外貨建て投資を行う際、「利回り」だけで選ぶのは危険です。一方で、安定性の高い先進国通貨にもリスクは存在しています。それでは、投資先を選ぶとき、何を基準にすればよいのでしょうか。本稿では、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏による著書『インフレ課税と闘う!』(集英社)から一部を抜粋し、運用収益を最大化するために外貨建て投資を行う際のポイントについて解説します。

通貨安定・成長率で選ぶ投資先

外貨建て投資を利回りだけで選ぶことは危険だという人もいる。

その通りだ。高いインフレ率になりやすい国は通貨が減価する。特に、新興国にはその傾向が強い。新興国の通貨が対ドルでどのくらい減価してきたかを調べてみよう。参考にするのは、OECDのサイトである(https://www.oecd.org/tokyo/statistics)。検索エンジンで「OECD統計」と打てば、すぐに探し当てられる。

入口は日本語だが、クリックしていくと英語に変わる。しかし、物怖(ものお)じしてはいけない。統計サイトは、ほとんど英語の読解力がなくても使うことができる。むしろ、日本語の統計サイトよりも機能は格段に優れている。

そこでは、為替レートのコーナーで、OECD加盟(38か国)とその他の数か国の国々の対ドルレートを長期時系列で見ることができる。多くの国々の直近の為替レートを100として指数化したのが、掲示したグラフである([図表1][図表2])。

2010~2022年までの13年間について、17か国の対ドルレートを一覧してみよう。

フランスドイツイタリアは統一通貨ユーロを使っている。米国は基準になっているので、ずっと100である。この16か国(+ユーロ圏)を比較すると、通貨の変動パターンはいくつかのグループに分かれる。

アルゼンチントルコ、ブラジル、ロシア南アフリカの5か国は変動幅が極めて大きい。脆弱な国=フラジャイル5と言ってもよい。かつて米投資銀行の人が、「フラジャイル5」と名付けたのは、ブラジル、インドインドネシアトルコ南アフリカの5か国である。

日本の円は調べてみると、インドインドネシアと似たような変動率である。変動率は円安局面の2013年以降に高まっている。不安定化したということだ。過去10年間では、日本はオーストラリアカナダに近くなっている。円に対して変動率が小さいのは、英国、カナダ、そしてユーロ圏である。

通貨変動が少ないという観点でドル以外から選ぶと、ユーロ、カナダドル、ポンドなどが挙げられる。しかし、イギリスは2022年にボリス・ジョンソン首相が辞任して、後任のトラス首相が就任から僅か45日目で辞任に追い込まれた。

ばらまき的で、財政再建に逆行する政策スタンスが、金融市場からNOを突きつけられた格好だ。先進国であっても、そうした政策失敗リスクはある。先進国の通貨であっても、しっかりと分散投資をしておいて、そうした波乱に備えた投資をする方がよい。

「経済成長率」にも注目すべきワケ

もう一つ、通貨の安定性のほかに注目しておくべき点として、経済成長率がある。経済成長率が高い国は、たとえいくらかインフレで通貨が減価しても、それを成長率がカバーする。

新興国株式は、そうした新興国の成長率を反映して上昇すると考えられる。

投資のスタンスを長期的な成長という点で捉えると、新興国株式の収益率−為替減価率=ネット収益率で見て、プラスが大きいものを選ぶ必要がある。

もしも、通貨が減価しているフラジャイルな国々に投資を考えるのならば、いくつかの新興国に分散した株式投資という方法がある。その場合は、自分で銘柄を選ぶのではなく、投資信託の中で、複数の新興国株式にしっかりと分散されたものを選ぶことが大切だ。

他国の成長力に注目する理由は、日本の成長力が極めて低くなっているからだ。

現在の自分の生活水準が、10年前の自分の生活水準と比べて、どのくらい高まっているかを考えてみればよい。筆者を含めて、多くの人は生活水準が変わらないか、もしくは悪くなっているはずだ。日本人の生活は一見安定しているが、じわじわと悪化している。

日本に十数年間住む外国人は、久々に母国に帰ると街並みが変わっていたとか、以前よりも豊かになったと話してくれる。日本が徐々に貧しくなっていることは、海外と比べて初めてわかる。

日本と海外との成長格差は、データ分析をしてみると、明瞭にわかる。

ここでまた、OECDのサイトを参照してみたい。OECDの長期経済予測である。2021年に更新された1990年から2060年までの実質GDPの変化率である(ドルベース)。対象は、OECD加盟国38か国だけではなく、中国など新興国を含めた46か国が一覧できる。

まず、日本の実質GDPの増加率は、2022~2032年までの10年間では6.56%の予測である([図表3])。1年間に換算すると、何と0.66%ずつしか成長しない計算だ。

これは46か国中で46番目である。OECD平均は10年間で18.32%である。よく日本の存在感が小さくなっていると言われるが、これは日本の経済規模が世界に占める割合の低下にも見て取れる。日本のGDP÷世界のGDPを計算すると、2000年時点では8.4%もあった。それが2022年は4.8%、推計値で2030年は4.0%、2060年は2.7%まで低下する。

「小さくなる日本」を象徴している。

「大きくなる国」の共通点と「日本の経済成長」停滞の原因

ならば、逆に大きくなる国はどこなのだろうか。2060年という遠い将来ではなく、今後10年先という近い未来の方が確度が高いということで、2022~2032年の変化を調べてみた。

ランキング表を作ると、1位はインドの83.8%である。2位はインドネシアで64.8%、3位はトルコの49.6%である。中国は4位で45.6%である。中国は過去10年間で見ると、87.9%と46か国中で第1位の高成長を遂げてきた。インドは過去10年間では74.9%と中国に次いで2位であった。

この差を説明する一つの要因は人口増加率である。国連の人口予測では、インドは今後も人口増加が進む国だ。インドネシアトルコもそうだ。

それに対して中国は人口増加率が大きく鈍化する。しかも、高齢化も急速に進む。

中国は「豊かになる前に老いる国」と言われることがある。高齢化すると、成長のポテンシャルが落ちる。若い人が多い社会は、平均して残りの人生が長い人が多くなるので、人々はリスクを取って新しいことに挑戦し、失敗してもまたやり直そうとする。これから新しいチャンスに備えたいと思っている人は、新しい知識習得にも貪欲になれる。

日本の成長力が落ちたことと、少子化には密接な関係があると思える。

子供が少なくなっていく東京都の地域では、昔の子供向けのビジネスが廃れていく。代わりの高齢者ビジネスは、政府からの支援に依存していたり、収入の少ない年金生活者に支えられて需要が高まりにくい。少子化は、高齢化と人口減少を伴いながら、経済成長を停滞させていく。

豊かになった国ではどこでも、子育ての苦労より、自分の時間や価値観を個人が追求するようになり、子供を持たないライフスタイルが定着していく。その変化はゆっくりと経済成長の力量を奪っていくが、政府や有識者はその変化に危機感を抱きにくい。

そして、気がついたときにはもう多少の少子化対策をやっても手遅れになる。

話を投資に戻すと、日本の成長率が低くなると、円資産に投資してもその収益率は低いものにならざるを得ない。むしろ、成長率の高い国々を探して、そこに投資をシフトさせる方が高い運用収益が期待できる。

「新興国株式」だからこそ実現できる投資法

より具体的に考えると、新興国の株式投資(またはETF投資)をした方が、そうした国々の成長力を反映した値上がり益を享受できる。ETFとは、上場投資信託のことである。

その国の株式をまんべんなく買うことで、個別株式の変動を相殺して安定的に成長の利益を狙うことができる。ただし、トルコインドネシアなど数か国のETFではやはり分散効果が十分とは言えないので、もっと多くの新興国に数を増やした方がよさそうだ。

値動きが荒い新興国投資は、リスク・コントロールの難易度が高い。新興国の株式や通貨の変動が同じ方向に動くときは、いくら分散をしても損失が生じることがある。

それでも利益を追求したいということであれば、長い期間にわたって保有することが大切だ。

例えば、10年間で1.5倍に高成長する国なら、その国の株価も同調して上昇して投資元本が10年後には150となる。途中で換金しないつもりで、時価が増えるのを待つ。一度、投資元本が150まで増えると、一時的に急落しても株価が元本割れをしにくい。

インカムゲインを蓄積して、値下がりの可能性(キャピタルリスク)を吸収できるようにするのがポイントだ。これは、時価が大きく上がっていく新興国株式だからこそ可能だと言える。成長力のある新興国株式は、インカムゲインが大きいので、キャピタルロスを防ぎやすい。

(※写真はイメージです/PIXTA)