動に励む傍ら、昼は羊飼いとして働いていたという。

 睡眠時間もわずか2時間と限られている中、『颶風の王』で華々しいデビューを飾り、2017年10月には単行本第二作『肉弾』を発売。人間と動物の生と死を見事な筆致で描き、「第21回大藪春彦賞」を獲得していた。彼女の作品に“動物”を題材にしたものが多いのも、血沸き肉躍る圧倒的な描写が多いのも、全ては羊飼いで得た経験が生きているからなのだろう。

 そして今回発売される『ともぐい』の舞台は、明治後期の北海道。村田銃と一匹の犬だけを味方に、山の王者である熊に立ち向かう男の物語だ。ときに瀕死の重傷を負いながらも、執念深く最強の熊に挑み続ける主人公・熊爪(くまづめ)を人間味たっぷりに綴っている。

 また人里離れて独りで生き抜く熊爪の生き様からは、命とは何なのか、生を喰らうとはどういうことなのか、という人間としての根源的な問いが見えてくるはず。そして読み進めるほどに、人間や獣たちの業と悲哀に心を揺さぶられるに違いない。

 実は河﨑が同作の原型を綴ったのは14年前、まだ作家になる前のこと。ここ数年現実の世界では、人間と野生動物との距離がたびたび問題視されているが、奇しくも14年の時を経て、熊と闘う根源的な意味を問う『ともぐい』が世に放たれる。

 同作の発売に際して、作者の河﨑も「人間が人間以外のものといかに共存するかが問われ、また個々人で考える機会が増えています」「その意味において、『ともぐい』を読んで下さった方が何かを受け取り、考えてくれたなら幸いです」とコメントを寄せていた。

 山や獣の骨太な息遣いと、揺らぐ人間の繊細な姿を見事に落とし込んだ『ともぐい』。2023年に出版されるめぐり合わせを感じながら、その手にとってみてはいかがだろうか。

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元羊飼いの作者・河﨑秋子が綴る“新たな熊文学”が爆誕! 北海道を舞台に野生動物と人間の生死を描いた最新長編『ともぐい』が発売