同じ建物のなかに複数の区分所有者がいる分譲マンション。老朽化などにより、建て替えが必要となっても、金銭的な理由などから現状維持したい人と、立て替えたい派で対立し、血みどろの争いとなるケースも少なくありません。こうしたトラブルを受け、政府は決議要件緩和などと合わせた制度案を近く示し、2024年の通常国会への区分所有法改正案の提出をめざしています。本記事では、24年法改正に向けた老朽マンションの建て替えについて、山村法律事務所の代表弁護士である山村暢彦氏がわかりやすく解説します。

【24年法改正】分譲マンション・団地の建て替え要件緩和

法制審議会は、分譲マンションや団地を建て替える決議の要件を緩和する区分所有法の改正素案を示しました。

内容としては、マンションでは、現行法ですと、「所有者5分の4」の賛成で建て替えが可能です。改正素案では、火災や地震への安全性などが現在の基準に達していない場合には、決議要件を80%から75%へと引き下げる旨の内容です。このような改正素案が検討されている背景にはどのような問題があるのでしょうか。

分譲マンションの修繕/建て替えが難しい理由

そもそも、マンションは新築、築浅の状態であれば、ほとんど問題は生じないのですが、区分マンションごとに所有権が分散されている分譲マンションが老朽化すると、その建て替えは非常に厄介です。

建て替えるためには、お金がかかりますから、現状維持でよいからと動きたくない層と、お金を出してでもよりよい環境に建て替えたいという層にわかれてきます。また、そもそもこのような取りまとめを行うマンション管理組合が機能していないマンションも多数存在します。

マンションは、分譲され各所有権がばらばらになっている以上、各区分マンションを所有する人たちで構成されるマンション管理組合にて意思決定を行い、マンションの修繕や建て替えを行っていきます。実際上は、分譲を行った不動産会社ないしその関連の管理会社が指揮をとらないと、マンション管理組合を維持運営すること自体が難しいのが実情だと思います。

一部の修繕でさえ、対立する区分所有オーナーとマンション管理組合

このような背景のなか、トラブルが頻発するのは、老朽化したマンションの修繕問題です。

あるご相談の事例では、修繕積立金で修繕するにもかかわらず、マンション管理組合があまり機能しておらず、恣意的な修繕が行われているというご相談を受けたこともあります。

別の相談では、マンション管理組合の主要人物の部屋周りの廊下などはリフォームされているのにもかかわらず、相談者の階は老朽化したままで汚く、また水漏れなどのトラブルにも対応してくれないといったこともありました。水漏れトラブルについては、一般的に、専有部分であれば区分所有オーナーが修繕し、共用部であればマンション管理組合が修繕するため、「専有部分か共用部か」で揉めることも多いのです。

通常はここに保険会社が絡んできて、さらに保険会社も保険金を払いたくないので、自社の保険金対象でないと主張するなど、錯綜したトラブルに発展したこともあります。場合によっては、建築士や弁護士が間に入って調整しなければならないトラブルも生じています。

このように、一部の修繕ですら、区分所有オーナーとマンション管理組合の激しい対立が生じますが、建て替えとなると余計に大きい事柄です。たとえば自分が建て替え派で、隣の部屋の住人が現状維持派となると、隣人同士で血みどろの対立が生じてしまうということも容易に想像できるのではないでしょうか。

所在等不明区分所有者への対応

もうひとつ改正素案の方向性としては、令和5年民法の改正と同じ方向で、所在不明者への対応内容も検討されています。

裁判所は、区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、当該区分所有者(以下「所在等不明区分所有者」という。)以外の区分所有者、管理者又は管理組合法人の請求により、所在等不明区分所有者10及びその議決権を集会の決議から除外することができる旨の裁判(以下「所在等不明区分所有者の除外決定」という。)をすることができる。

といった案です。

所在不明者は、不動産に関して非常に大きな問題になっていますが、よくあるケースでは、相続人がいない、ないしは見つからないケースや、国外に移住しているケースなどをよく見かけます。また、仮に見つかるとしても、不在者が死亡していた場合、その相続人が非常に多数だと、手続きをとるだけでも非常に煩雑でコストがかかるということも多いです。

このため、今回の改正素案のように所在不明者への対応がなされるのは手続きとしては必要かと思う一方、財産権、私有財産への侵害にならないように慎重な手続きを設ける必要もあるので、バランスが必要な部分かと思います。

老朽化した分譲マンションの建て替えは、マンション管理組合が機能していないと、何年計画かで体力のある不動産会社が買い取って、権利を整理するなどして対応していた物件もありましたが、今回の改正案でより、老朽化マンションの建て替え、不動産の活用が進むとよいなと思います。

山村法律事務所

代表弁護士 山村暢彦

(※画像はイメージです/PIXTA)