
これまで「狩猟採集生活を送っていた先史時代、力が強く体力のある男性が狩猟の主な担い手で、女性は採集を中心に行っていた」が定説だった。
だが最近になり、この説は誤りであるとする研究結果が、いくつか報告されていたが、新たに発表された研究は更にそれを後押しする形となるかもしれない。
アメリカ、ノートルダム大学の人類学者の研究によると、女性は男性よりもハンターに向いているという。
また考古学的な証拠からも、大昔の狩猟は男女共同で行っていたと考える方が合理的なのだそうだ。
女性の方が力の強い男性よりハンターに向いているとはどういうことか? それは当時の狩猟のスタイルが関係しているようだ。
博物館や教科書などで、毛皮を身にまとい槍を持った男性と、赤ん坊やかごを抱えた女性が木の実などを集めている風景を見たことはないだろうか?
こうしたイメージは専門家にとっては時代遅れだったとしても、一般的な人々の脳内には根強く残っているかもしれない。
実際に力が強いのは男性であるという点については、異論はないだろう。体力だってあるだろうし、走りも速い。ならば危険な力仕事である狩猟は男性が担ったという説は、確かにうなずけるものがある。
[もっと知りたい!→]先史時代(新石器時代)の女性は異様に腕力が強かった。骨の研究で判明(英研究)
だが最近になり、女性も狩りに参加していたという研究結果がいくつか発表されている。
そして今回の研究を行ったノートルダム大学の人類学者カーラ・オコボック助教授は、大昔の女性が狩猟にただ参加していただけではなく、ハンターとして優れてもいたと主張している。
オコボック助教によれば、”生物学的に優れた男性”という考え方では、すべてを物語ることはできないのだそうだ。
なぜ女性は狩猟に適しているのか?ホルモンの関係性
狩猟は肉体に大きな負担のかかる活動だ。それは一瞬の早技で終わるようなことではない。
大昔の狩猟においては、獲物を仕留めるために、相手が疲弊するまでしつこく追跡を続ける必要があった。つまり持久力がものを言うのだ。
[もっと知りたい!→]先史時代は女性も狩りをしていた。9000年前の女性ハンターの墓が発見され「男性が狩り」の定説が覆る可能性(ペルー)
その点、女性の体は有利にできているのだという。その秘密は、女性の体にたくさん含まれる「エストロゲン」と「アディポネクチン」という2つのホルモンだ。
この2つのホルモンは、ブドウ糖と脂肪の調節を手助けしてくれる。
とりわけ重要なのがエストロゲンだ。女性ホルモンと言われるこのホルモンは、エネルギーを求める体が炭水化物に頼る前に、まず身体に蓄えられている脂肪を使うようながす。
脂肪は炭水化物よりもカロリーが高い。だから長く、ゆっくりと燃える。つまりその分長く体を動かすことができ、なかなか疲れないということだ。
「私の考えでは、エストロゲンは縁の下の力持ちです」とオコボック助教は説明する。これらのホルモンは、心血管系や代謝の健康、脳の発達、怪我の回復にも重要な働きをするという。
さらにホルモンだけでなく、女性の身体的構造も持久戦の狩猟に有利に働くと考えられる。
女性の股関節は一般的に広い。その分、腰を回転させやすく、歩幅が長くなる。歩幅が長いということは、代謝の”燃費”がいいということだ。だから、より遠くへ、より速く移動できる。
「このように生理学的に人間を見ると、女性はマラソン選手、男性は重量挙げの選手と言えるでしょう」

女性も狩りをしていたという考古学的証拠
そのような主張も、現実の証拠がなければただの机上の空論でしかない。
オコボック助教らも当然それはわかっており、その仮説を裏付ける証拠をきちんと用意している。
彼女によると、じつは先史時代の女性も狩猟をしていたという考古学的な証拠はたくさんあるのだという。
それはたとえば、女性たちの遺骨に残されている狩猟によってできる傷だ。
「ネアンデルタール人の狩猟は、単独での接近戦スタイルだったと考えています」
“単独での接近戦スタイル”とは、ハンターは獲物を仕留めるために、その下に潜り込む必要があったということだ。
現在のロデオの選手は、動物に蹴られて頭部や胸を負傷することがよくある。また、動物に攻撃されて骨折することだってある。それとよく似た怪我の痕が、大昔の女性の化石からも見つかっているのだ。
「それによる損耗や裂傷は、男女どちらでも同じように見られます。つまり、どちらも待ち伏せて大きな獲物を狙う狩猟に参加していたということです」
また女性が狩猟を誇りに思っていたらしいことを示す証拠もある。ペルーなどでは、完新世の女ハンターの墓から、狩猟に使われた武器が見つかっているのだ。
「本人にとって大切だったり、普段からよく使用していたものでない限り、一緒に埋葬されたりはしません」
くわえて、妊娠中や授乳中など、子育てをする女性が狩りから外れたと考えるべき証拠はなく、労働において厳格な男女の分担があったことを示す証拠も見つかっていない。
男女という性別よりも個の能力を重視し、共同で様々な作業を行っていた可能性もある。
こうした研究は、男女の平等が大きくクローズアップされている現在において、重要な示唆に富んでいるかもしれない。
この研究は『American Anthropologist』(2023年10月19日付)に掲載されている。
References:Forget ‘Man the Hunter’ – physiological and archaeological evidence rewrites assumptions about a gendered division of labor in prehistoric times / Women May Be Better Hunters Than Men, Latest Research Argues | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo

コメント