コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は甘井さんの『手を合わせましょう』(スクウェア・エニックス)をピックアップ。

【漫画】息苦しさがとてもリアル…心を病んだ青年の“再生“物語に共感の声「現代の悩めるすべての人に届いて欲しい」

会社での対人関係で心を病んでしまった男性が、ある無名の女性配信者と出会ったことで救われていく様子を描いた本作。第42回スクウェア・エニックスマンガ大賞で入選し、「ヤングガンガン2023 No.16」にも掲載され話題を集めた。また、9月8日に甘井さんが自身のX(旧Twitter)に本作を投稿したところ、10万以上の「いいね」が寄せられ大きな反響を呼んでいる。この記事では作者である甘井さんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。

■心を病んだ青年と偶然出会った無名の配信女子 2人の“希望”の物語

新卒で憧れの会社に就職した村上健吾。しかし、入社早々にもかかわらず上司からあしらわれ、強い口調で捲し立てられたり、昼休憩に急ぎの作業を求められたりと、追い詰められているように感じる日々を過ごす。そして上司との対人関係や仕事への不安、焦りから村上はだんだんと心を病んでしまう。

ある日、仕事の合間にSNSを開いた村上は、おすすめに出てきた「あぽ」という女の子のライブ配信を何気なく開く。美味しそうにおにぎりを食べるあぽの姿を見て、しばらくちゃんとした食事をとっていないことを思い出す村上。その後なんとか昼食を食べに外に出るも、直前の作業工程にミスがあったことから上司に激しく責められてしまう。そのことを機に出社できなくなった村上は、食事や掃除などもままならず自宅に引きこもる生活を送っていた。

そんな中、村上の携帯にあぽから配信開始の通知が届く。フォロワーも自分だけ、昼に限ってライブ配信している無名のあぽを不思議に思う村上だったが、楽しそうに食事をする彼女の姿を見るのがいつしか日課となり、コメントで交流するようになっていった。

しかしある日、配信された画面にはなぜか涙を浮かべるあぽの姿が。「大学の子たちに笑われた」「笑われるのが嫌」と涙を流すあぽに、村上は自分自身の姿を重ね合わせる。正直で真っ直ぐなあぽの言葉に自分のことを情けなく感じた村上は、あることであぽの役に立とうと行動し…。

心を病んでしまった村上が無名の配信者・あぽと出会い、希望を見出していく物語を描いた読み切り作。繊細に描かれた村上の心情の変化にも反響が集まり、X(旧Twitter)上では「あったかい話」「社会人になった初めの頃を思い出して涙が出た」「息苦しさがとてもリアル」「すごく刺さる」「希望のある物語」「誰かから必要とされることって本当に大事」「きっと現実世界でもこうやって苦しんでいる人がたくさんいるんだろうな」「現代の悩めるすべての人に届いて欲しい」など多くの声とともに、「似たような経験をしました」など読者からの共感の声や体験談も多く寄せられ、話題を集めている。

■生きづらさを感じる人の心がふっと軽くなるマンガを 作者・甘井さんが語る創作の背景とこだわり

――『手を合わせましょう』を創作したきっかけや理由があれば教えて下さい。

この作品はマンガ賞に投稿した作品なのですが、まず担当さんから「どんなお話が描きたいか?」とお尋ねがありました。担当さんとお話ししていくうちに、疲れている人や生きづらさを感じる人の心がふっと軽くなるマンガを描きたいと思い、このお話しが生まれました。

――適応障害で会社に行くことができなくなってしまった村上健吾とあぽ、それぞれのキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?

社会に出ると誰でも壁にぶつかることがあると思います。壁にぶつかったとき、誰にも辛い気持ちを言えないタイプの人がいて、そんな人はどんなふうになるだろうかと考えた流れで村上ができました。

塞ぎ込んだ村上が回復に向かうにはどんなことが必要か?そこでコロナ禍を経て今、SNSのあり方や身近さが変わったことを受け、あぽが固まっていったように思います。

――本作をX(旧Twitter)に投稿後、10万を超える「いいね」とともに読者から共感の声が多く集まっています。今回の反響について、甘井さんの率直なご感想をお聞かせ下さい。

その時は本当にただただびっくりしていて、嬉しいという気持ちを実感できるようになったのは実は数日後でした。今はこんなに読んでくださった皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。どの感想も本当にうれしくて、繰り返し大切に読ませていただいています。

いただいた「いいね」や感想は今後も私の支えになると思います。皆様にお礼をお伝えして回りたいくらいです!その気持ちを今後の漫画にたくさん込められたらいいなと思っています。

――適応障害という心の病を物語に取り入れるうえで、特に意識した点やこだわった点はありますか?

適応障害というのはあくまで主人公の今の状態を表したもので、適応障害とはこういうものという意味で描いた作品ではありません。その為、すべての症状を描くといったことはしておらず、あくまで主人公が経験したもの、見たものをそのまま描くということを意識しました。

――本作の中で甘井さんが特に思い入れのあるシーンやセリフ、「ここを見てほしい」というポイントがあれば、理由と共に教えてください。

気に入っているシーンはあぽの笑顔とラストシーンです。担当さんにネームができたとき褒めていただけてすごく嬉しかったので、背中を押していただけたような心強い感覚があり、その感覚をそのまま描きました。私はたくさんのかたに助けていただきながら漫画を描いています。そんな皆様にいただいたものが作品に出せるように全力を尽くしました。

――今後の展望や目標がありましたら教えてください。

目標はずっと読んでくださる方の為に漫画を描き続けることです。目の前のことを一歩一歩、そのとき出せる最大限の力でやっていって、気がついたら遠くまで来ましたねと一緒に歩いてくださった皆様と笑っている未来に辿りつけたらいいなと思っています。

――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。

いつも拙作を読んでくださってありがとうございます。読んでくださる皆様がいらっしゃるので、私は今日も元気に笑顔で漫画を描けています。日常の合間に手を伸ばして「この漫画を読めて良かったな」と思っていただけるような漫画を描けるようにこれからも精進してまいります。皆様の笑顔が私の力の源です。これからもよろしくお願いいたします!

ふと開いた女子大生のライブ配信をきっかけに…甘井さんの『手を合わせましょう』が話題/(C)Amai/SQUARE ENIX