家族が認知症……症状が進んでいくと、いつの間にか家を出て徘徊をするなど目が離せなくなることも珍しくありません。自宅での介護に限界を感じたとき、施設への入居もひとつの選択肢。しかし施設に入居したからといっても心配は尽きないようです。みていきましょう。

認知症患者増…20年後には高齢者の5人の1人に

高齢化が進む日本。65歳以上の高齢者は2023年9月15日現在の推計で3,623万人いるとされ、総人口に占める割合は29.1%に達しています。一方、高齢者の増加と共に増えているのが認知症患者です。

内閣府平成29年度版高齢社会白書』によると、各年齢の認知症有病率が一定の場合、2025年には675万人と、高齢者の18.5%に達するとしています。その数はその後も増えていき、2040年には802万人、2060年に850万人となり、高齢者に占める割合はそれぞれ20.7%、24.5%になるとしています。

また各年齢の認知症有病率が上昇する場合は、2025年には730万人で、高齢者に占める割合は20.0%に。さらに2040年には953万人、2060年には1,154万人、高齢者に占める割合はそれぞれ22.5%、33.3%と、高齢者3人に1人が認知症という時代が来るとしています。

認知症は年齢を重ねるごとに発症リスクが高まることは知られていますが、年齢別に認知症有病率をみていくと、男性80代前半で5人に1人、女性80代前半で4人に1人の水準です。

【年齢別「高齢者に占める認知症患者」の割合】

◆男性

65~69歳:1.5%

70~74歳:3.4%

75~79歳:9.6%

80~84歳:20.0%

85~89歳:35.6%

90歳以上:42.4%

◆女性

65~69歳:1.6%

70~74歳:3.8%

75~79歳:11.0%

80~84歳:24.0%

85~89歳:48.5%

90歳以上:71.8%

出所:厚生労働省認知症施策の総合的な推進について(参考資料)令和元年6月20日』より

高齢者とその家族にとっては、身近な問題である認知症。その生活はどのようなものなのでしょうか。経済産業省が事務局の「認知症イノベーションアライアンスワーキンググループ」が行った『認知症のご家族への調査』をみていきましょう。

認知症患者の平均年齢は男性79.9歳、女性82.0歳。回答者となった家族の平均年齢は男性も女性も58.5歳。日常生活の困りごととしては「記憶障害」が最も多く78%。考えるスピードが遅くなるなどの「理解・判断力の障害」が66%、月日や季節・場所等が分からなくなる「見当識障害」が55%、段取りが立てられないなどの「実行機能障害 」が53%と続きます。

また介護度があがると「インフォーマルケア(公的機関や専門職によるサービスや支援以外の援助)」の時間が長くなる傾向にありますが、「買い物同行」や「通院の付き添い」、「そのほかの外出の付き添い」、「金銭管理」などは、介護度とは関係のケアであることが分かりました。

認知症患者を在宅介護する際に不安に思うことに対しては、「日中・夜間の排泄」と「認知症状への対応」という回答が多くを占め、介護度が上がるほどその割合は高まります。また介護度が上がると、「仕事をやめたい」「業務時間を減らしたい」という回答も上がる傾向にあり、特に生活全般で24時間介護が必要となる要介護3では、その数がぐっと増えます。

認知症…自宅での介護に限界!老人ホームに入居したが

在宅での介護は限界……そうなると老人ホームへの入居というのも選択肢のひとつ。認知症患者が入れる老人ホームは、「グループホーム(認知症対応型生活介護)」「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」「特別養護老人ホーム(特養)」の4つ。

施設への入居にかかる費用は、大きく初期費用となる一時金と月額費の2つ。公的施設か民間施設かによって金額は大きく変わり、介護保険の適用有無も異なります。厚生労働省の調査によると、遺族年金の平均受取額8万円。また国民年金が満額であれば月6.6万円。夫(父)を亡くした妻(母)であれば、平均14万円程度の年金収入があると考えられます。介護度が上がったり入居が長期化しても無理なく支払い続けられるよう、資産状況も合わせて検討をします。

認知症の家族が施設に入居すれば、介護地獄から解放される、めでたし、めでたし……という心境にならない家族は多いようです。

――施設に入れて、本当によかったのか、つい考えちゃいますよね

先日、認知症の80代の母が施設に入居したと投稿した50代女性。母と2人暮らしだったが、徘徊することが多くなり、介護サービスを利用するだけでは無理だと感じたといいます。母は「老人ホームなんて嫌だ!」「この家から離れない!」と反発したものの、最終的には納得した様子だったといいます。

――それでも入居した日の寂しそうな母の姿が目に焼き付いていて

いまは週に2、3回、様子を見に行く程度で、介護の負担はほぼゼロに。しかし自分の決断が正しかったのか、自問自答することも多いといいます。そんななか、ちょっとした事件が起きたといいます。

――えっ、母が⁉

施設から一本の電話。母が職員の目を盗んで施設を抜け出し、帰ってこないというのです。

――お母さん、いったいどこに行ったの?

女性も含めて、施設の周辺を大捜索。「もしかして、家に帰ろうとしたんじゃ……」と思い、自宅に向けて車を走らせているところ、その道中で母を発見したといいます。

――スリッパで、こんな距離を歩くなんて

――見つかるまでは、最悪の結果も考えていました

――やっぱり無理やり施設に入れっちゃたから

母を老人ホームに入居させたことへの後悔の念はさらに深まり、大泣きすることもあるといいます。

警察庁令和4年中における行方不明者の状況』によると、2022年度、8万4,910人が行方不明となり、そのうち80代は1万3,749人。高齢者の行方不明者は増加傾向にあります。また所在確認等された行方不明者は8万0,653人で、そのうち1万8,562人が認知症が原因で行方不明に。491人が死亡と、最悪の結果となっています。

認知症の入居者が老人ホームから脱走……実際に多くの施設で確認されています。認知症は、引越しなどの生活環境の変化がストレスとなり、症状を悪化させることがあるという報告も。帰宅欲求により徘徊することが多くなるとか。

老人ホームとしても施錠を増やすなど、対策を徹底していますが、火災などの際に避難に支障をきたすため、完全に施錠をするのは現実的ではありません。また施錠をし過ぎると拘束・監禁だと言われかねず、また慢性的な人手不足により、常に見守りをすることにも限界があります。

認知症……在宅で介護をするのも負担。介護施設に入居したからといっても、絶対安心・安全とはいえず、家族の気苦労は絶えることはありません。

(※写真はイメージです/PIXTA)