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 海水にはそこで暮らす生物の”ダシ”が溶け込んでいる。フランスの研究者たちは、化粧落としパッドのようなもので、そのダシを”嗅い”でくれる装置を開発したそうだ。

 ちなみにここでのダシとは、うまみ成分たっぷりのアレのことではなく、海洋生物が絶え間なく放出する目に見えない分子のことだ。

 そうした分子を分析すれば、海の健康状態がわかるほか、新薬として利用できるものもあるかもしれない。

 実際、アヴィニョン大学の研究チームは、その新開発の装置を地中海にある海底洞窟で試し、見たこともない分子構造を発見したそうだ。

【画像】 たくさんのダシが入ったスープのような海水

 一滴の海水は、海の生き物の”ダシ”が溶け込んだ薄いスープのようなものだ。

 ダシ=海洋生物由来の分子は、食べても美味しくはないかもしれない。だが、海の生態系の状態を知る手がかりであり、新薬につながる可能性がある天然資源でもある。

 海の研究者にとってはぜひとも調べてみたい物質だが、そのためには海水から小さな分子を集めて、それを濃縮したうえで分析しなければならない。

 そこでアヴィニョン大学の研究チームが考案したのが、「In Situ Marinemolecul ELogger(I-SMEL)」と呼ばれる携帯型装置だ。

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 I-SMEL、すなわち海水を”嗅ぐ”この装置で特徴的なのは、まるでお化粧を落とすリムーバーパッドのようなディスクだ。

 ダイバーがI-SMELをもって海に潜れば、ディスクが水に溶けている分子を吸収してくれる。海から上がったら、しかるべき設備がある場所でサンプルを分析すればいい。

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わずか10分のサンプリング時間で10 リットルの水から海綿体外代謝物を分析できる装置「I-SMEL」/ image credit: 2023 Morgane Mauduit et al

地中海で未知の分子構造を発見

 研究チームは、I-SMELの性能を確かめるため、マルセイユ沿岸の地中海に足を運び、さまざまな海綿が生息する海中洞窟で、サンプル集めをしてみた。

 回収されたサンプルを質量分析計で調べてみたところ、多種多様な元素組成の化合物や、未知の分子構造まで見つかったという。

 こうしたことから、新しい天然産物を探すうえで大いに有望と研究チームは述べている。

 臭素化アルカロイドやフラノテルペノイドなど、海水から集められた代謝産物は、今回調査された海綿3種にも含まれていることが確認された。

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 また、海綿が放出する化合物の中には、濃縮されていたものあった。

 例えば、抗菌・抗ウイルス効果があることで知られている海綿由来物質「アエロプリシニン1」は、海綿(イエロー・ケイブスポンジ)の抽出物より20倍も濃かった。

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I-Smel 装置を使用して分析された3種類の海綿 / image credit:2023 Morgane Mauduit et al

海を傷つけない生態系の健康診断や新薬の発見も

 研究チームは、こうした有望な結果を受け、I-SMELを使えば、海の環境を傷つけることなく、生態系の健康状態を調べたり、創薬につながる新しい分子を探したりできると述べている。

 次のステップは、長期的に行われる海水ろ過や深海での遠隔操作運用に、I-SMEL適応させることであるそうだ。

References:Device 'smells' seawater to discover, detect | EurekAlert! / Underwater device reveals marine chemical diversity | Research | Chemistry World / written by hiroching / edited by / parumo

 
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海に新薬が眠っているかもしれない。海水を「嗅ぐ」装置で未知の分子構造を発見