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“Cinematic Core”と掲げる予測不可能な展開と耳に残るメロディで、圧倒的な世界観へと瞬時に引き摺り込む4人組バンド・ulma sound junctionのメジャー1stアルバム『INVISIBRUISE』が、11月29日(水)にリリースされた。昨年4月発売のEP『Reignition』でキングレコードからメジャーデビューを果たしたばかりの彼らだが、沖縄県石垣島出身の幼馴染4人でこのバンドを2005年に結成しており、すでに20年近いキャリアでベテランの域に達しつつある。そんなulma sound junctionだが、アルバムの発売は2017年11月発売の『imagent theory』以来実に6年ぶり。かなりインターバルがあるように見えるが、コロナ禍以降は“三原色”をテーマに異なるタイプの3曲が凝縮された1st EP『primary』(2021年2月発売)に、メジャーでも変わらず攻めの姿勢で突き進むことを宣言する新曲と初期の代表曲を現在の表現力&テクニックで再録した楽曲群で構成された、“再着火”を意味するタイトルのEP『Reignition』と定期的に作品を発表しており、かつ作品ごとにバンドの進化がしっかり伝わる内容で我々リスナーを魅力し続けている。

そんな彼らが満を持してリリースする通算4作目、メジャー初のフルアルバム『INVISBRUISE』だが、メンバーによると大きなコンセプトを設けることなく、いろんなベクトルを持つ楽曲たちを現在の彼らならではの表現で形にしたものだという。その結果、彼らの魅力がダイレクトに伝わるヘヴィ&アグレッシヴなナンバーや、プログレッシヴロック的な壮大さが伝わる10分前後の長尺曲といった従来の“らしい”楽曲に加え、近作で試みた実験が実を結んだ異色のナンバーも用意されており、常に進化と成長を続けるulma sound junctionらしい充実ぶりを見せてくれる。

M1「Appetite」
ブルドーザーの如く突進してくる音の塊とヘヴィな音像、随所に散りばめられた浮遊感の強いクリーンパートがバランスよく混在する「Appetite」は、アルバムのオープニングを飾るにふさわしい1曲。タイトルどおり、まさしく欲望のままに突き進む様はバンド結成時から何ひとつ変わっておらず、海外のニューメタルバンドを彷彿とさせるアグレッションと日本的な情緒も伝わるメロディアスさは、これぞulma sound junctionと言わんばかりの王道感に満ち溢れている。

M2「ROAR (invisibruise edition)」

2023年10月から放送中のテレビアニメ『ラグナクリムゾン』のオープニングテーマとして制作された楽曲の、本アルバム用エディション。彼らにとって初のタイアップ楽曲となるが、そこにセルアウト感は一切なく、バンドの持つヘヴィ&ラウドさとキャッチーさが最良の形で活かされた至極の1曲に仕上がっている。オープニングから2コーラス目に突入する直前までで約89秒という、アニメで使用される尺が意識されたアレンジもさすがの一言で、トータルでも約3分半という彼らにしてはコンパクトな構成も見事としか言いようがない。このバンドの知名度を高めることを手助けするのに最適なキラーチューンだ。

M3「Seizure」
冒頭から疾走感の強い2曲で、有無を言わせず独特の世界へと引きずり込まれるも、この1分に満たないSEでアルバムの空気はガラッと変わる。心臓の鼓動を思わせるビートに不穏なギターの音色がかぶさると、そのビートは徐々にテンポが上がっていき、一旦クールダウンした聴き手の高揚感も再び上昇し始める。と同時に、この短尺インストが実はM4の「Patient of Echo」への序章であることにも、追って気づかされることになる。さあ、ここからがulma sound junctionならではの圧倒的でディープな物語の本領発揮だ。

M4「Patient of Echo」
加勢本タモツ(Dr)によるスリリングなドラムプレイと、山里ヨシタカ(G)&福里シュン(G)が奏でるスパイ映画を思わせるギターフレーズ、田村ヒサオ(Vo, B)から繰り出される独特のグルーヴィーさを醸し出すベースラインが絡み合い、ムーディだが躍動感のある音世界が構築されているこの曲は、ulma sound junctionらしさが存分に味わえる8分半の大作ナンバーだ。要所要所に取り入れられた変拍子も非常に心地よく、クリーントーンとスクリームを巧みに使い分けた田村のボーカルワークも楽曲の持つドラマチックさを華麗に演出する。ブルータルさの中にも知的さがにじみ出たサウンドメイク&アレンジからは、カナダのプログレッシヴロックバンド・Rushを彷彿とさせるものも見つけられるも、そこに現代的な表現方法が加わることでulma sound junctionにしか作り得ないものへと昇華されており、まさに“Cinematic Core”と呼ぶにふさわしい1曲だと断言できる。

M5「Welcome Back」
劇的な大作で深淵へと引きずり込まれたあとは、さらにディープな楽曲で聴き手を未知の世界へと誘う。バンドが持つキャッチーさが存分に活かされたメロディラインや後半に登場するシンガロングパート、ヘヴィさよりもムーディを強調したアレンジは、ヘヴィメタルやラウドロックというよりもJ-POPやJ-ROCK的な側面が強く、「ROAR」をきっかけにこのバンドに興味を持ったビギナーにも優しく響くことだろう。一方で、これまでulma sound junctionを応援してきたファンもこの新境地的ナンバーがここ数作で試みた実験の成果であることにも気づくはず。結成から18年を経てもなお進化と成長を続ける彼らの、音楽に対する貪欲さが伝わる1曲と言える。

M6「Lequeios」
「Welcome Back」でのメロウ&ムーディさを引き継ぐも、演奏は前曲よりも激しさを増していく。山里&福里というタイプの異なる2人のギタリストは、ダウンチューニングで低音が活かされたディストーションサウンドによるリフと、どこか夢見心地な雰囲気が伝わるクリーントーンによるアルペジオを絡み合わせることで、このヘヴィ&グルーヴィな楽曲に特別な色合いを加えることに成功。約2分40秒と彼らにしては短い楽曲だが、アルバム後半戦に向けた最初の一歩としては非常に的確な1曲ではないだろうか。

M7「Irreal」
「Welcome Back」で新境地を見せたulma sound junctionだが、この「Irreal」はさらなる驚きを与えてくれる。ヘヴィでテクニカルなバンドアンサンブルも魅力のひとつである彼らだが、ここではピアノを伴奏に田村が独唱するという新たなチャレンジを試みているのだ。スクリームに頼ることなくとも、クリーンでメロウなボーカルだけでも“ulma sound junctionらしさ”を見事に表現してみせる田村のシンガーとしての巧みさを、この1曲からしっかり感じ取っていただきたい。

M8「Obsidian Sugar」
「Seizure」以降、ulma sound junctionらしい独特なムードの楽曲群で構築されるこのアルバムも、いよいよ佳境に突入する。ピアノバラードと呼んでも差し支えない仕上がりの「Irreal」を経て、この「Obsidian Sugar」ではキャッチーさもありながらも全体的にはダーク&ダウナーなヘヴィサウンドによって聴き手をさらに数歩深いところへと牽引する。派手さこそないモノトーンな仕上がりの中にも一瞬ビビッドな色合いが浮き彫りになる、そんな個性的なアレンジも彼らならではの魅力と言える。本作のクライマックスへ向けた序章としては最適な温度感を持つ、アルバムだからこその役割を担った重要な1曲ではないだろうか。

M9「Kameroceras」
情熱的な激しさを伴いスタートしたアルバム『INVISIBRUISE』も、残すところあと2曲。この2分程度のインストナンバーはそれまでのアルバムの流れと次曲「Protopterus」をつなぐための重要なインタールードであると同時に、その「Protopterus」との組曲と解釈することもできる。アルバムというフォーマットだからこその楽曲であり、ぜひ「Protopterus」とあわせて聴いていただきたい(もちろん、アルバムをまるまる通して聴いていただくことがベストだ)。

M10「Protopterus」
記念すべきメジャー1stアルバムのエンディングを飾るのは、約11分におよぶ大作ナンバー。このような長尺曲では起承転結を意識したアレンジを用いるバンドも少なくないが、彼らはこの曲において数曲分のアイデアを凝縮させ、ドラマ性よりも予測不能な展開を重視している。同じ長尺曲でも、先に登場した「Patient of Echo」では古き良きプログレッシヴロックのスタイルに則りつつ自分たちらしさを表現してみせたが、この「Protopterus」はニューメタルなどモダンなヘヴィ&ラウドサウンドを軸に進化させた、ベクトルの異なるもの。こうした巧みなアレンジ力も、18年にわたる活動の積み重ねが成せる技なのだろうか。そして、こうした長尺曲はテクニカルな演奏やアレンジに目を奪われがちだが、実はメロディラインの親しみやすさや美しさもこの曲における注目ポイントだと断言しておきたい。さらに、1曲の中にさまざまな歌唱スタイルを詰め込んだ田村のボーカリストとしての非凡さも、決して忘れてはならない。

全10曲/約50分と、アルバムとしては比較的聴きやすいボリュームの本作だが、そこに詰め込まれた情報量の多さは他のバンドの追随を許さないものがあり、アルバムを通して聴き終えたあとの余韻は1本の大作映画を見終えたあとと同じものがある。メンバーはコンセプトアルバムを意識して制作したわけではなかった本作だが、結果としては個性の強い楽曲たちが連なることで意図せぬ物語を生み出し、ひとつの大きな“波”を作り上げることに成功した。そういう意味では、この曲順も重要だと言えるだろう。1曲目とラストナンバーだけは最初から決まっていたそうが、そのほかの楽曲の並びについてもこれが大正解であることは本作を聴いてもらえば確信できるはず。だからこそ、(コンセプトアルバムではないものの)これらの楽曲が並ぶことで生み出される調和と特別な物語性を、10曲通してじっくり感じ取ってもらいたい。



現在、メジャーシーンで活躍する「メタリックなサウンドを信条とするロックバンド」はいくつも存在するが、往年のプログレッシヴロック的側面とモダンなラウドロック的指向、さらにはJ-POPにも接近しようとするポップネスを兼ね備えたバンドはulma sound junctionだけではないだろうか。そんなバンドが2023年の日本の音楽シーンに、ここまで唯一無二の個性を放つアルバムを産み落とすことは大きな事件と言えるのではないだろうか。これまで以上に幅広いタイプの楽曲が収録された本作『INVISIBRUISE』は、間口こそ広いものの、いざその中に飛び込んでみると底なし沼のような深みにハマってしまう……ぜひ一度、ulma sound junctionが描く深淵の世界へ一歩踏み込んでいただきたい。
Information 

ulma sound junction メジャー1stアルバム『INVISIBRUISE』 2023年11月29日(水)



品番:KICS-4129
定価:¥3,300(税抜価格¥3,000)
形態:CD


【収録内容】
01. Appetite
02. ROAR (Invisibruise edition)
03. Seizure
04. Patient of Echo
05. Welcome Back
06. Lequeios
07. Irreal
08. Obsidian Sugar
09. Kameroceras
10. Protopterus

購入はこちら
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4129/

ダウンロード・ストリーミングはこちら
https://king-records.lnk.to/INVISIBRUISE
ulma sound junction メジャー1stアルバムは“間口の広さ”と“果てしない深淵”が共存する1枚