選手起用には定評のある中嶋監督(C)KentaHARADA/CoCoKARAnext

 秋田県出身のオリックス中嶋聡監督が「郷土愛」補強を着々と進めている。

 優勝パレードが行われた翌日の11月24日に、「秋田の星」と評していた日本ハム吉田輝星投手を、黒木優太投手との交換トレードで獲得。世間をあっと驚かせた。

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 18年夏の甲子園大会で準優勝し、「金農旋風」を巻き起こした金足農業高校のエースだった吉田は、ドラフト1位で日本ハムに入団。プロ5年間で通算3勝と伸び悩んでいた。「選手のいいところをどこまで伸ばしてあげられるかが大事」とかねてから語る中嶋監督が、同郷右腕の再生に乗り出すという構図だ。

 潟上市出身の吉田と、北秋田市出身の中嶋監督。秋田つながりだけでなく、農業系高校からプロ入りという共通点もある。中嶋監督の母校は鷹巣農林(現秋田北鷹)で林業科に所属。吉田は金足農の環境土木科だった。同じように作業服を着て実習し、泥にまみれていた後輩を、なんとかしたい思いは人一倍強いはずだ。

 初めて関西にくる吉田にとっては不安だらけのはずだが、中嶋監督が築いてきた「オリックス秋田県人会」がサポートする。実は秋田県ゆかりの選手がチームには多い。

 21年ドラフト7位、小木田(こぎた)敦也投手は角館高校出身、地元企業TDKから入団。同学年の山本由伸らから「小木田世代」と呼ばれる人気者。生まれも育ちも秋田人の2人にしかわからない独特の愛情表現にこたえ、2年目の今季は38試合に登板し4勝0敗7ホールドとフル回転。下位指名ながら堂々の活躍で優勝に貢献し、監督の期待にこたえた。

 22年ドラフト1位の曽谷龍平投手は、吉田のライバル校だった明桜高校出身で同い年。吉田とは甲子園をかけた県決勝で2年連続対戦し、2年時は曽谷とロッテ山口航輝を擁する明桜が、3年夏は吉田の金足農が優勝した。同年4位入団の杉沢龍外野手も、秋田と青森の県境にある小坂町出身の同学年だ。

 さらに今年ドラフト7位指名した権田琉成投手は、小木田と同じTDK出身だ。秋田出身の4選手はいずれも、指揮官が1軍監督就任後にドラフト指名した「中嶋チルドレン」。雪国の厳しさを共有し、方言でも語り合える「秋田県人会」の存在は、新加入の吉田にとって何より心強いだろう。

 育成手腕に定評があり、根は優しいと評判の中嶋監督はこわもての顔でも知られ、さながら秋田で有名なナマハゲのよう。鬼の仮面をかぶったナマハゲは怠け者を戒め、福をもたらす存在と言い伝えられる。

 吉田が怠けているわけではないが、もがき苦しんでいるのは確か。泣く子はいねが~、と選手育成には定評のある中嶋監督が救いの手を差し伸べた形だ。郷土愛あふれる中嶋監督のもと、「秋田の星」が再スタートを切る。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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