圧倒的スケールで描く映像美と、重厚かつ怒涛のストーリー展開で社会現象を巻き起こした日曜劇場『VIVANT』(TBS系)。9月の放送終了後もSNSでは“『VIVANT』ロス”や、続編希望の声があふれているが、12月15日より、福澤克雄監督ら演出陣が副音声でストーリーの裏側を解説する『VIVANT別版 ~副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界~』(U-NEXT)が配信開始となる。配信に先駆け、福澤監督と演出の宮崎陽平氏が取材に応え、作品へ込めた思いを語った。

【写真】2ヵ月にわたるモンゴルロケで撮影された圧倒的な映像も話題に

◆続編は「視聴者の皆さん次第」

 長時間におよぶ副音声収録を終えた福澤監督は、「これまでいろいろなところでたくさん話してきたから、初出し情報はあったかな?」と笑いながら、「ひたすら編集もやって、死ぬほど見たんで飽きるかと思ったんだけど、そうでもなかった」と改めて本作に自信を見せる。

 取材陣からは続編についての質問が次々と飛ぶが「僕の頭の中では三部か四部くらいできるなと思って作り始めていて」と期待をくすぐる。それでも、「正直言って、やりたい!って言ってできるものでもないし、ここで終わりって言われたらここで終わり。でも、視聴者の皆さん次第」と明言は避けた。

 キャスト陣の熱演により、さまざまなキャラクターが注目を集めた本作。福澤監督の推しキャラを尋ねると「全員ですよ。でも、(山本役の)迫田孝也さんは殺されちゃったけど、なんでこんなに気に入られたんだろうと思いました。このドラマの中で(河内大和演じる)ワニズと山本はゲス系なんだけど、迫田さんはいいお芝居をしてくださったし、河内さんも初めてのドラマで素晴らしいお芝居でインパクトを与えてくれてよかったなって思ってます」と感謝。「あとはチンギスとドラム。人気は出るとは思っていたけど、あそこまでとは思ってなかった。でもやっぱりそれは、軸に堺(雅人)さんがいらっしゃって、ほかにも役所(広司)さんがいて、阿部(寛)さん、二階堂(ふみ)さんと主要メンバーがしっかりしていたからだと思うんです」と振り返った。

 さらに、「今回の中で一番難しい役は(堺演じる)乃木さん。人格が2つあって使い分けなくてはいけないし、乃木とFを1カットずつ交互に撮影していくから、それは大変だったと思います。また、なにげに難しいのは(二宮和也演じる)ノコル。嫉妬心のようなものを抱きながら、父親への尊敬もあり、なんとも言えない、まだ成人しきれていない青年の雰囲気がとてもよく出ていました。あとは役所さん。ノゴーン・ベキというちょっと胡散臭い、わけわかんない感じのキャラクターなんだけど、役所さんにやっていただいたことで、みんなの中にスッと入ってくる。非常に助かりました」とキャスト陣の熱演に賛辞を送る。

◆『VIVANT』の裏にあった“ドラマのTBS”の心意気と福澤監督の新挑戦


 モンゴルで敢行した2ヵ月のロケなど、規格外な世界観で作り上げられた本作。ビッグネームが勢ぞろいしたキャスティングにも驚かされたが、これは『半沢直樹』『陸王』など大ヒット作を手掛けてきた福澤監督だからこそ実現できたようにも思える。しかし、本人の見解は違った。「僕だから出るっていうより、日本ドラマも外に出ていかないといけないという危機感が皆さんにあったんだと思います。1億2千万の人口相手にドラマを作ったら、ある程度ヒットしたらまあまあ儲かるシステムはできているけれども、韓国と違って日本はなかなか内向きで、外に出ていこうとしない。もっと外に、世界に出ていかないといけないという気持ちはみんなあったと思うんですよ。今回この企画をTBSがやります、ちょっと外向けに作っていきます、ということにみなさん賛同してくださった感じがしますね」。

 これだけ社会現象化した作品でも「予算オーバーが…」とこぼすが、「TBSのいいところは、大変だけどやってみようかというところ」だとも。本作の制作には、“ドラマのTBS”として、大事な使命もあったそうだ。「ドラマ部としてのノウハウの伝承ですよね。他局はドラマ制作を制作会社に任せることも多いですが、TBSでは基本的に社員で作る。これは会社として赤字になるリスクもあるんです。予算が決まりますよね。もし何か不測の事態で撮影がストップした場合、制作会社に任せていると予算管理がやりやすいんです」とドラマ制作の裏側を赤裸々に告白する。

 「でも、外に振れば予算は管理できるけど、ノウハウはストップする。石井ふく子さんや久世光彦さんが作ってきた伝統あるドラマの作り方、伝承されてきたものをストップさせないように、これまで社員で作ってきたっていうのが今になって生きてきたっていうかな。大型ドラマを社員でポンと作れるという、そういうものを大切にしなきゃいけないっていう心意気があったから、今回のドラマができました」。

 また、『VIVANT』では新しい試みにもチャレンジしたそう。「思い切って、1話を捨てたんです」。監督によると「日本のテレビドラマの作り方っていかに1話を面白くするかという1話勝負。1冊の本があったら1/3くらい使っちゃうわけ、話が動くから」とのこと。「“さぁどうだ、面白いでしょう。ここまでやりました!”って最大限のパワーで臨んでくるんだけど、傍から見てると、気合い入れすぎちゃって…。今の時代、作り手よりお客さんが数倍上をいってると思うんですよ。気合いを入れた1話を見ると、視聴者は『はいはい、最後こうなってこうなってこうなるのね』って大体予想がつく。そんな作り方をしちゃう」と解説。

 「それが大失敗。海外はなんだかよくわからないけど面白そう、なんのドラマなんだかわからないように作ってる」といい、「『VIVANT』は回を重ねるうちに物語が動いていく作り方をしようと思って。1話で乃木が別班だってわかるようにやったほうがいいかなとも思ったんだけど、これがわかったらなんか面白くねえなって」と考えを変えた。「4話で結構ドラマが変わる。ほかのドラマって4話でガクって物語が落ちるところを、ガクって変わる作り方をしたんです。びびりながら挑戦しました」。

◆考察ドラマと言われるとは思ってなかった


 本作は、SNSでさまざまな考察が展開され、それも社会現象化の一助となった。福澤監督は、そんなネットの反応をチェックしていたのだろうか。「最初は見てました。第1話ザイールが2発撃たれてるとか、超スローで見て投稿している人がいて、“バレた、まずい!参ったな…”と思いましたよ(笑)。ぴったり当たってるのもあったし、“黄色は裏切り者だ”といった、まったく意識してないものもあって、途中からあまりにも多すぎて見るのは止めました」。

 演出の宮崎氏は公式SNSを担当しつつ、自身の個人アカウントでも、積極的にドラマの背景を発信していた。「(考察が)変にそこだけヒートアップしちゃってもあれかなというところは早めに解消しようと、公式で言うか、自分のアカウントで言うか、選別しながらやらせてもらいました。ノコルが日焼けしていないことも、9話くらいまで見てもらえれば、会社の社長で普段はオフィスにいるからだとわかるんですけど。ほかにも、5話で黒須(松坂桃李)と乃木が野崎(阿部)の車を追いかけているときに、絶対に気づくはずだという声もありましたが、モンゴルでは、あの道も国道なんですが、実際には砂煙があがって前後はよく見えないんです。そうしたことをきちんと解説するようにしました」。

 福澤監督自身は「考察ドラマと言われるとは思ってなかった」そう。「犯人は誰だ?と散々考察を裏切り続けて、最後これだったっていうドラマは2~3回と見たくなくなる。そういうのは作りたくなかったですし、裏切りたくなかったから、乃木は実は別班だとちゃんと見せるために、ある程度のことは1話で見せていました」と振り返る。もし続編を作ることになっても「考察班にばれずに作ることを一切考えずにやるつもりです」ときっぱり。

 一部では、本作はまもなく60歳を迎える福澤監督の集大成の作品だとする報道もあった。「もうすぐ定年で、いいきっかけでドンとやっちゃうかなというのはあったんですよ。1年間くらい考えたドラマを出していくっていう、そんなシステムに他局も含めてなっていけばと。ちゃんと作ればどうにかなる、いいものを作れば売り上げも大きくなっていくという道を見せられたらいいなと思って作ったので、僕はこれからも作りますよ」とドラマファンとしてはうれしい答えが返ってきた。

 福澤監督は隣に座る宮崎氏を見ながら「将来TBSを背負って立つだろうと思われる宮崎陽平、加藤亜季子という2人を強引に演出に入れました。激しいドラマをやればやるほど、自信がつくんです。これくらいのことを経験すれば、彼らは羊3000頭くらいいけるわとか、トラックやパトカーをぶっ潰すのは6台くらい用意しとけばいいかといったやり方やノウハウを現場で学んでいく。そういうために無理やり社員を入れたんです。ADもほぼTBS社員で構成しました」と明かす。宮崎氏も「勉強になりました。この時ジャイさん(注:福澤監督の愛称)はこうしてたなっていうものが僕の中に蓄積されましたし、自信になる前例を目の前で見せていただき、情熱を持って1つの作品に頭から最後まで携わらせていただいて、本当にありがたい機会でした」と感謝する。

 「経験値ですよ。宮崎は『陸王』とかをやってるから、1万人くらいはさばけると思うんですよね。経験してるとどんどんどんどん大きなスケールで作れます。びびらなくなる」と語る福澤監督は、「とにかくやらせる。そして最後は、“ドラマは体力だ”ってことをわかってもらう」と笑っていた。(取材・文:編集部)

 『VIVANT別版 ~副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界~』は、U-NEXT Paraviコーナーで12月15日より独占配信(#1~#4/12月15日12時~、#5~#7/12月22日12時~、#8~#10/12月29日12時)。

『VIVANT』福澤克雄監督 (C)TBS