2013年~15年に生活保護基準額を引き下げた国の決定が生活保護法に違反していたとして、賠償を命じた名古屋高裁の判決を受け、原告弁護団は12月1日厚労省の担当者と面会した。「国の信頼回復に一刻の猶予もない」などと記した上告しないよう求める要請書を手渡した。

長谷川恭弘裁判長が「厚生労働相には重大な過失があった」などと踏み込んだ表現で判断を示したことについて、自身も20代のころに生活保護を受けたことがある85歳の内河恵一弁護団長は「極めて人間らしい、気持ちが入った判決」と評価した。同様の訴訟は全国29カ所で行われているが、国への賠償命令は初めて。

●判決「厚労大臣には重大な過失」

名古屋では2020年の一審判決で原告側が敗訴していたが、逆転した。一方、大阪では減額処分を取り消す一審判決が出たものの、2023年4月に大阪高裁で敗訴した。

正反対の結果となったことについて、原告団は厚生労働大臣の裁量についての判断枠組みの違いだとする。名古屋高裁の長谷川裁判長は、厚労省が独自の基準を使った計算などを引き下げの根拠にしていることを挙げ「統計等の客観的な数値等との合理的関連性および専門的知見との整合性を欠いている」とし、裁量権の範囲を逸脱していることは明らかと断じた。

その上で、基準について定めた生活保護法3条、8条に違反するだけでなく「厚労相には重大な過失があり、国家賠償法1条1項の適用上も違法と評価される」とした。

●弁護団長「日本に住む皆が幸せに」

この日、厚労省の担当者との面会は約1時間40分にわたったが、回答は「関係省庁や自治体と協議する」というものだった。

13人の原告のうちの1人、澤村彰さんは、不服申し立ての自治体とのやりとりに始まり訴訟に至るまで9年間交渉し続けているとし「もう通り一遍の回答は聞き飽きた」と失望した様子。「もっとよこせと言っているわけではない。間違った方法で引き下げられたから元に戻してと言っているだけなんです」と訴えた。

別の原告、安藤美代子さんも思いを述べた。「全国の方たちのためにもなんとか報告したかった」。闘っている1000人近くの仲間のためにと、体調不良をおして上京したという。内河弁護士は「政治の世界でも、国民世論でも大きく議論されていくべきです。日本に住む皆が幸せで平和になっていく社会福祉国家になってほしい」と話した。

生活保護費減、初の賠償命令「国の信頼回復に猶予なし」 原告団が厚労省に要請書