一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、フィリピンへの投資を活性化するための動きについて解説していきます。

経済特区での「免税措置」を拡大

下院委員会は、マルコス政権がフィリピンの税制優遇措置を国際競争力のあるものにするための取り組みの一環として、「経済特区および自由貿易港の企業に輸入品および国内購入に対する免税特典と付加価値税(VAT)の免除を認める法案」を承認しました。

この法案は、VATのゼロ税率を登録輸出業者のプロジェクトや活動で直接使用される商品およびサービスの販売に制限している「Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprises(CREATE)法」を修正するものです。CREATE法は2021年に、ドテルテ政権下で署名され、パンデミックからの回復を支援するために税金を軽減しました。

修正された「CREATE MORE(CREATE to Maximize Opportunities for Reinvigorating the Economy)法」では、大統領に対して財政審査委員会の勧告なしで優遇パッケージを変更し、作成・付与する権限も付与され、登録事業者に対する簡素で効率的な税還付システムを導入することを目指しています。また、本法案では、法人税率を20%に引き下げることも提案しています。

この法改正により、ITおよびビジネスプロセスアウトソーシングセクターは、リモートワーク形態であっても経済特区内の税制優遇を享受することができるようになるでしょう。

これらの変更は、外国からの投資を引き寄せるための措置であり、ASEAN東南アジア諸国連合)や近隣のアジア諸国に対しての競争優位性を意図しています。一方で、法案に反対した議員は、これが大企業にのみ利益をもたらすものであり、大統領大企業に対して好待遇を提供する可能性があると懸念しています。

マルコス大統領による「アメリカでの投資誘致活動」

マルコ大統領の1週間にわたるアメリカ訪問中、フィリピンは総額6億7,230万ドルの投資コミットメントを獲得したと報じられました。これには、通信、気象予報のための人工知能(AI)、半導体および電子機器、製薬・医療、再生可能エネルギーなどが含まれています。

マラカニアン(大統領府)によれば、この誓約は主に通信セクターに対するもので、4億ドル以上に上ります。半導体セクターにも2億5,000万ドルの投資誓約があり、さらに10億ドルの追加投資が米国企業と協議中で、フィリピンと米国はフィリピンの半導体サプライチェーンを強化することで合意しました。

また、医薬品および医療セクターには2,000万ドルの投資誓約があり、AC HealthとVarian Medical Systemsの合意により、フィリピン初の専門がん治療病院であるHealthway Cancer Care Centerが建設されます。

人工知能(AI)を活用した気象予報には200万ドル、再生可能エネルギーには30万ドルの投資誓約があり、アメリカのAtmo社との提携により、アジア最大のAI気象予報プログラムがフィリピンで開発されることになりました。

さらに、ウルトラセーフ・ニュークリア社とマニラ電力(Meralco)との合意により、マイクロモジュラーリアクターの使用に関する事前調査を行うことで、米国から核技術と材料を輸入する道を開く契約を締結しています。

「ソブリンウェルスファンド」いよいよ始動

訪米中、マルコ大統領はアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に出席しました。そこでフィリピンのソブリンウェルスファンドであるマハリカ投資基金(MIF)を通じて、約80のインフラプロジェクトへの資金投下を目指していると発表。これらのプロジェクトは高い収益率と重要な社会経済的影響をもたらすもので、MIFの運用開始は年内を目指していると述べました。

具体的なプロジェクトは言及されていませんが、政府はインフラ建設推進の一環として197の優先プロジェクトを進めており、これらはインターネットの接続性、水、農業、健康、輸送、エネルギーの向上に焦点を当てています。また政府は2028年までに国内総生産(GDP)の5~6%をインフラに投資することを目指しています。

写真:PIXTA