ここ数年で耳にする機会が増えた、モバイルゲームのサービス終了のニュース。はっきりと潮目の変化を感じているフリークもいるのではないか。

参考:【画像】ライザなどシリーズの人気キャラも登場する『レスレリアーナのアトリエ』

 本稿では、海外の調査会社が発表したデータと日本国内の現状から、モバイルゲーム市場の未来について考える。

■8割強が3年でサービス終了。米・英モバイルゲーム市場の現状

 11月24日、国内のゲームメディアに配信されたモバイルゲーム市場に関連するニュースが話題を集めていた。

 ソースとなっていたのは、スロバキアに本社を構える市場調査会社・SuperScaleのレポート。同社は2023年10月6日から12日にかけて、米国の251社、および英国の253社のゲーム開発会社にアンケートを行った。対象となった企業からは、「43%ものモバイルゲームがリリース前に開発中止となっている」との回答が得られたという。また、運営に関する設問では、約17%が半年以内に、約47%が1年以内にサポートを終了している実態も明らかとなった。3年以内に終わりを迎えるタイトルとなると、その数は約83%まで膨れ上がるそうだ。

 モバイルゲーム市場の台頭が著しい日本や中国、韓国などの国では、これほどはっきりとした動向は見えていないと考えられるが、それでも少しずつ縮小の気配が見え始めている。米国の市場調査会社・Sensor Towerによると、2022年には、国内市場でもモバイルゲームのアプリ内課金収益が下落の傾向を見せたという。

 いちプレイヤー目線での実感としても、ここ2~3年は“早期撤退”のニュースを耳にする機会が増えた。直近では2023年10月30日、リリース前から注目を集めていたセガの名作ゲーム擬人化RPG『404 GAME RE:SET -エラーゲームリセット-』(以下、『エラーゲームリセット』)が、2024年1月5日12時をもってクローズすることを発表している。2023年4月末のリリースから約8か月での撤退は、ゲームフリークのあいだでも大きな話題を呼んだ。

 SuperScaleの調査からは、モバイルゲームをリリースする難しさ、さらにはリリースを迎えられたとしても、継続して運営していくことの難しさが見て取れる。スマートフォンが広く普及して以降、コンシューマーゲームに取って代わる勢いで拡大を続けてきたモバイルゲームの市場だが、世界的に過渡期に差し掛かりつつあるようだ。

■「成功方程式」確立の気配ただよう2023年。モバイルゲーム市場に見え隠れする“分断”とは

 一方、日本国内の市場だけに目を向けると、こうした概況に逆行するトピックも少なくない。2023年10月30日には、コーエーテクモゲームスを傘下に抱えるコーエーテクモホールディングス株式会社が、2024年3月期・第2四半期の決算を公開。そのなかで、モバイルゲームの売上高が前年同期比で34.2%増の110億7,000万円となり、過去最高を更新したことを明らかにした。

 同社はその理由について、「(それぞれ2023年8月31日9月23日に配信開始となったモバイル向けタイトル)『信長の野望 出陣』『レスレリアーナのアトリエ ~忘れられた錬金術と極夜の解放者~』が収益貢献したため」と説明している。すでにリリースされていた『信長の野望 覇道』や『三國志 覇道』『三国志・戦略版』(国内では『三國志 真戦』)『三国志・戦棋版』の堅調さにくわえ、直近にサービス開始となった話題の新規タイトルの好スタートが収益の増加を牽引した形だ。

 また、株式会社カプコンが2023年9月14日にリリースしたモバイル向け位置情報ゲーム『モンスターハンターNow』は、サービス開始からの半月で30億円以上を売り上げたことが明らかとなっている。10月半ばには、累計ダウンロード数が1,000万回を突破。2か月以上が経った現在もなお、セールスランキングでは上位をキープし続けている。少なくとも国内市場においては、成功と呼べるようなタイトルが数多く登場している現状がある。

 国内市場における成功例として紹介した『信長の野望 出陣』『レスレリアーナのアトリエ ~忘れられた錬金術と極夜の解放者~』『モンスターハンターNow』はいずれも、既存の人気シリーズから登場したモバイルゲームだ。『エラーゲームリセット』のような完全新作のタイトルがターゲットを掘り起こすところから始めなくてはならなかったのに対し、シリーズファンの一定数をユーザーとしてすでに獲得している状況からスタートできたことが、好調な推移につながったと考えられる。しかしながら、そのようなユーザーが定着するかは、ゲームそのものの出来に依存する部分もあるだろう。「一定のクオリティが担保されていたからこそ、運営する大手ゲーム会社の収益に影響するほどの結果を残せた」という見方もできるはずだ。

 なぜこれら成功例は、モバイルゲームとして一定のクオリティを担保した状態でリリースを迎えることができたのか。その背景には、あらかじめユーザー数/売上が計算できたことによる、予算や工数を投じやすい環境の存在があったのではないか。つまり、好スタートの理由も、ユーザーを定着させられた理由も、「3作が既存の人気シリーズから誕生したモバイルゲームだったから」ということになる。無論、これらに関しては、冒頭で取り上げたような「リリース前に開発中止」という選択肢もなかっただろう。

 こうした点を踏まえると、モバイルゲーム市場は、圧倒的な知名度など、開発時点での大きなアドバンテージがないかぎりには、(商業的な)成功作を生み出しづらい構造となりつつあるのではないか。既存IP発のタイトルは成功しやすく、新規IPとなるタイトルは成功が難しい。両者のあいだには、決して簡単には埋められない溝が存在する。これは“分断”と言っても過言ではないのかもしれない。

 とはいえ、ヒットタイトルとなったときに得られるリターンが大きいことから、今後も制作自体は続いていく可能性が高い。大きな成功を夢見て、累々と失敗が連なっていく状況も考えられるだろう。いちユーザーからすると、プレイの先にサービス終了がちらつく状況は、課金を躊躇させる。この点もまた、市場規模の維持・拡大にあたっては向かい風となる。

 潮目の変化を感じさせる、モバイルゲーム市場の現状。2024年には、新規IPとなるタイトルが不安を払拭してくれることを期待したい。

(文=結木千尋)

画像=Unsplashより