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 猫を飼っている人なら遭遇したことがあるだろう。何もないところを虚ろな目をしてじっと見つめている愛猫の姿を。

 いったい猫たちは何を見ているのだろう?人間の目に見えない超常現象、あるいは幽霊が見える、とでもいうのだろうか?

 その謎を、ニューヨーク、カニシウス大学の動物人類学教授であるマリーニ・スーチャク氏が解説してくれた。

 その時、我々人間の感覚が認識する以上のことが起きているという。

 

【画像】 猫は何もない場所をぼーっと見つめている時がある

 一日のうち何度も、飼い猫が何も存在しない部屋の隅の一点を、無表情のままじっと飽くことなく見つめていることがある。

 いったい何が見えているのだろう?とちょっと心配になるが、彼らはただぼんやりしているわけではない。実際、そこでは私たち人間が認識する以上のことが起こっているのだ。

 ニューヨーク、カニシウス大学の人類動物学教授マリーニ・スーチャク氏は、このようなとき、なにが猫の感覚をとらえているのかを探った。

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人間が感知できない何かの気配を追っている

 これは、家に超常現象が起きているわけでも、幽霊がいるわけでもないし、猫が霊と交信しているわけでもない。

 猫はほんの一瞬、何かを見たり聞いたりしただけだが、その”何か”が彼らの気を引き、それがずっと気になっているという。

 なにか具体的なものを見ているというわけではないが、人間には知覚できない音に耳を傾け、集中しながらただ虚空を眺めているだけなのかもしれないのだ。

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猫の優れた暗視能力と聴覚

 猫というものは、人間には感知できない影、閃光、ブンブンいう音、音質を感じることができる。

 視覚はあまり良くなく、とくに色の識別はあまりできないが、それは、暗いところでも目が見える暗視能力とのトレードオフだという。

 猫の網膜は、色合いを感じる円錐体が欠けていて、棹体という光の受容体が薄暗がりでも視力が効く能力を補っている。

 こうした視覚能力の組み合わせが、光と影の間に高いコントラストを生み、肉食動物が日の出や日没前後に活発に動き回る優れたハンターとしての武器となる。

「肉食動物は、夜明けや夕暮れに狩りをすることが多いので、色そのものよりもコントラストのほうが彼らにとって重要なのです」スーチャク氏は言う。

「一部の鳴く鳥を除いて、彼らの獲物は必ずしも鮮やかな色をしていません」

 猫の聴覚は、可聴周波数を超える超音波を拾うことができる。人間は、最大2万Hzまでしか聞き取れないが、猫は最大6万4000Hzまで聞き取ることができる。

 さらに小さな音でも拾うことができるという。

 人間は、大きな音ならば、高い音も低い音も聞き取ることはできるが、猫はもっと低いデシベルでも聞き取ることができる。

 ゴキブリが壁の中を這いまわる音さえ聞こえるという。それは、猫にとっては、引っかくような不快な音なのだそうだ。

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何もない空間を長い間見つめているのは獲物を狩るための本能

 こうした猫の行動は、獲物に忍び寄る本能を反映しているという。猫は待ち伏せして獲物を捕らえる捕食者で、ターゲットにすぐに襲いかかるわけではない。

「まずは、獲物になりそうな対象を見つけると、追いかける前にいったん待って様子をみる。そして、いったん追いかけ始めて獲物を見失ったら、またじっと待つのです」スーチャク氏は言う。

 ネズミの行動を見たことがある人なら、彼らがいかに音もなく移動するか、わかるだろう。だから、猫はそうしたかすかな動きを記憶し、ネズミが必ず現れるだろう場所を辛抱強く狙うよう進化してきたのだ。

 それはまた、猫が私たち人間にとっては重要ではない音や光景に意識を向けていることを意味する。

 例えば、スーチャク氏の飼い猫は、夜の特定の時間に、いつもある一点を見つめていることがあるという。

 ある日、その一点はカーテンの隙間で、そこから通り過ぎる車のライトの光が見えることに気づいた。

 さらに壁の同じ場所を四六時中眺めているようだったが、猫の心のうちでは、"それが戻ってくるかどうかを監視していた"のだろうという。

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こうした行動は猫にとっていいことなのか?

 健康で幸福に暮らしている猫ならば、身体的、精神的に適度な良い刺激を日々受けている。

 とくにそれが彼らの自然な本能に触れるものであれば、良いものであることが多いという。スーチャク氏は、こうしたものはある種、猫の心を豊かにしてくれるものだと考えている。

 あなたの猫が人間にはわからない謎めいた音に向かって、捕食スキルの練習をしていても、彼には、無防備なあなたの爪先に襲い掛かるために、そのスキルを使うつもりなどない。

 しかし、あなたの猫がごく普通の健康的な行動を妨げるほど、こうしたこだわりに執着するようなら、それは心配になるかもしれない。

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過度な刺激があるとストレスの原因に

 適度な刺激があるのはいいが、あまりに多すぎると不健康なストレスになる。

 「本当のところはどうなのか、完璧な答えを見つけるのは、少し難しいかもしれません」スーチャク氏は言う。

 彼女の飼い猫の場合は、一晩中車のライトの光に悩まさせたくなかったので、遮光カーテンに替えたという。

 基本的に飼っているペットが、ある場所だけに異様に執着しすぎて、いつものようにちゃんと寝たり、遊んだり、グルーミングしたり、寄ってこなくなったりした場合には、獣医に調べてもらったほうがいいそうだ。

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都会でも田舎でも、住んでる場所は気にする必要がない

 だが、あなたの猫が住んでいる場所が、にぎやかな都会なのか、静かな田舎なのかは、気にする必要はないという。

 あらゆる動物の進化戦略は、「自分にとって関係のない刺激は取り除く」ということだからだそうだ。

 都会に住む猫は、日常の騒音や光を無視する必要があるが、農場にいる猫は、明るい光に対処しなくてはならない。

 生涯のうちで屋外にいた時間が長い猫は、室内飼いオンリーの猫よりも、実際に遠方がよく見えるという。

 これは、屋外にいる猫は、より脅威を感知する必要があるが、室内にいる猫は、その必要はそれほどないためだ。

 猫がどこか虚空をじっと見つめる不穏な視線の裏には、もっとたくさんのことが起こっている。それはすべて、猫の超人的な感覚能力のおかげだ。

非常に多くの動物が、私たち人間がまったく気づかないものを見たり、音を聞いたり、におい嗅いだりしているのです。

人間には太刀打ちできないそうした行動に、少し不安を煽られるのはしかたがありません

References:Why Is My Cat Staring At Nothing? Inside Your Cat's Unsettling, Blank Gaze / written by konohazuku / edited by / parumo

追記(2023/12/02)誤字を訂正して再送します。

 
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