老後の資産運用は、生活費を枯渇させないということが基本戦略です。お金を運用して増やす前に、まず家計の資産からどれくらいの金額を投資できるるのか、またそこからどのような目的で投資を行うのか、明確化してプランを立てる必要があるでしょう。CFPの藤川 太氏が監修した『60歳からの得する! NISA大改正』(ART NEXT)から一部抜粋して紹介します。

60歳時点での「老後資金の準備状況」に応じて戦略を立てる

お金を運用して増やす前に、まず、家計の資産からどれくらいの金額を投資できるか考えなければなりません。もし運用中に経済ショックが起こり、資産が大幅に目減りしてしまったら、ほとんどの人は心が折れて立ち直れなくなってしまいます。

特に、60歳以降の投資は、「当分使わないお金」すなわち、たとえ5~10年株価が低迷しても生活に影響が出ないお金で行うようにしましょう。

「当分使わないお金なんてない、投資に回すお金がない」という人もいるかもしれません。しかし、2008年に起きたリーマンショックでは、相場が持ち直すまで5年かかりました。最悪の事態を想定しておく必要があるのです。

もし、資金が乏しいならば、60歳以降もできるだけ長く働き、年金を「繰り下げ受給」で増やすなどして、生活費を枯渇させないということが基本戦略になります。

そして、投資するにあたっては「自分が何のために投資するのか」という目的を明確にしましょう。これからラストスパートで老後資金を「増やしたい」のか(ラストスパート運用)、それとも、退職金などの資金を減らさずに「長持ちさせたい」のか(資産長持ち運用)。前者と後者では、運用に対する考え方、「リスク許容度」がかなり異なります([図表1]参照)。自分がどちらのタイプなのか、よく考えてみてください。

◆これからラストスパートで老後資金を「増やしたい」場合

まず、ラストスパート運用、すなわち、これからラストスパートで老後資金を増やしたい場合は、以下のポイントに留意する必要があります。

【ラストスパート運用のポイント】

・焦ってリスクをとりすぎない

・リスクが中程度の商品を中心にポートフォリオを組む

・余裕資金を投資に回す

・継続雇用など収入がある期間が終わったら、ポートフォリオを見直す

資産を増やすには、ある程度リスクをとる必要があります。そのためには、定年後も継続雇用制度などを活用し、できるだけ長く働いて労働収入を得ることが必須です。

リスクが中程度の商品を中心にポートフォリオを組みます。たとえば、「国内・世界債券」計30~50%と、「国内・世界株式やREIT(上場不動産投資信託)」合計50~70%を組み合わせます([図表2]参照)。

◆退職金や蓄えた資産を「減らさず長持ちさせたい」場合

これに対し、資産長持ち運用、すなわち、退職金や蓄えた資産を減らさず長持ちさせたい場合は、以下のポイントに留意する必要があります。

【資産長持ち運用のポイント】

・低リスク運用が原則

・退職金や老後資金を全額一気に投資しない

・相場の上がり下がりにとらわれず定時定額投資

・投資経験が少ない人は株式の割合を30%程度に抑える

老後資金を長持ちさせたいなら、大きなリターンを期待しないことです。長期にわたり運用し、元本割れのリスクを抑えながら、取り崩し時期をなるべく遅くします。

資金に余裕があっても低リスク商品中心のポートフォリオを組みます。たとえば、「国内・世界債券」計50~70%と、「国内・世界株式やREIT(上場不動産投資信託)」合計30~50%を組み合わせます([図表3]参照)。

金融商品の「種類」と「リスク」を理解して投資対象を選ぶ

投資対象となる金融商品にはさまざまな種類があり、リスクの程度も異なります。

投資でいう「リスク」とは、リターンの大きさの振れ幅を意味します。価格が大きく動く株は、その振れ幅が大きいことから「リスクが高い」といわれます。

リスク&リターンは比例した関係にあり、大きなリターンが期待できる金融商品は、大きなリスクも伴います。リスクが大きい投資は、成功する人と失敗する人の二極化を生みます。一方、リスクが小さい投資は、大儲けする人は少ないけれど、大損する人も少なくなります。

老後のお金の運用はどちらがよいかといえば、後者です。リターンはそこそこでも、失敗を減らす運用が望ましいといえます。

そこで、自分の運用に適した投資対象を探すヒントとして、金融商品を「安全性」「収益性」「流動性」という3つの側面から比較してみましょう。

【安全性、収益性、流動性とは】

・安全性:元本割れしにくいこと

・収益性:お金が増えることを期待できる

・流動性:必要なときにすぐに現金化できる

これらのうち、「安全性」と「収益性」は相反する関係にあります。また、「収益性」と「流動性」は相反しやすい関係にあります([図表4]参照)。

おもな金融商品について、「安全性」「収益性」「流動性」を検討すると、それぞれ以下のようになります。

【株式】安全性×、収益性◎、流動性〇

会社が活動資金を集めるために発行した株を、証券会社を通じて売買。値上がり益、配当、株主優待等のリターンに対して、値下がりや倒産等のリスクもある。

【債券】安全性〇、収益性△、流動性〇

国や企業などが資金調達のために発行。満期時に受け取れる金額や、利息の条件があらかじめ決められている。安全性は高いが途中で売却すると損失が出ることもある。

【外貨預金】安全性△、収益性△、流動性△

日本円を外貨に換えて預ける預金。一般的に円預金より利息が高く、預けたときより円安になると為替差益が期待できるが、逆に預けたときより円高になると元本割れするリスクもある。

【投資信託】安全性△、収益性〇、流動性〇

多数の投資家からお金を集め、専門家が投資、運用し、損益を投資家に還元する。株式、債券、不動産などの組み合わせや、投資対象によって、リスク&リターンが異なる。

【金(ゴールド)】安全性◎、収益性△、流動性〇

貴金属の金を購入し値上がり益を得る。金は世界情勢が不安定なときやインフレにも強い資産とされているが配当や利子はなく、価額変動リスクだけでなく為替変動リスクも受けやすい。

【預貯金】安全性◎、収益性△、流動性◎

銀行などにお金を預け、出し入れも自由にできる。定期的な利息の支払いと元本が保証されている。安全性と流動性は高いものの、超低金利下では収益性がほとんど期待できない。

このように、それぞれの金融商品を「安全性」「収益性」「流動性」の3要素に当てはめてみると、すべてを満たすものは存在しないことがわかります。特に、高い収益が期待できる金融商品への投資は、リスクも高いことを覚悟しなければなりません。ローリスク・ハイリターンというのはありえないのです([図表5]参照)。

安全で儲かり、すぐに換金できる商品はないということです。「安全性」「収益性」「流動性」の3要素のうち、自分がどれを重視するか考えてみましょう。

藤川 太

ファイナンシャルプランナー

CFP認定者

生活デザイン株式会社 代表取締役