『伝説の騎士エルロンド』『バトルトード』『スーパードンキーコング』シリーズなどの音楽を手がけたゲーム音楽家、デビッド・ワイズの音楽や活動に迫る短期連載。

参考:【動画】カミナリがデビッド・ワイズの“神曲”を紹介

 前回はデビットのレア社からの退社までを追ったが、最終回となる本稿では、デビッドの新たな門出から近年の活動、そしてデビッドのゲーム音楽への情熱に迫る。

■世界的なラブコール

 2010年3月15日、海外最大級のゲーム音楽アレンジ投稿サイト「OverClocked ReMix(OCReMix)」から、『スーパードンキーコング2』の非公式リミックスアルバム『Donkey Kong Country 2: Serious Monkey Business』がデジタルリリース(フリーダウンロード)された。OCReMixの第2弾企画として2004年にリリースされた『スーパードンキーコング』リミックスアルバム『Kong in Concert: Donkey Kong Country An Arrangement Collaboration』に続く同作には、『シャンティ』シリーズなどで知られるジェイク・カウフマン(virt名義)や、後に『ソウルキャリバーV』のオーケストレーション参加や『ララ・クロフト アンド テンプル オブ オシリス』の音楽を手がけるウィルバート・ロジェII(bustatunez名義)、後にTRANS-SIBERIAN ORCHESRAに参加するマルチミュージシャンのトニー・ディッキンソン(Prince of Darkness名義)など、数十名のリミキサー/ミュージシャンが参加。オーケストラ、アンビエント、トランス、ビッグバンドジャズ、ディスコファンク、ヒップホップ、プログレッシブ・メタル、ニューロマンティックなど、思い思いのジャンルと曲想でデビッドにトリビュートを捧げている。

 そして本作最大のトピックはデビッド本人の参加だ。レア社在籍時代に同僚を通じてOCReMixの存在とゲーム音楽のファンコミュニティの活況を知ったデビッドは「自分の楽曲が第2の人生を歩んでいる」と強く感銘を受けたという。デビッドの好意的な反応を知ったジェフリー・タウサー(『Serious Monkey Business』企画ディレクターの一人)は構想していたリミックスアルバムの企画をデビッドに伝え、デビッドはアルバムの最後を飾る「クレジット【Donkey Kong Rescued(Credits Roll)】」のリミックス「Re-Skewed」で快く応えた。「Rescue」と「Skew(斜めにする/歪める)」をひっかけたタイトルの同曲は、グラント・カークホープのギターとロビン・ビーンランドのトランペットがフィーチャーされ、最後はデビッドによるムーディなサックスソロで締めくくられ、新たな門出にふさわしいメモリアルなものとなった。

 2010年9月23日、任天堂のゲーム音楽に焦点を当てたオーケストラコンサート「Symphonic Legends – Music from Nintendo」(演奏:ケルンWDR交響楽団)がドイツ・ケルンで開催された。コンサートのプロデュースを務めたトーマス・ベッカー(Thomas Böcker)は、すぎやまこういち企画・監修の「オーケストラによるゲーム音楽コンサート」のコンセプトに深く感銘を受けた人物で、大編成オーケストラを伴ったゲーム音楽コンサートを海外で初めて成功させた第一人者として知られる。『スーパードンキーコング』からは「水中レベル WATER MUSIC【Aquatic Ambience】」が選曲され、編曲を浜渦正志(『サガ・フロンティア』シリーズ、『ファイナルファンタジーXIII』など)、ピアノ演奏をベンヤミン・ヌスが務めた。2011年6月1日には「Symphonic Legends」のセットリストをベースにした「LEGENDS」(演奏:ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団)がスウェーデン・ストックホルムで開催され、「水中レベル WATER MUSIC【Aquatic Ambience】」が再演された。デビッドはトーマスから招待を受けて現地に足を運んでいる。長年の任天堂ファンであるデビッドは、『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』『スターフォックス』などに並んで自身の楽曲が演奏されたことに「夢がかなった」と感激をあらわにしている。

■デビッド・ワイズ・リターンズ──『ドンキーコング トロピカルフリーズ』

 2010年12月9日(アメリカでは11月21日)、『スーパードンキーコング』シリーズのリブートとなる『ドンキーコング リターンズ』がWii用ソフトとして発売された。開発は『メトロイドプライム』シリーズを手がけたアメリカ・テキサス州オースティンのレトロスタジオ(任天堂の完全子会社)が担当し、『メトロイドプライム』三部作開発後に主要スタッフが退社し、今後の方向性を模索していた同社にとって心機一転の一作となった。社長兼CEOのマイケル・ケルボーは、Nintendo of America在籍時代に『スーパードンキーコング』シリーズの製品テストに携わっており、デビッドとも旧知の間柄である。

 過去の『スーパードンキーコング』シリーズの楽曲をしっかりと活かすという構想は『ドンキーコング リターンズ』の開発初期段階から宮本茂と岩田聡の共通認識としてあり、任天堂企画開発本部のベテランコンポーザーである山本健誌(『スーパーメトロイド』以降のメトロイドシリーズなどを担当)による音楽監修と、濱野美奈子、田島賢、後田信二、松岡大祐の音楽制作チームのもとに、旧作楽曲のリメイクと本作オリジナル曲にを統一感をもたせてもって仕上げ、新旧のプレイヤーに訴求するサウンドを目指した。「ジャングルレベル JUNGLE LEVEL【DK Island Swing】」は、よりプリミティブなアレンジがなされた「バナナジャングル」「パクパクパニック」や、ソロ回しを交えた渋めのビッグバンドジャズアレンジ「サンセット海岸」などで登場している。サウンドトラックは一部楽曲を収録したCD『DONKEY KONG RETURNS ORIGINAL SOUNDTRACK』がクラブニンテンドーの交換アイテムとして流通した(現在は入手不可)。

田邊 (前略)あと宮本さんから言われたのは、「音楽を変えないでほしい」と。それは宮本さんだけでなく、岩田さんからも言われましたよね。

岩田 はい(笑)。「音楽は大事にしてね」と最初のミーティングのときに、わたしも言った覚えがあります。実は、わたしのiPodには『スーパードンキーコング』のサントラが入っていて、いまでもよく聴いているんです。そんなことはあまり頻繁にはないんですけど、『スーパードンキーコング』のときは、すごく印象的な曲ばかりでしたので、サウンドトラックCDを買った覚えがあります。

 たぶん、スーパーファミコン版がたくさんの人たちに受け入れられた理由として、グラフィックがすごかったり、ゲームとしての面白さがあったことに加えて、あの音楽も含めてお客さんの心に刺さっていると思うんです。

★「社長が訊く『ドンキーコング リターンズ』「4. 手に汗握るアクションに」」
【任天堂公式ホームページ|2010年12月】

 2014年2月13日にはシリーズ続編『ドンキーコング トロピカルフリーズ』がWii U用ソフトとして発売。山本健誌が前作に引き続き音楽監修を務め、音楽制作にデビッド・ワイズ、濱野美奈子、松岡大祐、後田信二、田村理遊が参加。メインコンポーザーは、もちろんデビッドである。マイケル・ケルボーから連絡を受けたデビッドは、その後レトロスタジオで宮本茂、スコット・ピーターセン(『ドンキーコングリターンズ』音響監修)、山本と打ち合わせを行った。自分と同じくファミコン時代からゲーム音楽制作を続ける山本と自身の共通点(奇しくも、両人ともにキャリアのスタートは1987年である)を知ったデビッドは、ともに制作に携われることを心から光栄に思ったという。

 本作では多くのコースに固有の楽曲が用意され、コースの進行や環境の変化に応じてアレンジも変化するインタラクティブな趣向にも重点が置かれているため、シリーズ最大級のボリュームを誇る。楽曲制作にあたってデビッドは自身の生演奏とVSTインストゥルメント(ソフトウェア音源)の演奏を状況に応じてミックスし、かつて音源的制約のなかで生み出された『スーパードンキーコング』シリーズの楽曲を適切な形でアップデートしつつ、卓越したメロディセンスとアイデアあふれる完全新曲で衰え知らずのクリエイティビティを示した。デビッドのゲーム音楽家キャリアにおける一つの集大成といっても過言ではない内容だけに、サウンドトラックアルバムが制作されなかったのは誠に惜しまれる。

 さかのぼること約20年前、『スーパードンキーコング』開発初期の頃にデビッドが想定していたビッグバンドジャズスタイルは、「ジャングルレベル JUNGLE LEVEL【DK Island Swing】」をアレンジしたラビリンスステージ(Secret Temple)BGMやスタッフロールBGM、『ドンキーコング リターンズ』の「スリル!ギアフライト」をアレンジした「飛び出せ!チーズじごく(Rodent Ruckus)」(コース2−B)や「雪玉のどうくつ(Blurry Flurry)」(コース6-4)で存分に展開されており、ようやく本懐を遂げた感がある。

 「水中レベル WATER MUSIC【Aquatic Ambience】」は、「マングローブのいりえ・水中」(コース1-1)など、複数のアレンジが用意されている。多くはスーパーファミコン版の濃密なアンビエント感を踏襲したアプローチだが、トロピカルな曲調からアップテンポなアレンジに一転し、2D視点から斜め俯瞰視点に切り替わるコース演出と鮮やかにシンクロする「レフト・ライト・トロッコ(High Tide Ride)」(コース4-2)に組み込まれたり、『スーパードンキーコング2』の船底コースBGM「船ぞこダイビング【Lockjaw's Saga(Lockjaw's Locker)】」のアレンジとマッシュアップした「いかりの8本足・水中」(コース4−4)といった変化球も登場する。

 「洞窟レベル THE CAVES【Cave Dweller Concert】」のアレンジ「ツタがだらりん 水もれどうくつ(Crumble Cavern)」(コース2-A)は、環境音やシンセサウンドが空間を覆い、ささやかにメロディが顔を覗かせる。幽玄な環境音楽として完成された仕上がりだ。「とげとげタルめいろ【Stickerbush Symphony(Bramble Blast)】」のアレンジ「月夜の巨大魚(Savannah Symphony)」ではフルートがフィーチャーされ、楽曲のイメージに新たな広がりを与えている。スタッフロールBGMの後半で登場するアレンジは、デビッドのサックス演奏がライブ感たっぷりにリードしていくという点でも聴き逃がせない。レジェンドコンポーザーのシリーズへのカムバックを感慨深く印象づけている。

 裏打ちのリズムに乗せてギター、フルート、スティールパン、サックスが代わる代わるリードし、ジャムセッション感を演出する「きりの森(Busted Bayou)」(コース1-B)や、カントリースタイルのコードを試行するうちに多彩なギターサウンドで高揚感をもたらす曲想に発展していった「おち葉まう風車の林(Windmill Hills)」(コース2-1)、オーストリアの伝統音楽から着想を得たアコーディオンのメロディにエレクトロサウンドをミックスした「バンチバルーンブリッジ(Alpine Incline)」(コース2-5)、雄大なパーカッションサウンドとシンセサイザーの低音のうねりが絡み合い、燃え盛るコースをスペクタクル感たっぷりに表現する「ヘルファイアサバンナ(Scorch 'n' Torch)」(コース3−4)などの楽曲は、ハイブリッドなアプローチの好例といえるだろう。アフリカンヴォーカルのサンプルや任天堂スタッフによるコーラス(メニュー画面BGMでも耳にすることができる)を活用した「サバンナパレード(Grassland Groove)」(コース3-1)は本作随一の躍動感あふれる楽曲だ。

 「しんぴの深海(Amiss Abyss)」(コース4−3)は、アコースティック楽器の音色がたゆたいながらメロディの良さを際立たせてゆく。シンプルで奥深い、水中BGMの新たな名曲だ。「きょうふのスーパースライサー(Fruity Factory)」(コース5−3)は、マリンバを主体としたパーカッシブで透明感あふれる曲調に差し挟まれる口琴風の低音の持続音がミステリアスなアクセントを与えている。アコースティックギターとコーラスの響きが織りなす神秘性や、すべてを包み込むかのようなスケール感に心洗われる「いてつくビーチ(Seashore War)」(コース6−2)は、デビッドが制作中に会心の手応えを感じ、お気に入りの一曲として挙げる。初期のバージョンではサバンナアイランドでの使用を想定していたという点も興味深い。

■和風サウンドへの接近──『Tengami』

 2014年2月19日に配信されたパズルアドベンチャー『Tengami』は、独立後のデビッドが最初に音楽を手がけたインディーゲームである。同作はレア社で『Kinect スポーツ』などの開発に参加したジェニファー・シュナイダーライトと、『スターフォックス アドベンチャー』『カメオ:エレメンツ オブ パワー』でリードソフトウェアエンジニアを務めたフィル・トセルが共同設立したインディーゲームスタジオ・Nyamyamのデビュー作にあたる。開発はジェニファー、フィル、アートワーク/エフェクト担当の東江亮(氏もレア社出身である)の3人を中心に進められた。

 日本神話をモチーフにした純和風の世界観や和紙で表現されるビジュアル、飛び出す絵本の仕掛けを取り入れたゲームシステムで幅広い年齢層の支持を獲得し、世界各国で好セールスを記録したことでも話題となった。「ゲームを初めて見たとき、サウンドトラックでどういった実験をしたいか直感的にわかった」というデビッドは、箏の音色を全面的にフィーチャーし、エレクトロ/アンビエント・ミュージックの曲想と侘び寂びの情緒が結びついた楽曲で新たな方向性を模索している。

Whilst I've listened to a lot of Japanese and Chinese music, I have never really explored the instruments, such as the Koto, in any great depth. I'm fascinated with the way the musicians are able to bend the strings to add to the intrigue of the melodies. That's something I'd like to learn more about and develop more if I ever have the opportunity.

(日本や中国の音楽はよく聴いてきましたが、箏のような楽器をあまり深く追求したことがなかった。演奏者が弦を曲げてメロディを魅力的にする方法に魅了されました。機会があればより勉強して発展させたいですね)

If I were to do another game in a similar style to Tengami, I would at least get hold of a real Koto and have a few lessons to understand in more depth how the instrument works. For Tengami I merely watched and emulated as best as I could, so I’m still very much at the beginning of this journey.

(もし自分が『Tengami』と同スタイルのゲームを作るとするなら、本物の箏を入手して、楽器の仕組みを深く理解するためにレッスンを受けると思います。『Tengami』では見よう見まねで出来る限りのことをやっただけなので、この旅はまだ始まったばかりです)

★Feature Q&A: David Wise on composing music for Tengami
【The Ongaku|2014年6月11日】

■かつての同僚たちが再集結した『Yooka-Laylee』『Tamarin』etc

 その後、デビッドはスティーブ・ジャクソンのゲームブック四部作『ソーサリー』の第1作『魔法使いの丘(シャムタンティの丘を越えて)』を原作とするアドベンチャーゲーム『Sorcery!』(開発:Inkle/2013年5月配信)、クラシックスタイルの横スクロールシューティングゲーム『Star Ghost』(開発:Squarehead Studios/2016年3月配信。2017年11月30日にNintendo Switch向け日本語版配信)、ヘビを操作する3Dアクションゲーム『スネークパス』(開発:Sumo Digital/2017年3月配信。2018年10月25日にPlayStation 4・Nintendo Switch向け日本語版配信)、オープンワールド型アクションゲーム『Yooka-Laylee』(開発:Playtonic Games/2017年4月配信。2018年6月14日にNintendo Switch向け日本語版、2021年7月17日にXbox One向け日本語版配信)の音楽を制作。Inkle、Squarehead Studios、Playtonic Gamesはいずれも元レア社のクリエイターがコアメンバーとして名を連ねている。

 『ソニック&セガ オールスターズ レーシング』『リトルビッグプラネット3』などの開発を手がけてきたSumo Digitalが自社オリジナルタイトルとして発表した『スネークパス』は、独自の物理エンジンを採用し、ヘビのうねる動きをゲーム性に落とし込んだユニークな一作。『Snake Rattle 'n' Roll』『バンジョーとカズーイの大冒険』など、往年のレア社の開発タイトルから多大な影響を受けたクリエイターたちによって開発が進められた。とりわけゲームデザインを手がけたセブ・リーゼは筋金入りのデビッド・ワイズファンでもあり、開発が本格化する前からデビッドによるサウンドトラックを熱望していたという。デビッドは熱帯地域と「天」「地」「火」「水」をモチーフとした各ワールドの有機的な風景やゲームの緩やかな操作感との調和を図るべく、竹製打楽器や木製管楽器をふんだんにフィーチャーしたラテン音楽スタイルの楽曲を制作し、セブの念願を叶えた。サウンドトラックは500枚限定のレコード盤としてリリースされた。

 カメレオンのユーカとコウモリのレイリーのコンビが活躍する『Yooka-Laylee(ユーカレイリー)』は、『バンジョーとカズーイの大冒険』の精神的後継作として開発された。ワーキングタイトルは『Project Ukulele』。ユーカとレイリーのネーミングもウクレレに由来している。ディレクターは『スーパードンキーコング』『バンジョーとカズーイの大冒険』などのメインプログラマーや『あつまれ!ピニャータ』のプロデューサーを務めたクリス・サザーランド。キャラクターアートディレクターは『バンジョーとカズーイの大冒険』のキャラクターデザインや『あつまれ!ピニャータ』などのアートを手がけたスティーブ・メイレス。キャラクターアーティストは『バトルトード』『キラーインスティンクト』『ディディーコングレーシング』などにグラフィックデザイナーとして関わったケビン・ベイリス。コンポーザーはグラント・カークホープ、スティーブ・バーク、デビッド・ワイズと、レア社黄金期メンバーのそろい踏みである。気心が知れた仲間たちとの制作は和気藹々と進められ、レア社時代の雰囲気が再び戻ってきたかのようであったという。それぞれの担当曲もすんなりと決まり、三者三様のスタイルを示しながらも相互補完的でまとまりを感じさせるサウンドトラックが自然と出来上がっていった。

 グラントはウクレレをフィーチャーしたメインテーマを皮切りに、陽気なアコースティックサウンドやユーモラスなシンフォニックスコアを中心に制作し、『バンジョーとカズーイの大冒険』の雰囲気の再現に注力した。スティーブはゲーム中のミニゲーム(80~90年代のアーケードゲームスタイル)の楽曲を担当し、ストリングスサウンドとチップチューンの鮮やかなミックスを聴かせる。デビッドはミニゲーム(トロッコ)の5つの楽曲、2体のボスBGM、エンディングテーマの計8曲を担当。『スーパードンキーコング』の「マインカートコースター【Mine Cart Madness】」と『ディディーコングレーシング』のスタイルをベースに躍動感を加味したトロッコの一連の楽曲は、きらびやかなシンセサウンドと爽やかなアコースティックサウンドの塩梅が絶妙だ。湿地帯ステージボス「トレブザテンテイクル」のテーマ「Armed and Dangerous」ではハードなパーカッションサウンドを全面に押し出し、都市部ステージボス「I.N.E.P.T.」のテーマ「Track Attack」では熱の入ったギターソロを聴かせるエレクトロ・ブラス・ロックに仕上げた。エンディングテーマ「Tropic Trials」ではメインテーマと同様にウクレレがフィーチャーされ、マリンバ、スティールパン、フルートがにぎやかに彩る。

 2019年10月8日にはスピンオフ作『Yooka-Layleeとインポッシブル迷宮』が配信。本作では一転して『スーパードンキーコング』を彷彿とさせる2Dアクション・アドベンチャーとなり、音楽面においても、『バンジョーとカズーイの大冒険』のイメージを念頭に置いていた前作の方向性を刷新する方針がとられた。元TT Gamesのマット・グリフィンがメインコンポーザーを務め、要所の楽曲をデビッド・ワイズ(13曲)、前作オーディオディレクターのダン・マードック(11曲)、グラント・カークホープ(5曲)が担当。デビッドが「2作目ではウクレレの意外な使い方を試すことのほうがはるかに多かった」と語るように、アイリッシュ・ミュージックやアンビエントテクノ、チェンバーポップスタイルの楽曲にウクレレを積極的に採り入れることで新味をもたらした。

 「Capital Causeway」では中盤のフィドルのメロディが郷愁を誘い、口笛やトランペットも交えて楽しげな雰囲気にあふれた「Frantic Fountains」からは往年のブリティッシュ・ポップの空気も感じさせる。ロー・ホイッスルを交えたアコースティック・アンサンブル「Scareship Scroll」は、デビッドの一番のお気に入りだという。全5曲の「Impossible Lair」ではミクスチャー・ロックやプログレッシブ・メタル的な展開もみられ、ヘヴィでシリアスなアプローチで最終ステージの難易度の高さを印象づける。

 2020年9月10日に配信された『Tamarin』は、ロンドンに拠点を置くChameleon Gamesの開発デビュー作。自然環境と野生動物からのインスピレーションと、『スターツインズ』などのNINTENDO64時代のレア社の開発タイトルを彷彿とさせるレトロな雰囲気、そしてアクション・アドベンチャーとサードパーソン・シューティングを組み合わせたゲームデザインを特徴としている。ビジュアル面と音楽面で元レア社のクリエイターが関わり、コンセプトアートにケビン・ベイリスとリチャード・ボシェ(『ドンキーコング64』開発スタッフ)、キャラクターデザインにスティーブ・メイレスとリチャード、コンポーザーにデビッド・ワイズとグレーム・ノーゲート(サウンドデザイン&アンビエンス・トラックを担当)が名を連ねた。可愛らしい小猿の主人公タマリンが、美麗な大自然のフィールドを闊歩する毒々しい色合いの武装昆虫軍団を銃で殲滅していく絵面に面食らうかもしれないが、リスのコンカーが傍若無人の限りを尽くすブラックユーモア満載のアクションゲーム『Conker's Bad Fur Day』をかつてのレア社が発表していたことを思い返せば、はるかにマイルドな印象である。

 Chameleon Gamesの創設者であり、本作のクリエイティブ・ディレクターを務めたオマー・サウィは一貫して実験的なスタンスで本作の制作に取り組んでおり、クリエイターにも従来とは異なるアプローチをとるよう提案したという。音楽面ではキャッチーなダンスミュージックをオーダーし、デビッドは昆虫軍団の脅威をソリッドなシンセサイザーサウンドで表現した「Insekt Faktory」「Insekt Industries」の2曲で応えている。ロボットボイス風のシンセフレーズを交え、醒めたグルーブ感でじわじわと押す展開が印象的だ。他方で、シンセサイザーでダイナミックに描きだされる「Fraena Forest」はメインテーマ級の存在感を放ち、故郷と家族を昆虫軍団に奪われたタマリンの心象風景をハープとフルートの旋律が物悲しく描く「Tamarins' Home - Burning」や、山々とフィヨルドの広大なイメージを喚起させる「Fraena Mountain」「Eyja Mountain」「Lyngna Fjord」ではアコースティック楽器を基調とした美しいアンサンブルを堪能できる。

■ワールドワイドな講演・音楽活動

 近年のデビッドはイベントへの講演出演のみならず、マルチミュージシャンとしての露出も増えてきている。2016年3月20日、世界的なゲーム音楽コンサートシリーズ「Video Games Live」のロンドン公演にロビン・ビーンランド(トランペット)とローラ・イントラビア(ウインドシンセ)とともに登壇し、オーケストラをバックに『スーパードンキーコング』の楽曲でサックスを演奏。2017年にはアメリカ有数のゲーム音楽ライブ&ファンイベント『MAGFest(Music And Gaming Festival)』(1月5日~8日)にパネリストの一人として出演。その後、メキシコのアートフェスティバル『Pixelatl』(9月5日~10日)、アイルランドのビデオゲームイベント『PlayersXpo』(10月28日・29日)、『Yorkshire Games Festival』(11月8日~12日)でゲーム音楽制作についての講演を行う。ノルウェーのレトロゲームフェスフェスティバル『Retrospillmessen(Retromessa)』には2017年からほぼ毎年ゲスト参加し、2019年と2021年には友人のナイジェル・アトキンス(ドラムス)とフィル・ジョーダン(ギター)とのバンド「David Wise 5」としても出演。2018年にはクウェートのビデオゲームエキスポ『The Games & Media Expo(GX)』(4月12日~14日)でトーク&ライブ(ナイジェルとのデュオ編成)を行い、イギリス・ノッティンガムで開催された国際日本ゲーム研究カンファレンス『Replaying Japan』(8月20日~22日)や、ブラジル・マナウスの『Feira do Polo Digital de Manaus』(11月27日~29日)でも同様のプログラムを行った。

 2020年1月2日~5日に開催された『MAGfest 2020』では、サポートメンバーにジョン・ロバート・マッツ(トランぺット)とダグ・ペリー(パーカッション)を迎えたスペシャル編成のDavid Wise 5としてフルセットのライブパフォーマンスを行い、『スーパードンキーコング』シリーズや『バトルトード』『スネークパス』『スターフォックス アドベンチャー』の楽曲をライブアレンジで演奏した。ライブの最後にはケビン・ベイリス(氏は音楽活動も行っており、バーミンガム出身のハード・ロック・バンド VOODOO JOHNSONにヴォーカリストとして在籍していたこともある)が加わり、ケビンのコミックとデビッドの音楽によるコラボレーションプロジェクト『Salamandos』のメインテーマを初披露した。

 キャッチーなハード・ポップソングである『Salamandos』のメインテーマは、2020年8月29日にスタジオバージョン( https://youtu.be/Gk1yAuTkoLc )が公開された。また、ケビンとデビッドはグラント・カークホープとともにビデオゲームをテーマとしたコラボレーション・ユニット RETRO-FUSIONを立ち上げ、「A Video Gaming Christmas」と題したクリスマスソングを2022年12月1日付で配信した 。コロナ禍によってストップしていたDavid Wise 5のライブ活動だが、2023年4月15日にはチリ・サンティアゴのビデオゲームイベント『Gamers City』、8月19日にはノルウェーの『Retrospillmessen』に出演し、再び動きをみせ始めている。

■デビッド・ワイズにとって、ゲーム音楽とは

 2023年でデビッドのゲーム音楽家活動は36周年を迎える。最後に、ビデオゲームやゲーム音楽はデビッドにとってどう在り続けてきたのか、2020年のインタビューの言葉を引用して本稿を締めくくりたい。

I like the medium of video games. It feels like so much more than just another piece of music. It gives the vgm composer the chance to decorate and underpin the story in a very immersive way. And with larger scores, these themes can then be adapted creatively in so many different ways.

I still get excited when I hear my music in the game. The music sounds so much more cohesive when used in the intended environment and it really strengthens the whole experience and wonder of composing soundtracks specifically for video games.

(ビデオゲームというメディアが好きなんです。単なる音楽作品以上のものを感じますね。ビデオゲーム音楽の作曲家は没入感をもたらす方法でストーリーを彩り、支えることができます。そしてより大きなスコアでは、これらのテーマを様々な方法でクリエイティブにアレンジできます。

 今でもゲーム中で自分の音楽を聴くと興奮します。意図された環境で用いられることで、音楽は一層のまとまりをもって聴こえ、ビデオゲームのためにサウンドトラックを作曲する経験や素晴らしさをより強く感じられるんです)

★Donkey Kong Country's David Wise Talks Legacy, Nintendo Switch, and More
【ComicBook.com|2020年8月4日】

(文=糸田 屯)

デビッド・ワイズにとっての“ゲーム音楽”とは