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  巨大な重力の塊であるブラックホールは周囲にあるものを手当たり次第に食い尽くす。そこに飲み込まれれば、もはや光すら脱出できない。

 だが少なくとも理論上は、ブラックホールから電力を絞り出すことができるという。

 中国、天津大学の物理学者らは、ほとんど不可能に思えることをいかにして実現するのか計算し、小さな「原始ブラックホール」を充電式バッテリー原子力発電所として利用できるという想像を絶する答えにたどり着いた。

 その計算によれば、ブラックホール発電は一般的なソーラーパネルより高効率で、ギガ電子ボルト規模の電力を供給できる可能性があるという。

【画像】 ビッグバン直後に誕生した小さなブラックホール

 宇宙のそこかしこにブラックホールは存在すると考えられているが、それらの質量はさまざま。太陽のおよそ5倍と恒星のようなサイズもあれば、太陽の327億倍と怪物のようなものもある、意外にバラエティ豊かな天体だ。

 じつは理論的には、もっと小さなブラックホールもあると想定されている。

 それが「原始ブラックホール」と呼ばれるもので、空間的には素粒子サイズにまで小さくなれる可能性がある。

 太陽の10倍以下の質量をもつ「恒星質量ブラックホール(恒星ブラックホール)」は、大きな星が燃料を使い果たし崩壊することで誕生する。

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 一方、原始ブラックホールは、ビッグバン直後に宇宙を満たしていた高密度の原始プラズマから誕生すると考えられている。

 あくまで仮説上の存在であり、それが本当に存在するのかはわからない。だが、もしもあるとすれば、さまざまな可能性が広がる。

 例えば、原始ブラックホールは宇宙で最も謎めいた物質の1つ「暗黒物質(ダークマター)」の有力な候補なのだ。

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星団内のブラック ホールイメージ図 / image credit:SA/Hubble, N. Bartmann

ブラックホールで発電できる!?

 中国、天津大学の物理学者、マイ・ジャンフェン氏とヤン・ルンチウ氏らは、また別の可能性を追求している。この原子ブラックホールを核エネルギー源として、バッテリー原子力発電所にしてしまおうというのだ。

 電池は非電気エネルギーを電気エネルギーに変換する。原子炉は、核反応の力を利用して電気エネルギーを作り出す。両氏によれば、原始ブラックホールは、理論上、そのどちらもイケるのだという。

 ただし実際にはブラックホール内部からエネルギーを取り出すのではなく、その外側、つまり宇宙で最も強い重力が集中している場所から供給される。

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 『Physical Review D』に掲載される予定の論文(現在、査読前論文は『arXiv』(最終改正日 2023年10月17日)で閲覧可能)では、次のように説明されている。

ブラックホールがきわめて強い重力を持つ事実を考えると、興味深い疑問が生じる。少なくとも理論上、ブラックホールの重力を利用して電気エネルギーを生成する、つまりブラックホールを電池として利用することはできないだろうか?

 それを考える上で1つ問題になるのが、「ホーキング放射」という現象だ。ホーキング放射とは、事象の地平線とその周囲にある量子場が相互作用することで、ブラックホールが質量を失うことだ。

 原始ブラックホールのように、サイズが小さい場合、質量の消失はそれだけ速くなるので、その分完全に蒸発するのも速くなる。

 また、小さなブラックホールは物質をあっという間に飲み込んでしまうと予測されている。そのため、その周囲の空間から必要なものを取り出すことが難しくなる。

 だがマイ氏とヤン氏は、一定範囲の質量を持つ原始ブラックホールならば、燃料を補給して充電してやることで、電気エネルギーを発生させられることを突き止めた。

 その質量とは、10^15~10^18kg。その重さのブラックホールは原子ほども小さいが、荷電粒子を補給することで、電気を生み出せると考えられるという。

 与えられた質量から発電する効率は最大25%。市販されているほとんどのソーラーパネルの効率が23%以下であることを考えれば、かなり効率がいい。

 さらに、原始ブラックホールを原子炉のように利用することもできる。

 研究チームの計算によれば、その周辺では放射性崩壊によって生成されるアルファ粒子の質量の25パーセントが、運動エネルギーに変換されると考えられるからだ。

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暗黒物質の正体は原始ブラックホール?

 これらはあくまで理論上のことで、実際に検証することもできない。仮に原始ブラックホールが存在したとしても、それを手に入れることはできないし、制御だってできない。

 だが、この分析はいくつか興味深いことを示唆しているという。

 例えば、今回のブラックホール反応炉モデルは、暗黒物質の質量として予測される範囲にぴったり収まっている。

 それが意味するのは、もしかしたら宇宙で最も謎めいた物質を利用して発電できるということかもしれない。

References: Using black holes as rechargeable batteries and nuclear reactors / Wild New Study Suggests We Could Use Tiny Black Holes as Sources of Nuclear Power / written by parumo

 
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理論上ブラックホールを核エネルギー源として利用できると物理学者