三菱重工業が、いわゆるキャタピラのついた装軌式装甲車の共通車体を開発していると発表。タイヤで走る装輪式車両が重視されるなかで、陸自の装軌式車両は老朽化が進んでいます。そもそも装軌式は必要なのか、現状をどう打破するのでしょうか。

73式はもう50年 さすがに古い陸自の装軌式車両

三菱重工業は2023年11月22日東京都内の本社で防衛事業説明会を実施。この説明会で同社が「装軌共通車体/装甲車型」の開発を進めていることを明らかにして、同時に写真を公開しました。

装甲車には無限軌道キャタピラ)によって走行する装軌式と、96式装輪装甲車のように、タイヤの付いた車輪で走行する装輪式があり、「装軌共通車体/装甲車型」は前者に分類される車両です。

陸上自衛隊は戦車と行動を共にする歩兵戦闘車89式装甲戦闘車や、隊員を輸送する装甲兵員輸送車73式装甲車などの装軌式装甲車両を保有しています。89式は「1989年」に、73式は「1973年」に、それぞれ陸上自衛隊の制式装備となったことを意味していますが、その数字が物語るように設計の陳腐化と車体の老朽化が進んでいます。

このため防衛装備庁は89式装甲戦闘車73式装甲車に加えて、やはり装軌式装甲車である99式自走155mmりゅう弾砲、96式自走120mm迫撃砲87式自走高射機関砲の車体下部を新品に交換して延命を図る「共通車両の換装技術に関する研究」を行っており、三菱重工業は2016年に2種類の車体下部の製造を受注しています。

それから4年後の2020年に陸上自衛隊の装備実験隊で既存の車両とは異なる装軌式装甲車が目撃されたという話がインターネット上などで話題となりました。

おそらくこの車両は、三菱重工業が製造した2種類の車体下部のうちの一つに、同社が開発・製造した新型の上部構造を組み合わせた「装軌共通車体/装甲車型」と同じものなのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

「上モノ」と「足回り」を別々に検討?

陸上自衛隊は2020年6月に「諸外国の装軌式装甲車に係る調査」という名称の役務の一般競争入札を行っています。

この調査の対象となったのは外国製の歩兵戦闘車装甲兵員輸送車で、歩兵戦闘車には口径25mm以上の機関砲を搭載し、車体正面は中口径機関砲弾に耐えられること、装甲兵員輸送車型には車体正面が重機関銃弾に耐えられることなどを求めていました。

調査対象国に関しては、アメリカ、イギリスドイツトルコスウェーデンスペインイタリアを必須としており、おそらくドイツのラインメタルが開発した歩兵戦闘車リンクスKF41」や、トルコ企業のオトカが開発した装甲兵員輸送車の「TURPER-S」などの調査が行われたのではないかと思います。

またこの調査では、歩兵戦闘車型と装甲兵員輸送車型を「海外企業から個別に取得した場合」と、「海外企業が開発した、共通の車体を使用する車両をそれぞれ取得した場合」のほか、防衛装備庁が行ってきた研究を活用して、「89式歩兵戦闘車の車体上部と新型の車体下部を組み合わせた歩兵戦闘車を取得した場合」の3つを想定し、取得から退役後の廃棄処分までに必要とされるコスト(ライフサイクルコスト)の算定も求められています。

防衛省陸上自衛隊は、この諸外国の装軌式装甲車に係る調査と、防衛装備庁が行ってきた共通車両の換装技術に関する研究を基に、89式歩兵戦闘車73式装甲車の後継車両を選定していくのではないかと考えられます。

装輪式の有利とは限らない? 見直される装軌式

装軌式装甲車には装輪装甲車に比べて、ぬかるんだ土地や雪上、悪路といった、いわゆる「不整地」での走行能力が高いという長所があります。

陸上自衛隊16式機動戦闘車AMV XPなどの装輪式装甲車の整備を進めており、いずれ本州の部隊では装輪式装甲車が主力となる予定ですが、不整地が多い北海道などでは、一定数の装軌式装甲車が必要との意見も根強く存在します。

装軌式装甲車が走行に使用する無限軌道は、車輪に比べて大きな重量を支えられるため、装輪装甲車に比べて重量の増加を余儀なくされる装甲防御力の強化がしやすく、また重量の嵩む大口径の砲や砲塔などを搭載しやすいという長所もあります。

21世紀に入って対テロ戦などのいわゆる「非正規戦」が増加して以降、各国の陸軍は武装集団やテロリストなどが相手であれば十分な防御力を持ち、かつ機動性に優れた装輪式装甲車の整備に力を注いできました。

しかし中国やロシアなどの脅威が高まり、国家対国家の「正規戦」が起こる可能性が高まった2010年代後半からは、アメリカ陸軍の「AMPV」などをはじめ、防御力の大きな装軌式装甲車の新規導入を進める国も増えつつあります。

北海道が直面するロシアの軍事的脅威は依然として高く、老朽化した装甲車を使い続けることは、整備や補給などで隊員の負担を増やしてしまいます。

防衛省陸上自衛隊にとって北海道が主な配備先となる装軌式装甲車の整備は喫緊の課題ではないのかもしれませんが、防衛装備庁と三菱重工業が行っている研究の成果を活用するにせよ、外国企業から導入するにせよ、そろそろ新しい装軌式装甲車の導入についても、本腰を入れて考えていく必要はあると筆者は思います。

73式装甲車(陸上自衛隊第七師団の動画より)。