●ドラマで人気急上昇中のモンゴルに注目。食文化をモンゴル人に話を聞いて分かった意外な食べ物事情とは?

 2023年の夏ドラマで大人気となったTBSドラマ「VIVANT」。架空の国バルカ共和国の美しい風景は、ハラハラドキドキの展開の中でも見るものを惹きつけてくれました。このロケ地は日本とも親睦の厚い「モンゴル国」。日本からは直行便で5時間半と近く、今後旅行にも注目される国です。

 同じアジア圏にありながら、まだあまり知られていないモンゴルの食文化。その実態を探るべく、急遽日本で暮らすモンゴル人2名を、人気のモンゴル料理店に招集。モンゴルの食文化をさまざまに語ってもらいました。

モンゴル人にも地元の味と評判のモンゴル料理『ウランバートル』(両国)
モンゴル人にも地元の味と評判のモンゴル料理『ウランバートル』(両国)

 今回、実態調査として訪れたのは、JR両国駅から徒歩3分にある、モンゴル料理の店『ウランバートル』。どのレストランサイトでも高得点を獲得している人気店です。そして、モンゴルの食文化について語ってくれたのは、モンゴル人のヤガーンバートル・バトトゥシグさんと、サラさんです。

令和4年に引退した魁
令和4年に引退した魁

 ヤガーンバートル・バトトゥシグさんですが、どこかで見た記憶がある人も多いはず。芝田山部屋所属の元力士で、四股名は「魁 猛(さきがけ たけし)」です。いっぽうサラさんは、モンゴル伝統医療研究者で医師。ふたりは幼なじみで、とても仲良し。今回は、日本人が知らない‘ガチモンゴル’を教えてもらいます。

モンゴル人の主食は肉? 羊と牛を良く食べる

モンゴルの代表的な料理
モンゴルの代表的な料理

編集部:早速ですが、モンゴルの主食は何ですか?

バトトゥシグさん: 大自然の中で育てた肉が有名です。豚と鶏は少なく、牛と羊、馬、そしてラクダが多いです。

編集部 : ラクダもですか!?

バトトゥシグさん : はい、ラクダも。ヤギもいますしね。

サラさん : 味付けのメインは塩です。岩塩を使って味付けをします。辛い味付けはないですね。

バトトゥシグさん : 香辛料的なものはあまりなく、簡単にいえばシンプル。現在は他の国から、日本のソースとか色々入ってきていますけど、基本は塩です。

編集部: 調理方法はどのような感じですか?

バトトゥシグさん : 煮る(茹でる)、焼く、揚げる、蒸すですね。

モンゴル料理を教えてくれるおふたり
モンゴル料理を教えてくれるおふたり

編集部 : モンゴルでは、赤い食べ物、白い食べ物なんて言い方もありますが、これは何ですか?

バトトゥシグさん : 白はチーズなどの乳製品です。夏場は馬乳酒を飲みます。これを飲むとお腹いっぱいになるので、夏場はガッツリ系をあまり食べないんです。

サラさん: 昔から医療的に見ても、日本の皆さんもそうですが、夏は涼しい食べ物を食べる。冬場はマイナス30度にもなるので、肉を食べてエネルギーを取ります。馬肉を冬場に食べるという習慣があります。

編集部 : 野菜は食べないんですか?

バトトゥシグさん : うーん、ある程度は食べますが、冬が長いので決まった野菜しか食べないかも。じゃがいも、にんじん玉ねぎなどですね。遊牧民は畑を作ることができないので、野菜はあまり食べないです。日本のように、サラダを毎日食べるような習慣はないです。

編集部 : 他には、小麦を使った料理もあると聞きますが。

サラさん : よくピロシキのようなものは食べます。あと、焼き餃子、水餃子、揚げ餃子、焼売とか。包んで、焼く、揚げる、蒸すと、小麦粉でさまざまな形を作って食べるのが主食ですね。

編集部 : 周りの国のロシア、中国などから影響を受けた食べ物もあるということですか?

バトトゥシグさん: その影響ももちろんあります。日本のうどんもそうです。うどんはみんな大好きで、食べない国があるのが、逆に信じられないです。(笑)

うどんは小麦粉から家で作るもの
うどんは小麦粉から家で作るもの

編集部 : うどんは日本のように汁があるものですか?

バトトゥシグさん : 焼きうどんだったり、日本の普通のうどんだったり、蒸したりと、たくさんの形があります。

編集部 : ちなみに日本のうどんは美味しいと感じましたか?

バトトゥシグさん: もうこちらに来てから20年ですから、すっかり日本のうどんに慣れましたが、とても美味しいと思います。でもモンゴルのうどんも、家のお母さんのうどんがやっぱり1番美味いと思います。

サラさん : 日本のうどんはツルンとしている感じ。日本各地で、太い、細いと色々特徴がありますが、モンゴルのうどんは家で手作りなんです。お母さんが手で捏ねて、広げて。子供も7、8歳になると一緒に料理を作るので、毎日作っていました。

バトトゥシグさん : 味やコシ、太さとか、それぞれの家庭で違い、その家の味があります。塩での味付けがメインですが、焼きうどんだったり、出汁うどんだったりとさまざまです。日本は醤油が大事ですが、モンゴルは塩が大事という感じです。

馬乳酒ってなに? 大地の恵みを余すところなくいただく食文化

モンゴル愛が尽きないふたり
モンゴル愛が尽きないふたり

編集部 : お酒はどうですか?

バトトゥシグさん : 私はお酒が大好きです。ビールもありますし、私がいた頃はウオッカが多かったけど。今の若い人たちはワインや、ハイボールなど、色々飲んでいます。

編集部 : 結構たくさんの飲み方があるんですね。

バトトゥシグさん : 今は、たくさんの飲み方がありますね。昔ウオッカしかなかったから、たくさん飲めば身体に良くない。だから今の飲み方は良いと思います。それに馬乳酒もあります!

サラさん : 私もお酒が大好きです。馬乳酒のアルコール度数は、1.2度~5度くらいですよね、ビールと同じなので飲みやすいですよ。

バトトゥシグさん : 馬乳酒は、馬の乳を何回も混ぜながら、仕込みに何日間もかかるのですが、何リットルでも飲めます。最初飲むと下痢するのですが、これを飲むとお腹が減らない。身体にもよく、最初に悪いものを出し、掃除するような役割です。2日目、3日目からはすこぶる体調が良くなります。

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日本に来て20年のバトトゥシグさん
日本に来て20年のバトトゥシグさん

編集部: バトトゥシグさんは元力士の魁さんですよね。

バトトゥシグさん : はい、2つの部屋に所属して、最後は芝田山部屋の力士でした。今はここの広報部長も務めています。

編集部 : 力士は、モンゴルの出身の人が多いですよね?

バトトゥシグさん : 実は意外と少ないんですよ。大体700人の力士のうち、30人くらいしかいない。強い力士がたくさんいるから、そういったイメージがあるのだと思います。

編集部 : モンゴル相撲の人たちは、モンゴルでは、どのようなものを食べているんですか?

バトトゥシグさん: みんな変わらないですよ。うどんや羊を食べています。身体にとても良いですし、冬が長いモンゴルで、何百年も食べ続けられている伝統的な料理です。マイナス30度の中で、寿司は食えないので、やっぱり温かいものを食べたいじゃないですか。(笑)

サラさん : モンゴルの伝統医療では、岩塩を摂るというのは甲状腺疾患などの病気予防に良いと昔から言い伝えられていて、チンギスハンの時代から長らく食べられてきたものです。季節に合わせて、食を変えるのも大切です。夏場は、肉はあまり食べず、ヨーグルトなどの乳製品を食べ、家畜の動物から頂いたものは全て食べるという考え方です。

遊牧民と首都在住で食文化は違うの?

編集部 : 首都ウランバートルと遊牧民では食の違いはあるんですか?

バトトゥシグさん : 大きな違いはないと思います。基本的な食への考え方は一緒なんじゃないかな。ウランバートルではレストランもたくさんあって、世界の料理も食べられますし、大都会です。モンゴルというとすぐに遊牧民と思い、何もなく食べ物もないと思われがちですが、首都ではビル群が立ち並ぶ都会で、ネット環境も整い、何でもあります。

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医療的観点からも食を語るサラさん
医療的観点からも食を語るサラさん

編集部 : 最近話題になったドラマ「VIVANT」でも首都の様子が出ていました。また、遊牧民の羊と一緒に逃げるシーンで、現地警察官が羊に向かって発砲しなかったのが印象的でした。

バトトゥシグさん : 「VIVANT」はとても面白かったです。羊に向かって発砲しなかったというのは、モンゴルでは家畜をとても大切にしているからです。それはとてもいいですよね。なんでもかんでも殺すのではなく、大事にして育てているので、良い印象を残せたのかなと思います。ドラマで出てきた食事もモンゴルの一般的なもので、よく食べるものです。

編集部 : 今日はその中で出てきた料理も食べられるとのことで、楽しみにしています。

「VIVANT」でも登場した羊肉の特大揚げ餃子に、みんな大好き焼きうどん!

肉汁たっぷりの「グリーン・ホーショール」385円(税込)
肉汁たっぷりの「グリーン・ホーショール」385円(税込)

編集部 : 料理を解説してくれるのは店主のアリオンバヤル・ウヌルジャラガラさんです。アリオンバヤルさんも元力士ですよね。

店主さん : はい、元力士で四股名は白馬でした。魁の少し先輩です。引退した後は、母がやっていたこの料理店を引き継ぎました。

店主のアリオンバヤル・ウヌルジャラガラさん
店主のアリウンバヤル・ウヌルジャルガルさん

編集部 : この料理はピロシキのような感じですね。

店主さん: これは「グリーン・ホーショール」という料理で、中に羊のひき肉を入れ揚げたものです。日本でいえば「ホーショール」は揚げ餃子(野菜も入れているので、グリーン)。モンゴルではとても人気の料理で、どこへ行っても食べられます。

編集部 : お二人もよく食べられるのですか?

バトトゥシグさん : よく食べているから、こんなんなっちゃったんですよ(笑)。でも羊肉だしヘルシーなんですよ。

店主さん : モンゴルでは肉は手で切る場合もあるし、機械でも荒くカットして、肉汁をたっぷり楽しめる料理です。うちは粗挽きで、シンプルな塩味です。

羊肉の焼きうどん「ツォイヴァン」990円(税込)
羊肉の焼きうどん「ツォイヴァン」990円(税込)

アリオンバヤルさん : これはモンゴルの焼きうどんで、「ツォイヴァン」という料理です。モンゴルの男性が大好きな料理で、羊の肉と手打ちのうどんです。野菜はにんじんピーマンパプリカモンゴルでは野菜はその家々でそれぞれ違うものを入れます。

店主さん: この料理の味付には、「羊の塩茹で肉のスープ」の出汁を使い、モンゴルの岩塩で味付けをしています。

ミルクティーは塩味? モンゴルのごちそうを味わう

ミルクティーの水餃子「バンシ・タイ・ツアイ」955円(税込)
ミルクティー水餃子「バンシタイ ツァイ」955円(税込)

編集部: 次は「バンシタイ ツァイ」という料理です。

店主さん: これは羊肉の水餃子ミルクティーで煮た塩味のスープで、ごはんが入っています。

編集部 : 珍しいですよね! 日本ではミルクティーは甘い飲み物です。

店主さん : モンゴルでは、よくミルクティーを飲みますが、甘くないんです。だから料理にも合わせやすく、これは塩味になっています。逆に日本に来て、ミルクティーを飲んだ時に甘かったので、びっくりしました。(笑)

バトトゥシグさん、サラさん : そうそう、びっくりした!

バトトゥシグさん : 羊の脂が乗ったミルクティーが美味いんですよ~。牛乳でコーティングされるので、これを食べると二日酔いにもならないんですよ。

モンゴルのごちそう「チャンサン・マハ」3500円(税込)
モンゴルのごちそう「チャンサン・マハ」3500円(税込)

編集部 : 最後は「チャンサン・マハ」という料理です。

店主さん : モンゴルおもてなし料理の、「羊の塩茹で肉」です。これは毎日食べるような料理ではなく、来客があったときに、新鮮な羊料理でもてなすというものです。普段はほとんど食べない料理で、特別な日に食べる料理です。

編集部 : ソースがついていますが、これはなんですか?

店主さん : モンゴルの岩塩で塩漬けにしたニラに、茹でた出汁を入れたものです。羊は塩味がついていますが、足りなければこれをかけて食べます。

編集部 : これはどのようにして食べるんですか?

バトトゥシグさん : お父さんが切ってあげるんですよ。1枚1枚カットしてみんなに配ります。女性はやらないですね。

切り分けるのは男性の仕事
切り分けるのは男性の仕事

店主さん: 後は子供たちがガブっと食べていますね。

サラさん : 骨つきの肉を手で持って食べるのは、漢方から見ても指先に温度を感じると、血の巡りが良くなると言われています。他にも羊の丸焼きに使う石とかも同じ効果がありますね。

バトトゥシグさん :これは伝統的な料理でみんな大好きな特別な料理です。モンゴルを代表するごちそうなので、ぜひ食べてみてください!

初めてのモンゴル料理はどれも美味しく大満足。大地の恵みの素材を生かし、ひとつひとつ丁寧に作られた料理が印象的でした。ミネラルをたっぷりと含んだ岩塩での味付けはとってもやさしく、心までも温まるような、そんな料理にほっこり。いつかモンゴルへ行って、現地の料理を食べたいと思いました。近くに行ったらぜひ! 予約必須の人気店ですが、本場の味を体験してみてください。

●SHOP INFO

店名:モンゴル料理ウランバートル

住:東京都墨田区両国3-22-11-2F
TEL:03-6411-4298
営: 11:30~14:30 (L.O.14:00)、17:30~22:00(L.O.21:30)
休:年中無休
https://ulaanbaatar-ryogoku.com

協力:モンゴル観光協会日本委員会 日本プロモーター ㈱ジャパン・エア・トラベル・マーケティング
本場モンゴル料理が食べれる各種ツアーはこちら!
https://www.jatm.co.jp/tour/

●出演者プロフィール

ヤガーンバートル・バトトゥシグさん

モンゴルウランバートル出身。芝田山部屋所属の元力士で四股名は「魁 猛(さきがけ たけし)」。最高位は十両十枚目、令和4年3月場所で引退。現在は日本大学経済学部に通いながら、会社を経営。スマホでカードにタッチするだけで情報が読み込める「デジタル名刺」の促進をしている。会社紹介:TNFChttps://tandss-llc.com/company/

トゥムルフヤグ サランザヤさん(サラさん・モンゴル伝統医療研究者、モンゴルで医師)
モンゴルで医師を務め、現在は日本の貿易会社に勤務。日本とモンゴルの架け橋になるべく、文化や医療などさまざまなことを勉強中。

●著者プロフィール

矢巻美穂(やまき・みほ)
国内外の旅行雑誌を中心に活動するカメラマンで、撮影から執筆・編集作業まで行う。単著としてネパール、台湾、ウズベキスタン、韓国、ウラジオストクなどのフォトガイドブックを執筆。近著は『東京で台湾さんぽ』(イカロス出版)。また、YouTubeで「旅ちゃんねる MinMin Tour」をオープン。これまで取材に行って、本当に美味しかった店や行ってよかった人気スポットを紹介。

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