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 世界で初めて、大人のシャチが息を引き取る最後の瞬間をカメラがとらえたそうだ。

 11月6日ノルウェー、ルッパ島の北の海で、ぐったりと海面のすぐ下を漂うシャチ(Orcinus orca)の姿が撮影された。

 「ハンチー」と呼ばれるオスは35歳前後と見られている。体には力が入っておらず、若いシャチ2頭は彼が沈まぬよう、必死になって押し上げようとしていたという。

 20年以上もシャチを観察し、この瞬間に立ち会ったピエール・ロベール・ド・ラトゥール氏は、仲間が懸命にハンチーを助けようとしているの姿に感動しつつ、死にゆくシャチの姿に悲しみを覚えたという。

【画像】 やせ細り年老いたシャチが死にゆく瞬間

 シャチの間で何か尋常ではないことが起きていることを悟ったロベール・ド・ラトゥール氏は海に潜り、その様子を詳しく観察することにした。

 35歳前後とみられる年老いたシャチのオス「ハンチー」はやせ細っており、お腹の形からしばらく何も食べていないことが見てとれたという。

 シャチ平均寿命はオスで29歳ほどだが、60歳まで生きる個体もいる。一方メスの平均寿命は50歳程度だが、90歳まで生きる個体もいる。

 カメラがとらえた映像では、2頭の若いシャチがその場から離れた後、ハンチーが海面のすぐ下でぐったりと力なく漂っている姿が確認できる。

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瀕死のシャチをなんとか助けようとしていた若い2頭のシャチ

 ロベール・ド・ラトゥール氏によると、2頭の若いシャチは、ハンチーと離れたところにいる群れの間を往復しつつ、死にかけたハンチーをどうにか助けようとしていたという。

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 「こんな光景は初めてです。彼のことは知っていたので、胸に込み上げるものがありました。それから、彼の大きな体が沈んでいくところが見えました」

 時に人間とトラブルを起こすこともあるシャチだが、彼らは困っている仲間を見捨てないと言われている。

 そして若いシャチたちは、ハンチーを放っておけば溺れてしまうことがわかっていた。

 海の中で生きるシャチは、最大15分程度なら潜ってままでいられる。だが哺乳類であり息をしなければいけないため、通常、休息中なら1分おき、移動中なら3~5分おきに浮上して息継ぎをする。

 だが50分が過ぎたころ、仲間はあきらめたようだった。「彼らは最後の瞬間まで、ハンチーを助けようとしていました」とロベール・ド・ラトゥール氏は話す。

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大人のシャチの死の瞬間をとらえたのは初めて

 アイスランド大学のシャチ研究者であり、アイスランドオルカ・プロジェクトを創設者したフィリパ・サマラ氏は、大人のシャチの個体の瞬間が撮影されたのは、北大西洋どころか、おそらく世界でも初めてだろうと語っている。

 「私の知るかぎり、群れにいる大人の死と、大人が死にそうなときに仲間がとる行動が、これまで観察されたことがありません」

 ただし子供のシャチの死ならば記録されたことがある。そうした時、シャチの親は、非常に特殊な行動を見せると、サマラ氏は説明する。

 「子供を抱えて、海面に押し上げようとする姿が何度も観察されています。時にそれは数日間も続くことがあります」

 北太平洋東部で暮らすシャチの群れ「サザンレジデントシャチ」のある母親は、死んだ子供を2週間以上抱き続けていたという。

最後まで助けようとしていたシャチの仲間

 なお、ハンチーの死亡自体は確認されていない。ロベール・ド・ラトゥール氏によれば、1、2時間後にまた別の船が現場に到着した時、同じような必死の救助活動が目撃されたそうだ。

 だがロベール・ド・ラトゥール氏はハンチーがまだ生きているとは思っていない。

 「彼はもう死んでいるでしょう」

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References:Dying orca's final moments after 'desperate' effort to stay afloat captured in 1st of its kind footage / written by hiroching / edited by / parumo

 
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世界初、瀕死のシャチが沈まないよう必至で体を支え助けようとする2頭の若いシャチの姿が捉えられる