『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス27巻を熱く語る
キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス27巻を熱く語る

前巻から続く姫路城ウォーズマンVSマンリキ戦のクライマックスから始まり、いよいよ大注目の超人血盟軍の闘いへ。さらにあの主役級超人の完全復活と見どころ超満載です!

●『キン肉マン』第27巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

●"王者"と"王位"、似て非なる闘いの目的

のっけから印象深いのはやはりウォーズマン屈指の名シーンのひとつ「友情インプット完了!!」です。ウォーズマンの危機を救うため、わが身の危険を顧みず行動したキン肉マン。その温かい心に触れたウォーズマンは大切な記憶、正義の心を取り戻すわけですが、この一連のくだりこそ「キン肉星王位争奪編」がこれまでの闘いとは質そのものが違うことを示す、重要場面のひとつだと思うのです。

というのも、これまでの『キン肉マン』は主に"王者"を目指す闘いを描いてきました。最終的に栄光のベルトやトロフィーを手にするため、何よりもまず超人としての力を示すことが求められる闘い。しかし、このシリーズは"王位"を目指す闘いです。

"王者"と"王位"、字面は一文字違うだけですが、中身は全然違います。"王位"を手にするためにはもちろん強さも大事ですが、それ以上に求められるのが品格です。本当にこの候補者は王として相応しいのかどうか、そういう哲学的な試練がこのシリーズにはいくつも隠されていて、それをクリアしていくこともまた勝利と同等以上に大事。

それらの試練の具体例のひとつがまさにここでした。この後もキン肉マンは、仲間と共に勝利を重ねていきますが、それらは全て何かしらの目に見えない試練も同時に越えた上での勝利であって、そこが今までとはひと味違う、このシリーズならではの読みごたえに繋がっていると僕は思います。

そんな一幕も経て、ウォーズマンザ・マンリキに快勝を果たしたところで場面転換。同時に名古屋城で開催されていた残虐チームの闘いにいよいよスポットライトが当たります。その先鋒戦、サタンクロスVSザ・ニンジャ

もし『キン肉マン』全編を通してベストバウトを挙げろと言われたら、僕としてはこの闘い、悩みぬいた末に2位くらいに挙げるんじゃないかと思えるほど魅了された試合であります

まず大前提として、試合の最初から最後まで勝敗が一切読めない! どちらが勝ってもおかしくない状況の中で、両者から次々と見たこともない技が繰り出され、優勢劣勢が目まぐるしく入れ替わる。その緊張感の凄まじさ、まさに一瞬も目が離せないという表現がぴったりの名試合だったと思います。

しかも、楽しいのはリング上だけではありません。リングサイドで試合を見守る超人血盟軍メンバーたちもまた、怪行動の嵐。「フフフ」と不敵な笑いを連発しながら、今ではすっかり多くのファンからもネタにされるようになった、パイプ椅子の並びで示す"陣形"ブロックサインの奇天烈さがたまりません。

特にサタンクロスが西洋忍術の使い手であることが発覚してから、洋の東西忍者合戦になると、この"陣形"の指示も頻繁に飛び出し、11の勝負であるにもかかわらず超人血盟軍側はチーム全員で闘っている感をしっかり出してきますが、実は相手側もまたひとりじゃなかった!? ラストのサタンクロス分裂の衝撃から、その勢いのままに飛び出す昇技トライアングル・ドリーマーには度肝を抜かれたという言葉以外、出てきません。シングルマッチでツープラトン...まさか...21の試合だっただなんて。

●サタンクロスという存在自体が叙述トリック!?

ひとりだと思ってた相手が実はふたりだったって、普通に考えたらものすごいことで、いうならばこれは僕らファンの「『キン肉マン』だったらケンタウロスの超人がいても不思議じゃないよね」という先入観を巧みに利用した、推理小説における叙述トリックに近いことをされていると思うんですよ。

僕ら読者は、サタンクロスの登場シーンからこの試合最大の決め手となる大ネタをずっと見せつけられていたのに、誰も最後までその可能性を疑わなかった。そんな壮大な仕掛けの解放と説明を、決着間際のたった3コマの実況でさらっと済ませてしまう、ゆでたまご先生の力技と疾走感、まさにここに極まれり。実に終始インパクトまみれ、強烈に歴史に残る一戦だったと僕は激しく思う次第です。

そうして勝ち残ったサタンクロスはそのまま次の試合にも臨むわけですが、そこに挑む二番手、次鋒がアシュラマン。これも意外すぎますよね。アシュラマンって超人の格としては絶対に次鋒じゃないんですよ。副将や、なんなら大将でもおかしくないのにもう出てくるのかと、当時の初見の読者たちもこれには驚いたんじゃないでしょうか。

そして、連戦となるサタンクロス側にも、また読者を飽きさせない工夫が凝らされていました。試合の序盤で割れるオーバーボディ。中から出てきたのは今や皆さんご存じ、アシュラマンの元家庭教師サムソンティーチャーです。

これにより同じ超人の連戦でありながら、さっきのザ・ニンジャ戦とは全く趣(おもむき)の異なる闘いとなるのも上手いですよね。そして、この師弟対決はかつてふたりが教え教わった阿修羅稲綱(アシュラいづな)落としという技が肝となります。思えば以前、キン肉マンバッファローマンの試合では、返し技の応酬を制してキン肉バスターを如何に決めるかがポイントとなりましたが、それと同様に狙う技を知り尽くした相手に、いかにしてアシュラマンがそれを決められるか。二転、三転どころか四、五転の果てに技が決まる攻防は見ごたえたっぷりでした。

そしてその決着後、焦点は再び姫路城へ。盛り上がる別会場からの場面転換ということで読者のテンションが落ちないよう、ゆでたまご先生はここにも特大の仕掛けを用意されていました。全読者待望、ラーメンマンの復活です!

モーターマン秒殺という絶大な復活インパクトで読者のテンションをMAXにぶち上げ、次巻、大激闘のバイクマン戦へと物語は続きます!

●『キン肉マン』4コマ

●こんな見どころにも注目!

ゆでたまご先生が描く子供の絵って、可愛いすぎますよね。前巻でもアノアロの杖を盗っ人ジョージに奪われた際のロビンマスクの幼い姿に癒されましたが、それに続いてこの巻でも注目のシーンが! アシュラマンサムソンから阿修羅稲綱落としを教わる場面。「あちゅらいじゅなおとちーーっ」のセリフや、失敗して泣いてしまう様子の可愛さと来たらもう。今の様子と比べるとキャラクターの深みも増しますし、今後もっと他の超人の幼少期が描かれることにも期待していきたいですね。

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン! ミステリ小説『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『
爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー』(宝島社)も好評発売中

漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご集英社

おぎぬまXの『キン肉マン』27巻4コマ

『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス27巻を熱く語る