中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

 女性用下着で業界トップを走ってきたワコールホールディングスが、業績不振から抜け出すことができません。2024年3月期は120億円の営業損失を予想しており、2期連続の営業赤字となる見込みです。

 ストッキングのアツギも今期は赤字を予想。6期連続の営業赤字となる公算が高まりました。各社ともに消費者意識の変化への対応が遅れているという、共通の課題を抱えています。

◆「売上高が1割減少した」ピーチ・ジョン

 ワコールは2024年に68の商品ラインのおよそ4割を削減。低収益の22店舗、百貨店10店舗を撤退し、希望退職者150名の募集をかけて2024年4月30日に退職する大規模なリストラ策に乗り出しています。この構造改革費用として60億円を充てる予定です。

 2023年4-9月のワコール国内事業の売上高は、前年同期間比3.3%減(15億円のマイナス)となる472億円でした。ピーチ・ジョン事業の同期間の売上高は55億円で、8.7%(5億円)も減少しています。

 ワコールは2024年3月期の売上高を前期比3.9%増の1960億円と予想していますが、上半期は2.4%の減収で折り返しています。

◆「日本の老舗」だからこその強みが

 特に苦戦しているのが、「Wacoal」と「Wing」という2つの主力ブランド。中価格帯に属する商品です。上半期の量販店経由で販売した「Wacoal」の売上高が、前年同期間の1%、「Wing」は9%のマイナスでした。

 ワコールは日本の下着メーカーの老舗で、日本人の体型に合った商品を用意できることに強みがありました。優れた縫製技術に裏打ちされた製品力を持ち、商品ラインナップが多かったことも特徴の一つでした。女性の多種多様な感性と体型に合ったものを提供できたのです。

 かつてワコールと激しく競争していたトリンプ・インターナショナルが、「天使のブラ」を販売したのが1994年。このブラジャーは肩紐のズレを防止する機能性と、パステルカラーを多用した華やかなデザインが特徴でした。

 90年代は付け心地と同時に、下着のファッション性も重視されていました。

◆「女性用下着への支出額」は20年で6割以下に

 しかし、消費者の意識は大きく変化します。ファッション性よりも着心地を求め、下着にかける金額を抑制するようになったのです。

 通販事業を行うフェリシモは、女性下着の意識調査を行っています(「【アンケート結果】コロナ禍におけるインナー&美容意識についてのアンケート」)。それによると、下着購入時に「締め付け感のなさ」や「肌当たりの良さ」を重視する消費者が多くいることがわかります。

 しかも、この傾向はコロナ禍で顕著となりました。在宅勤務や自宅で過ごす時間が増えたことが影響しています。

 女性用下着の支出額もここ20年ほどで大きく変化しました。総務省統計局における家計調査によると、2022年の婦人用下着類の支出額は年間5335円。2000年と比較すると、6割以下の水準まで落ち込んでいます。

◆「しまむらの下着カテゴリ」が伸びている

 消費者は自分の好みや体型に合う下着を多少高くても購入するという意識が薄くなり、付け心地や肌当たりの良いものを安く買いたいと考えるようになったのです。

 この商品に該当するものの一つが、ユニクロしまむらで1000円から3000円程度で販売されているブラトップです。高い縫製技術は必要なく、大量生産に向いているため、安価で提供できます。

 しまむらの下着カテゴリは、2023年2月期の売上高が前年同期比5.4%増の1073億円でした。コロナ禍で2020年2月期は売上高が1000億円を下回ったものの、その後は増収を重ねています。

 この数字には男性用の下着も含まれているとは言え、しまむらの婦人衣料は売上全体の3割を占めており、紳士衣料は1割程度しかありません。下着も女性から支持されていると見て間違いないでしょう。

 ワコールはこの変化に取り残されました。現在、商品ラインナップを整理していますが、高い技術力やデザイン性が要求される高価格帯に注力するなど、根本的な事業の見直しが必要になるかもしれません。

ストッキング市場は4割以下まで縮小…

 時代の変化に取り残されている、もう一つの会社がストッキングのアツギ。2024年3月期は3億円の営業赤字を予想しています。6期連続の赤字となる見込みです。この会社は緩やかに収益力を失って赤字へと転落。そこから抜け出すことができなくなりました。実はワコールよりも遥かに厳しい状況に置かれています。市場が他社に奪われているのではなく、急速に失われているのです。

 日本靴下協会によると、2022年のパンティストッキングの国内生産数は3200万足。前年比15.0%も減少しています。ストッキングの市場縮小はコロナ禍で顕著になりました。2019年の生産数は9000万足。4割以下にまで減っています。

 ストッキングはかつて働く女性がマナーとして着用するのが常識でした。やがてスーツとストッキング、パンプスという定番スタイルが崩れ、服装のカジュアル化が進みます。

 更に在宅勤務が増えたことに加え、今年のように秋冬に暖かい日が続くようにもなりました。ストッキングを着用する理由がなくなっているのです。

 アツギはストッキングの他にも下着や靴下など、商品カテゴリが多いため、市場縮小の影響を別のもので補うことができます。しかし、中長期的には主力商品を別のものにピボットする事業転換が必要になるでしょう。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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