12月に会社の忘年会を控えている人は多いと思いますが、気になるのが飲酒の強要です。上司や同僚が無理やりお酒を飲ませようとすることがあり、断れずに飲んでしまう人がいるようです。こうした行為は「アルコール・ハラスメント」(アルハラ)と呼ばれており、飲酒を強要された人が無理にお酒を飲んでしまい、急性アルコール中毒などで死亡するケースも発生しています。

 もし忘年会で同僚や部下に飲酒を強要し、急性アルコール中毒などにさせてしまった場合、飲酒を強要した人は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

傷害罪に該当する可能性

Q.会社の忘年会で同僚や部下に飲酒を強要し、急性アルコール中毒などにさせてしまった場合、強要した人はどのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。酒を飲んだ人が亡くなってしまった場合はいかがでしょうか。

佐藤さん「刑事責任および民事責任を問われる可能性があります。刑事責任としては、傷害罪に問われる可能性があるでしょう。

傷害罪は、『人の身体を傷害した』場合に成立しますが(刑法204条)、『傷害』とは『人の生理的機能を害すること』を意味するため、飲酒を強要し、急性アルコール中毒にさせてしまったのであれば、傷害罪に当たると考えられるからです。傷害罪の法定刑は『15年以下の懲役または50万円以下の罰金』です。

飲酒を強要された人が無理にお酒を飲んで亡くなってしまった場合、傷害致死罪(同法205条)または過失致死罪(同法210条)に問われる可能性があります。傷害致死罪は、意図的に相手を負傷させ、死なせるつもりはなかったものの、結果的に死亡させてしまう罪であり、法定刑は『3年以上の有期懲役』です。

過失致死罪は、相手を負傷させるつもりはなく、過失により人を死亡させてしまう罪であり、法定刑は『50万円以下の罰金』です。

飲酒させられた人が、急性アルコール中毒などにならなかったとしても、強要する際に、『飲まなきゃクビだぞ』などと脅迫したり、殴る蹴るといった暴行を加えたりした場合は、強要罪に問われる可能性もあります(同法223条1項)。

民事責任としては、飲酒の強要が不法行為(民法709条)に当たるとして、被害者から損害賠償責任を追及される可能性があります。その場合、治療費や慰謝料などを請求されるでしょう」

Q.会社の忘年会で急性アルコール中毒などに陥った人がいた場合、酒を強要した本人だけでなく会社側も法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「会社も法的責任を問われる可能性があります。忘年会は、本来の勤務時間外に行われることが多いですが、会社の業務に関連して行われたものと評価される可能性が高いからです。その場合、飲酒を強要した従業員(加害者)の使用者である会社も、使用者責任を問われることがあります(民法715条)」

Q.飲酒の強要に関する事例について、教えてください。

佐藤さん「『酒が飲めない』と伝えた部下に対し、上司が執拗(しつよう)に酒を飲むことを要求したことで裁判に発展した事例があります。部下が嘔吐(おうと)した後も、上司は『酒は吐けば飲めるんだ』などと言って、飲酒に付き合わせていたそうです。

裁判所は、この事例について、『単なる迷惑行為にとどまらず、不法行為法上も違法』と判断し、飲酒を強要した上司の損害賠償責任を認めています。また、飲酒の強要は、会社の業務に関連してなされたものであるとして、会社の使用者責任も認められました」

 アルハラがきっかけで、傷害罪や傷害致死罪などに問われる可能性があるとのことです。忘年会の際は、くれぐれも部下や同僚に飲酒を強要しないようにしましょう。

オトナンサー編集部

同僚や部下に飲酒を強要した場合の法的責任は?