総務省11月24日に、10月の消費者物価指数を発表しました。前年同月と比べて2.9%上昇、25ヵ月連続の上昇です。他方で日銀は「物価上昇率2.0%」を目標に金融緩和政策を続けてきており、数字だけみれば既に達成されている状態ですが、今なお継続しています。なぜなのか、その理由について解説します。

消費者物価指数(CPI)とは

まず、消費者物価指数とは何なのか、おさらいしておきましょう。

消費者物価指数CPI(Consumer Price Index))とは、消費者が購入する計582品目の商品・サービスの価格(小売価格)の動きを計測するものです。総務省統計局が毎月発表し、政府の経済政策や年金の支給額を決める際の指標となります。

日銀が金融緩和政策において目標としている「物価上昇率年2%」の「物価上昇率」も消費者物価指数を基準とするものです。

消費者物価指数には、以下の重要な3つの指数があります。

・総合指数(CPI

・生鮮食品を除く総合指数(コアCPI

・生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI

生鮮食品の価格は季節的要因や天候に大きく左右され、エネルギー(電気、都市ガス、プロパンガス、ガソリン、灯油)は原油価格の影響を大きく受けるので、これらを除いた「コアCPI」「コアコアCPI」が重要視されています。

政府の「エネルギー価格抑制策」が消費者物価指数を引き下げている

2023年10月度の消費者物価指数(2020年を「100」とした場合の数値)は以下の通りです。

【2023年10月度の消費者物価指数(総合CPI、コアCPI、コアコアCPI)】

・総合指数(総合CPI):107.1(前年同月比3.3%上昇、前月比0.7%上昇)

・生鮮食品を除く総合指数(コアCPI):106.4(前年同月比2.9%上昇、前月比0.5%上昇)

・生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI):105.8(前年同月比4.0%上昇、前月比0.1%上昇)

生鮮食品及びエネルギーを除いた「コアコアCPI」が前年同月比で4.0%増と、他の指数より高くなっています。これは、政府が電力・都市ガスの小売事業者等に補助金を交付してエネルギー価格が抑えられていることによるものです。実際、エネルギー価格は前年同月比で全体として-8.7%となっており、消費者物価指数への寄与度は-0.75となっています。

特に「電気代」(-16.8%)と「都市ガス代」(-13.8%)が大きく下がっています([図表1]参照)。また、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響(寄与度)が−0.49と試算されています(内訳は「電気代」が−0.41、「都市ガス代」が−0.08)。

これに対し、灯油(+4.8%)、ガソリン(+5.0%)は値上がりしています。政府は価格抑制のため、燃料油元売事業者等に対する「燃料油価格激変緩和補助金」の支給を行っていますが、ガソリン等の価格高騰に追いついていないことがうかがわれます。

以上、政府のエネルギー価格抑制策が全体を引き下げており、もしそれがなければ、消費者物価指数はもっと高かったということになります。

日銀の「物価上昇率2%」の数値目標の「限界」

日銀は2013年以降、「物価上昇率2%」を目標として、大規模な金融緩和政策をとってきました。金利をきわめて低い水準に抑えることで、企業や個人が融資を受けやすくし、また、銀行預金を株式等への投資へと振り向けるためです。また、円の価値が下がって海外からの投資が活発化する効果も期待されていました。

日銀には、この金融緩和政策によって、企業の業績の向上につながり、物価が上昇し、賃金も上昇するという目論見がありました。

前述したように、消費者物価指数は「物価上昇率2%」を大きく上回っており、その状態が継続しています。したがって、数字上は目標が達成されているということになります。しかし、日銀は、当面、金融緩和政策を継続するとしています。なぜでしょうか。

日銀が設定した「物価上昇率2%」という目標は、前述したように、企業の業績の向上、物価の上昇、賃金の上昇が伴っていることが前提条件になっています。

ところが、現在の物価上昇は、2022年3月に始まったロシアウクライナ侵攻による世界的な資源価格・食料価格の高騰と、昨今の円安の影響によるものです。企業の業績の向上によるものではありません。また、物価上昇に労働者の賃金が追いついていません。

このように、消費者物価指数を基準とした「物価上昇率」については、その背景にどのような事情があるのかを見極める必要があります。また、「コアコアCPI」の数値からはエネルギー価格が値下がりしているように見えますが、それはあくまでも政府が行っている価格抑制対策によるものです。

日銀の植田総裁は、昨今、再三にわたり、物価上昇に賃金の上昇が伴うことが重要であると強調しています。つまり、「金利の抑制」⇒「融資、投資の促進」⇒「企業の業績向上」⇒「物価上昇」⇒「賃金上昇」という流れができなければならないということです。日銀は7月と10月に相次いで長期金利の上限許容度を引き上げる「イールドカーブ・コントロールの柔軟化」を行いましたが、基本的な方針は変わっていません。

そんななかで、「物価上昇率2%」という数値は、事実上あまり意味をなさなくなってきているといえます。

他方で、昨今の記録的な円安は、多くの国が「利上げ」を行うなか、日本が「超低金利」を維持しているため「内外の金利差」が発生していることによるものです。それが、物価高騰を招き、国民生活に重大な影響を及ぼしているという面があります。

超低金利を当面維持するにしても、方針転換して利上げに転じるにしても、日銀は、難しい政策判断を迫られています。

(※画像はイメージです/PIXTA)