仕事終わりに簡単なタスクをこなすことで全体を通して楽だったと感じるようです。

米国のバージニア工科大学のエドワード・ライ氏(Edward Lai)らの研究チームは、簡単なタスクを行うタイミングを実験的に操作し、行なった作業の難易度や満足感の評価が変わるかについて検討しました。

実験の結果、作業の最後に簡単なタスクを行った方が全体的に作業の難易度が簡単で、疲労感が少ないと感じる傾向が確認されました。

この現象は「簡単付加効果(The easy addendum effect」と呼ばれています。

研究チームは「簡単付加効果を使えば、日々の活動をより簡単だと感じることができるかもしれない。面倒なタスクを楽な感覚で終えることで、満足度やモチベーションが増加する可能性が考えれる」と述べています。

研究の詳細は、学術誌「The Journal of applied psychology」にて2023年7月27日に掲載されました。

目次

  • 最初に取り掛かるのは難しいタスクか、簡単なタスク
  • 最後にこなすタスクで全体の評価が変わる

最初に取り掛かるのは難しいタスクか、簡単なタスクか

最初に取り掛かるのは難しいタスクか、簡単なタスクか
最初に取り掛かるのは難しいタスクか、簡単なタスクか / Credit: Unsplash

作業に取り掛かる時、難しいタスクと簡単なタスクのどちらから手を付けますか。

難しいタスクから手を付けると、他の細々した作業が疎かになりそうですし、簡単なタスクから手を付けると、難しいタスクに手を付けないままになってしまいそうです。

近年の研究では、作業はじめに簡単なタスクをこなす方が仕事が捗るとの結果を報告しています。

米国のアメリカのハーバード・ビジネス・スクール(HBS:ハーバード大学の経営大学院)のフランセスカ・ジノ(Francessca Gino)らの研究チームは、タスクをこなす順番を実験的に操作し、タスクの達成量を比較しています。

実験の結果、朝に一日のタスクを書き出し、簡単なタスクから作業を進めた人は、集中力が長く続き、仕事への満足度も高くなりました。

なぜなら簡単なタスクをこなすと、その時点で大きな達成感を得ることができ、脳内にドーパミンが放出されるからです。ドーパミンには注意力やモチベーションを高める作用があるため、簡単なタスクをこなすと、その後の集中力が高まるというわけです。

しかし仕事の効率化に関するビジネス書を開いてみると、「難しい作業を先にこなす」ほうが良いとのアドバイスが散見されます。

この手の本として有名なのは、ブライアン・トレーシー著の「カエルを食べてしまえ!」でしょう。この本では「難しく重要なタスク」をカエルに見立て、朝一番にそのタスクをこなすべきであるとの主張をしています。

これは最初に難しく重要なタスクを行うことで、どうでもいいタスクに時間が謀殺されることなく、本当に重要なタスクに時間を投入できるという考えです。

難しく重要なタスクを脇に置き、重要でない、簡単なタスクをこなそうとする先延ばし現象は「達成バイアスと呼ばれています。

作業に取り掛かる前に、部屋の掃除やメール・チェックをしたりなど、手近なタスクに集中力を使ってしまった経験は多くの人に心思い当たりがあるのではないでしょうか。

この達成バイアス(先延ばし)を回避し、最初に重要なタスクを終わらせるべきとする主張は、一見説得力があるように思えます。

たしかに難易度が高く、集中力を要するタスクを疲れていないはじめに終わらせてしまえば、あとは余裕をもって作業に取り組めそうです。

そこで米国のバージニア工科大学のエドワード・ライ氏(Edward Lai)らの研究チームは、「カエルを食べてしまえ!」の主張を検証する研究を行いました。

その結果は、どうなったのでしょうか?

最後にこなすタスクで全体の評価が変わる

最後にこなすタスクで全体の評価が変わる
最後にこなすタスクで全体の評価が変わる / Credit: Unsplash

実験では、参加者を簡単なタスクを先に行う人と、難しいタスクを先に行う人の2つのグループに分け、行なった作業の難易度の評価、全体の満足度が変わるのかについて検討しています。

実験に参加したのは大学生201名でした。

参加者は以下の難しいタスクと簡単なタスクを取り組んでもらっています。

難しいタスク先頭のアルファベットが同じ本(たとえば「Another Day in Paradise」や「Across Many Mountains」)10冊をアルファベット順で並べる

簡単なタスク先頭のアルファベットが違う本(たとえば「Catch Me if You Can」や「After the Snow 」)10冊をアルファベット順で並べる

本のタイトルの先頭のアルファベットが同じ場合には、2文字目以降の文字を考慮しなければならず難しい一方で、先頭のアルファベットが違う場合には、先頭の文字のみで簡単に判断できます。

そしてタスクをやり終えた後にどれだけ難しかったか、タスクをどれだけうまくできたかを評価してました。

実験の結果、最後に簡単なタスクをこなした場合には、最後に難しいタスクをこなした場合と比較して、全体のタスクの難易度がより低く、疲労感が少ないと評価する傾向がありました。

さらに、全体のタスクに対して感じる難易度・疲労感の低下は、作業全体に対する満足感とモチベーションを高めることも分かっています。

研究チームはこの現象を「簡単付加効果(The easy addendum effect」と呼んでいます。

ではなぜ簡単付加効果は生じるのでしょうか。

研究チームは、「親近性効果(Recency effect)」によって説明できるのでないかと述べています。

親近性効果とは、米国の心理学ノーマンアンダーソン(Norman Anderson)氏が提唱したもので、より直近の出来事の方が記憶に残りやすい傾向を意味します。

簡単付加効果では、全体のタスクを評価する際、経験の最後に行った簡単なタスクを思い出しやすく、最後に難しいタスクを行った場合よりも、全体的に簡単だったと評価しやすいと考えられます。

しかし研究チームは「簡単付加効果が役に立たないケースもある。こなすタスクが複雑過ぎたり、タスクの種類が違ったり、完了するまでの時間が長期に渡る場合、効果が生じるかは分からない」と述べており、さらなる調査が必要です。

前述したハーバード・ビジネス・スクールのフランセスカ氏らの研究と合わせて考えると、次のような順序でタスクをこなすとよいかもしれません。

それは、最初は簡単なタスクで達成感を出し、集中力をブーストした後に、難しいタスクに取り掛かり、最後は再度簡単なタスクをこなし、行った作業に対する難易度と疲労感を低下させ、満足感とモチベーションを高める方法です。

今度作業する際に参考にしてはいかがでしょうか。

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参考文献

The ‘easy addendum effect’: how careful timing of your easier tasks could help you feel better at the end of the day
https://psyche.co/ideas/facing-a-tedious-to-do-list-this-trick-could-make-it-easier

元論文

The easy addendum effect: When doing more seems less effortful
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37498712/

Task Selection and Workload: A Focus on Completing Easy Tasks Hurts Long-Term Performance
https://dl.acm.org/doi/10.1287/mnsc.2019.3419

ライター

AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

一番最後に簡単な仕事をこなすと楽に感じる「簡単付加効果」