筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 浜田さんによると、障害年金の請求時にさまざまな書類が必要となりますが、その中でも特に重要なものは、医師の診断書のほか、本人または代理人が作成する「病歴・就労状況等申立書」だということです。この2つの書類を基に、障害状態が重いかどうかの審査が行われます。

 なお、本人に発達障害がある場合、病歴・就労状況等申立書に幼少期から現在までの状況を記載することが求められているとのことです。今回は、発達障害ひきこもりを続ける子どもがいる母親をモデルに、浜田さんが障害年金の請求方法を解説します。

「病歴・就労状況等申立書」に書くべきこととは?

 ある日、私は、「発達障害があるひきこもりの長男(27)の障害年金について、相談をしたい」と母親(50)から依頼を受け、事情を伺うことになりました。

 長男は障害年金を請求するため、担当医に診断書を依頼しました。すると担当医からは「まずは病歴・就労状況等申立書を見せてください。その内容を参考にして診断書を書きます」と言われたそうです。(以下、病歴・就労状況等申立書は「申立書」と表記)

 長男はこだわりを見せることがあり、「申立書は自分で作成したい」と母親に伝えました。しかし、作成は思うように進まず、1カ月を過ぎても完成には程遠い状態でした。心配した母親は「専門家にアドバイスをもらって作成してみましょう」と提案しました。その提案に対して長男はしぶしぶ同意を示したのですが、条件として「自分も必ず申立書の作成に参加すること」と母親にくぎを刺してきたそうです。

 そこまで話を聞いた私は、母親から渡された申立書を見ました。そこには「両親、学校、社会のせいで自分の人生はめちゃくちゃにされてしまった。毎日生きることがつらい」というような内容が記載されていました。

「残念ながら、この内容では申立書の目的が果たせていない」と感じた私は、母親にこう説明しました。

「申立書からは息子さんの生きづらさを読み取ることができます。しかし、厳しい言い方になってしまいますが、この内容では不十分です。申立書の目的は、診断書では書き切れないご本人の日常生活の大変さを主張し、それを基に障害状態を審査してもらうところにあるからです」

 母親は不安そうな表情を浮かべました。

「では一体どうすればよいのでしょうか?」

「まず私から息子さんとお母さまに質問をします。その質問に回答いただき、私が申立書の下書きをします。その後、息子さんが清書する、という流れで作成をしていくのはどうでしょうか」

「質問に答えるだけなら大丈夫そうです」

「では、次回以降の面談では息子さんにも同席してもらうことにいたしましょう」

 この提案に対して、母親は一層顔を曇らせました。母親によると、長男は対人恐怖症で、実際に会って面談をすることは難しいとのこと。

 そこで、私は、カメラ機能をオフにした上で、音声のみのウェブ面談を提案してみましたが、やはりその方法も厳しいとのことでした。

「さて、どうしたものか…」と、私は頭を抱えてしまいました。

面談できない長男と情報共有する方法とは?

 しばらく悩んだ私は、「時間はかかりますが、最後の手段としてメールでのやり取りで申立書を作成してみましょう」と提案してみました。

 母親は「それならば何とかなるかもしれません」と返答したので、長男にも確認をしてもらうことになりました。

 面談の最後に私はこう言いました。

「今回、私は申立書の作成のお手伝いをするだけになると思いますが、それでも正規の報酬がかかってしまいます。それでもよろしいでしょうか」

「はい、構いません。報酬のお支払いは私(母親)がいたします。メールでやり取りすることも長男に伝えてみます」

 ある程度の見通しが立ったところで、母親との面談が終了しました。

 その後、長男から「メールでのやり取りであれば大丈夫」との確認を得た私は、さっそく幼少期について次のような質問をメールで送りました。

・幼稚園ではみんなと一緒に遊んでいたのか、1人で遊んでいたのか。
・歌の練習やお遊戯会の練習はきちんとできていたのか。
・幼稚園に行きたくないと泣き出すことはなかったかどうか。
・食べ物の好き嫌いはあったかどうか。

 この質問に対して、母親と長男は当時を思い出し、メールで次のように回答しました。

集団行動が苦手だったので1人で遊ぶことを好み、本を読んだり、積み木遊びをしたりしていました。お遊戯では役になりきることができず、セリフは棒読みでした。先生から何度も指導を受けても改善することはできませんでした。お遊戯会本番では、あまりの緊張のためかセリフの途中で泣き出してしまい、観覧に来ていた母親のところまで走って行き、お遊戯会が中断してしまいました。好き嫌いが激しく、野菜や魚はまったく食べませんでした。

 このように、「私が質問⇒長男と母親が回答⇒私が下書き⇒長男が清書」といったことを何度も繰り返しました。メールでのやり取りのため完成まで2カ月ほどかかりましたが、何とか申立書を完成させることができました。

 申立書が完成してしばらくたった後、母親から連絡がありました。

「おかげさまで担当医師に申立書を渡すことができました。その際、医師は『今までの生活の困難さや現在の困難さがよく分かります。頑張って作成しましたね』と褒めてくれました。診断書も何とかなりそうです。このたびはご協力いただき、どうもありがとうございました」

 母親はうれしそうにそう話しました。そのような報告を受けて、私もほっと胸をなでおろしました。

社会保険労務士ファイナンシャルプランナー 浜田裕也

障害年金を請求するには?