2020年12月にハロー!プロジェクトのグループJuice=Juiceを卒業し、ソロ活動をスタートさせた宮本佳林。今年9月からは自身最長となる7都市12公演のツアー(12月16日最終公演)を走り、11月には3rdシングル「バンビーナ・バンビーノ/Lonely Bus」を発売した。グループ卒業から3年。ソロ活動の難しさを実感しつつも、今「ソロアーティストとしての自分」が形になってきたとも話す。ソロになり、ますますこだわりが強くなる音楽のこと。加えて、今年はハロプロ25周年。9歳から加入したハロプロへの思いも聞いた。

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■苦しい時期を乗り越えて、今、波に乗り始めた3年目

――Juice=Juiceを卒業してソロ活動に移り、12月10日で丸3年が経ちます。楽しかったこと、大変だったことなど色々あったと思います。

ファンの皆さんと会えるイベントでは、ソロだからこその楽しさを体感しています。グループ時代と違って、皆さん全員が私を見に来てくれているんだと思うと気持ちが全然違いますね。その反面、最初の1、2年目はソロ活動の難しさを感じたのも確かです。忘れられているというのともちょっと違う、見ようとすら思ってもらえない感じ。届けたいけど引っかかるところが見つからなくて、苦しく感じていたときもありました。でも、3年目に入ってから上向きになってきて、今のツアーも7都市12公演。この3rdシングルでも私のことをだいぶ知ってもらえたと思います。

――1年目、2年目の苦しい時期をどう自分の中で消化して、乗り越えていきましたか?

活動で言えば苦しい時期でしたけど、だからと言って、それで思い悩んだりはしていないんですよ。Juice=Juiceのファンがそのまま応援してくれるとは思っていませんでしたし、グループのときとは全く違う表現になっていくだろうから、ソロになって離れていくファンも少なからずいると思っていました。でも、逆にソロになってから興味を持ってくれる人もいるでしょうし、知ってもらえるまでは安定しないだろうとは最初から考えていました。

――今の手応えはどうですか?

イベントでは女性限定エリアを設けていて、そこを見るとグループ時代より女性ファンが増えたという実感があり、新しい人も来てくれている印象は強いです。もちろん昔から、それこそハロプロエッグ(現在のハロプロ研修生)時代から応援してくれている方たちもたくさんいて、そういう方々には感謝の気持ちでいっぱいですね。

――自分自身について、1人になって気付いたことは何かありましたか?

私、兄弟がいないので、1人でいることはストレスにならないというか。メンバーといることは好きだったし、1人っ子だったからこそ姉妹のような仲間ができたことはすごく嬉しかったけど、今は1人なのもそれはそれで楽しくて、全く苦ではないですね。気付いたことと言えば、1人だとすごい楽屋を汚くする(笑)。机を使える範囲が大きいので、物をあれこれ広げちゃう。それくらいかなあ(笑)。

――話を聞いてほしかったり、相談相手がほしいときはどうしていますか?

お仕事上のことだと、私の性格的に思い悩んで誰かに相談するというのはないんですよね。相談したところでその方が現実的に解決方法を持ってない限り時間の無駄になると思っていて。なので、悩みがあったとしても、解決に向けて動ける方に直接話をしにいきます。悲しいときや、うじうじする日がないわけではないけど、それも人生の一部ぐらいに考えています。

■グループ時代とは異なる聴かせることへのこだわり

――宮本さんと言えば、ハロプロファンからはストイックで知られています。ソロアーティストとして、パフォーマンス面で現在取り組んでいることはありますか?

ボイトレは今でも菅井秀憲先生(Juice=Juice時代からのボイストレーナー)の教室に通って、学ばせていただいています。グループ時代はピッチよりも瞬発力みたいなところ。(歌割の)ひとパートでどれだけかっさらえるかを意識していましたが、今は一曲を通して、その延長としてはライブ全体を通して、安定感が重要だと考えています。その上で、どう弾けて聴かせるかを目標に、表現力の向上に取り組んでいます。ピッチに関してはチューニングアプリみたいなものをスマホに入れて、耳で聴いて、それと同じピッチで声を出すというトレーニングを自主的に続けています。

――理想のパフォーマンスがあると思いますが、そこを100点としたら、今の現在地はどのあたりですか?

一回一回のステージに点数をつけるなら常に100点以上のパフォーマンスをしているつもりですが、客観的に見ると60点くらいですね。それはデキが悪いということではなく、私にはまだまだ伸び代があるという意味で。今は学校のテストでいうと平均点を取っている生徒で、ここから飛び抜けて1位を取るような人になっていきたいと思います。

■3rdシングルはソロアーティスト・宮本佳林の変化を聴ける楽曲群

――新曲「バンビーナ・バンビーノ」はリズムがよく、キャッチーで耳に残る曲ですね。現在も盛り上がっていますが、今後ライブのキラーチューンになっていきそうです。

私の楽曲は今までアルバム曲も含め、格好良い曲や少し暗めのマイナー調の曲が多かったので、こういう熱くて明るい曲が増えるのは嬉しいですね。ライブのときは会場の皆さんも一緒に大サビのところを歌ってくれて、すごく盛り上がっています。ちょっと聴いただけでも耳に残るキャッチーな曲ですし、有線で流れているのを聴いて、好きになってくれた方もきっと多いんじゃないかと思います。

――もう一方の「Lonely Bus」は哀愁漂うような真逆の曲です。

「Lonely Bus」は懐かしさを感じるサウンド感で、そこにがっつり格好良いダンスを絡めているところが私的な見どころです。ぜひミュージックビデオも観ていただきたい曲です。

――音自体は今の音楽ですが、雰囲気が昭和歌謡のようでもあります。

そうなんですよ。私は80年代アイドルが大好きなので、あの時代を感じられる曲なのも嬉しいところでした。昔の曲を知らない方にも格好良いと思ってもらえる曲で、昔から音楽が好きだった方には「懐かしい感じだね」と言っていただけています。老若男女いろんな方にハマる曲になっているんじゃないかと思います。

――1stシングルの「氷点下」もそうですが、こういう表現力のあふれる曲は、宮本さんのソロアーティストとしての魅力を堪能できるものですね。

ありがとうございます。アーティストとして良いか悪いかは別として、器用貧乏みたいなことを言われることもあるんですよ。でも、弾ける曲も歌えるし、じっくり聴かせる曲も歌える。そういう二面性や、色々な歌い方ができるのは私の強みだと思うので、曲のジャンルを固定せず、曲の世界に合わせて幅広く歌いこなせるアーティストが私の理想です。

――配信シングルを含めると5作目。今回の作品は自分にとってどのようなものですか?

ソロ活動3年目になり、自分が発信したい“ソロでの私”がようやく固まってきたと感じられるシングルになっています。Additional Track(ボーナストラック同義)に入っている楽曲も、明るい曲、盛り上がる曲が増えつつあって、今までの曲と併せて“ソロアーティスト・宮本佳林”が出来上がってきたと実感しています。

――Additional Trackの曲についても教えていただけますか。

今回Additional Trackは4曲あって、「パラレルハート」は今までになかった台詞盛りだくさんの構成が面白い曲です。こういう曲は若い子たちにも刺さると思いますし、この曲と「Beautiful Song」は“バズる振付師”で話題の槙田紗子先生にダンスを作っていただいたので、それも併せて楽しんでもらえる楽曲です。「ソリスト・ダンス」は、お客さんがコールで楽しめる曲。アイドルの応援が大好きな方、フェスの盛り上がりが大好きという皆さんにぴったりで、最後の「BAD」はとにかく格好良い曲ですね。Juice=Juiceの曲や私の過去のソロ曲が好きという方には特に聴いていただきたい曲です。それぞれ歌の質も違うので、色々な私をお聴かせできる4曲になっています。

バースデーイベントでは貴重な自作曲を披露

――これまでも含めて、楽曲に関して宮本さんから何かオーダーしたことはありますか?

楽曲制作や選定はやっぱりプロの方にお任せするのがベストだと思っているので、私の方から何か注文を入れるということはしていません。でも、好きな曲や理想のようなものは常々スタッフ方々と話していて、きっとそれが汲み取られて、今こういう楽曲が私に届いているんだと思います。それとは別に、レコーディングでは意見交換をしながら歌を作り上げていて、例えば「バンビーナ・バンビーノ」と「Lonely Bus」は、どちらも元音源からキーを1つ上げてレコーディングしています。最初は元のキー、1つ下も試して、3つを聴き比べて、一番曲にマッチする高音のキーを選ばせてもらいました。トラックダウンにも時間が合えば立ち合わせていただいて、音の仕上がりを最後の最後まで相談させてもらっていますね。

――バースデーイベントではDTMで作った自作曲を披露しています。ゆくゆくは作詞作曲を手掛けたいという気持ちもあるのでしょうか?

元々DTMをやり始めたのは発声障害で声が全く出せなくなってしまったからなんです。Juice=Juiceの活動をお休みすることになって、でもいじけていても仕方ないじゃないですか。気持ちを切り替えて、この機会に音楽の勉強をしようと思って始めたことなんです。音楽用語やコードのこととか色々覚えられたと思いますが、本格的に音楽を学ぶなら音楽大学なり専門的なところで勉強しなければと思うタイプなので、今は楽しみながら、楽曲の理解を深める意味でやっている感じです。

――ファンは宮本さんが自分で作った曲を聴きたいと思いますよ。

ハードル高いです(笑)。いずれ今の活動が落ち着いて、40代、50代になったときに、今度はそういう活動ができたら素敵だなとは思います。今のところは年に一度、バースデーイベントで披露する特別な曲なので、興味がある方はぜひ聴きにいらしてください。12月1日、25歳の誕生日当日に開催します。

――25歳を迎え、今後の活動で目標にされていることはありますか?

今の活動はとても恵まれた環境の中で行っていて、贅沢をさせてもらっているなと思います。ただ、これから先は自分の力次第だと思うので、コンスタントにCDをリリースして、ツアーを開催できる歌手であり続けること。日本武道館のような大きい会場にソロで立ちたいという夢もありますし、そこに向かって頑張っていきたいと思います。

ハロプロの音楽は血となり肉となり

――今年はハロー!プロジェクト25周年でした。宮本さんはハロプロ純粋培養の1人ですが、自分にとってハロプロの音楽とはどういうものですか?

ハロプロの音楽って、私の中では教科書以上。血となり肉となっていて、私の音楽のベースだと思います。他の音楽も大好きですけど、ハロプロの音楽を聴くと落ち着くんですよね。特につんく♂さんの曲を聴くと、「ああ…これです」みたいな安心感、実家感みたいなものが湧いてきます。他のアーティストさんからはよく、「つんく♂さんの楽曲って難しすぎない?」ということを言われるんですが、逆に私にはどう難しいのか、それが分からないんですよ。音楽のことを何も知らない小学4年生のときにハロプロエッグに入って、当たり前のようにつんく♂さんの楽曲で音楽を覚えたので。DTMで曲を作っていても、気付くとつんく♂さんっぽい転調を入れていたり、メロディーになっている気がするくらいです。本当につんく♂さん成分が体に染み渡っているんですよ。

――つんく♂さんの音楽を具体的に言葉で表すことはできますか?

どんな言葉が合うんだろう…? つんく♂さんと言えばリズムだけど、それだけじゃないし…。メロディーの要素は抜きにして、詞の世界から取ってくるとしたら、“心臓に少女が住んでいる方”だなと思います。だから私たちにその音楽が響くんだと思います。

――宮本さんにとって、ハロプロとはどういうものでしたか?

ハロプロは私の人生の始まりみたいなもので、ずっと続いている“道”ですね。学校ではないよ、と教えられましたけど、小さかった私にとっては仲間もいて、楽しかったり、泣いたり笑ったり、必ずそこに行く学校みたいな場所でもありました。ハロプロを卒業しても、その道はまだ続いている。この先もずっと歩いていく道だと思います。

取材・文・撮影:鈴木康道

3rdシングルをリリースした宮本佳林/撮影:鈴木康道