2019年の第17回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作を実写映画化した『怪物の木こり』(公開中)で、初タッグを組んだ三池崇史監督と亀梨和也。MOVIE WALKER PRESSでは、10月に本作のワールドプレミアが行われた「第56回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭」への渡航に密着し、三池監督と亀梨に現地でインタビューを敢行。まさか自分が監督やアイドルになるとは思っていなかったという2人が、キャリアのスタートから無我夢中で突き進んできた道のりと未来までを語り合った。

【写真を見る】シッチェスで現地のファンに囲まれる亀梨和也。写真撮影やサインを求める声にも真摯に応えた

怪物の仮面を被ったシリアルキラーによる、人間の脳を奪い去る連続猟奇殺人事件が発生。次のターゲットとして狙われた弁護士の二宮彰(亀梨)は、怪物との対決に挑みながら驚愕の真相に辿り着いていく――。本作で亀梨は、目的のためには殺人すらいとわない冷血非情なサイコパスを演じている。同映画祭で上映された本作は現地の観客に熱狂的に迎えられ、三池監督と共に記者会見や舞台挨拶に登壇し、現地のファンとも交流した亀梨が「たくさんいいエネルギーをいただいて、自分の未来についてもいい影響を与えてくれそうな旅になった」と、充実感をにじませていたのも印象的だ。

■「亀梨さんなら、二宮のことを理解できるんじゃないかと思った」(三池)

――シッチェス映画祭での上映が叶いました。世界中の観客の皆さんに、どのように楽しんでほしいと感じていますか?

三池「タイトルやポスタービジュアルから、ものすごいスプラッターを期待している人もいると思います。そういった人たちが裏切られながらも、本作のヒューマンドラマとしての側面について『おもしろい』と感じていただけたらとてもうれしいですね。この映画は“罪と罰”の物語であって、亀梨くん演じるサイコパスがある変化をしていきます。それは悲惨な物語にも見えますが、僕は救いのある映画だなと思っていて。そこが伝わってくれたらいいなと思っています」

亀梨「シッチェスに着いてから、ファンの方が目をキラキラとさせて監督に話しかけている姿をたくさん目にしていて。監督のファンの方々が、ものすごく楽しみに待ってくださっていたんだなと感じています。本作はサイコパスを主人公にした映画ですが、そこには人と人との物語があって。自分ではどうにもならないことが起きてしまい、それぞれのキャラクターが運命や宿命に立ち向かっていく。そういった状況はきっと世界共通で人の心を揺さぶるものだと思うので、ぜひキャラクターたちのドラマをじっくりと観ていただけたらうれしいです」

――二宮は普通の人間とサイコパスを行き来するようなキャラクターですが、亀梨さんが二宮役にぴったりだと思われたのは、どのような点でしょうか。

三池「亀梨さんには、アイドルとして培ってきた時間がありますよね。自分が作りあげた人格と同居し、“亀梨和也”として世の中に存在し続けている。そうやって生きてきた亀梨さんなら、僕らとはまったく違う台本の読み方ができるし、きっと二宮のこともすごく理解ができるんじゃないかと思いました。だからこそ役作りするうえでも、変に作り込みすぎる必要はないなと。自然に、むしろ控えめに演じてもらったほうが凄みが出ると思ったので、『自分の感性の赴くままに演じてほしい』とだけ伝えました。本作は観終わったあとに、ちょっとホッとするような優しさを感じる映画でもあります。そのあたりは、亀梨さんの根っこにある人柄が出たんじゃないかな」

亀梨「漏れちゃってましたか?(笑)」

三池「漏れてたね(笑)。人は誰しも、いろいろな出来事に遭遇しながら、いろいろな人と触れ合いながら、大人になっていきますよね。でも自分って、どういうところからスタートした人間なんだろう。自分らしさってどこから生まれたんだろう。自分に立ち返っていく二宮を通して、そんなことを考えられる映画になったんじゃないかなと思っています」

――二宮が自身の過去を知り「本当の自分とは?」と葛藤していく過程も、とても見応えがありました。亀梨さんはアイドルとして生きてきた経験が、二宮にどのように注がれていると感じていますか。

亀梨「たしかに、“本当の自分”ってなんだろうという本作のテーマには、とても深いなと感じるものがあって。僕は基本的に緊張しいだし、怖がりなので、小学生のころなんてジェットコースターに乗るのも嫌いなくらいでした。それが、帝国劇場の舞台の天井から自分で手を離して落ちるということもやったりするようになって(笑)。普通に生きていたら、そんなことは絶対にやらなかったと思います。本当だったらできないよな、逃げだしたいなと思うことでも、アイドルの亀梨和也だからこそ乗り越えられたことって、ものすごくたくさんある。僕はよく、鏡を見ながら『お前、亀梨だろ。亀梨なら大丈夫』とおまじないのように言うこともあって。“亀梨和也”を構築していくにあたって、そうやって自分と戦ってきた時間は少なからずあるので、20代中盤は『どっちが本当の自分なんだろう』と考え込むこともありました」

――劇中に登場する絵本のなかでは、木こりとして生きる時間が長くなった怪物が、自分は「怪物なのか?木こり(人間)なのか?」と思案する場面がありますが、亀梨さんもそのような悩みを抱えていたのですね。

亀梨「まさにそのとおりです。僕は12歳で芸能事務所に入っているんですが、芸能生活が自分の人生の半分を越えたあたりで『あれ?どっちが本当の自分なのかな?』と思うようになって。僕は、レバーカチカチ回してつけるような古いお風呂のある、6畳2間の家で、6人家族のなかで育ってきました。それがだんだん有名になるにつれ、オシャレな家に住んで、いい車に乗って…という日々のほうが長くなってきた。今後、結婚して夫となり、子どもができて、父親の顔になることがあったとしたら、そこでも『自分は果たして何者なのか』と思うことがあるかもしれません。そう考えてみると、本当の自分について考えることは、僕に限らず人間の一生のテーマなのかなと感じています」

■「自分がアイドルになるなんて全然思っていませんでした」(亀梨)

――三池監督は、常にバラエティに富んだ作品を世に送りだしています。“バイオレンスの巨匠”とも呼ばれ、本作のような危険な香りのする映画も数多く作られていますが、どのような企画に心を動かされますか。

三池「僕はいつも『なにかを撮っていたい』とは思っていますが、『こういう監督になりたい』『こういう映画を撮りたい』という自分の欲は持たないようにしています。そもそも『監督やれるよね?』と打診されるまで、自分がなれるなんて思っていませんでしたから。『俺が監督?』みたいな感じですよ(笑)」

亀梨「そうなんですか!監督にならなかったとしたら、どのような道に進んでいたんでしょう。とにかく映画には携わっていたかったということですか?」

三池「なんでも仕切れる、スーパー助監督ですね。僕はずっとフリーで助監督をやっていて、当時はあちこちの会社の現場に行っていたんですね。そうするといろいろなところに知り合いができて、『あいつがいると現場がうまく回るよ』と言ってもらえるようにもなったりして。監督がどのようなイメージで撮りたいのかを聞いて、時間と予算に合わせて段取りを組んだりと、現場のサポートをしていくのが、助監督の仕事。助監督としてのプロになれたら十分だったし、チーフ助監督になれた時には『チーフまで来たか』という達成感もあって。そうしているうちに、代打で監督を任されたんです。いつも『こうなりたい』と思っていたわけではなく、『現場がおもしろい』という気持ちが原動力となって、ここまで来ました。現場以外の僕は、かなりのダメ人間です(笑)」

亀梨「あはは!それこそ、『どっちが本当の自分なんだ?』という感じですね」

三池「でも亀梨さんの場合は、ある意志を持って進んできたんじゃない?」

亀梨「芸能事務所に入ってからは、そうですね。それまでは野球選手になりたくて、自分がアイドルになるなんて全然思っていませんでした。もともとのエネルギー源となったのは、『両親のために大きな家を建てたい』という想いだったと思います。子どものころから“おうちコンプレックス”があったので、スターになってお金を稼ぎたいなと。でもこの世界に入って、たくさんの刺激に触れるようになって。先輩が素敵な衣装を着てマイクを持って歌っていると、そのバックにつきながら『こうなりたい』と思ったり、ドラマや映画を観て『お芝居をやってみたい』と思ったり。ドームに立ちたい、月9に出たい、ベストジーニスト賞がほしいなど、10代のころに抱いていた憧れは、ありがたいことに20代前半のうちにいろいろと叶えることができました。僕はそうやっていろんなことに触れてみて、やりたいものを見つけていくタイプなのかなと思っています。事務所で『これからなにをしたい?なにになりたい?』と夢について質問をされたとしても、『なにもない』というのが悩みではありましたが、逆を言えば『これしかやりたくない』というものがないからこそ、バラエティにも出るし、スポーツキャスターもやれば、アイドル、舞台、ドラマ、映画など、いろいろなことに挑戦できたのかなと。そういう機会をいただけた縁や巡り合わせにも、とても感謝しています」

■「自我を捨ててなにかに打ち込むうちに、道が開けてくるもの」(三池)

――お2人は、本作で初タッグを組まれました。実際に現場でご一緒してみて、亀梨さんにどのような印象を抱きましたか。

三池「『一つ一つの仕事をとても大事にしているな』という印象を受けました。常に全力でぶつかるんですが、それでいて周囲にプレッシャーを与えない感じがとてもいいなと思って。暑苦しくない(笑)。また佇まいからも、覚悟を感じる人ですよね。言い訳をしないし、なにがあってもうろたえないような感じがある。自分が過ごしてきた時間を否定せずに、受け入れようとしている。そういった覚悟があると、自信につながりますよね。先ほど夢がないのが悩みだったという話がありましたが、人間って、目の前のことに夢中になっているうちにあっという間に時間が過ぎて、気づくと違う場所に立っているもの。自我を捨ててなにかに打ち込むうちに、道が開けてくるものなのかなと思っています」

――無我夢中になっているうちに、その姿を見て、自分のことを信じてくれる人が出てきたり、次のステージへと導いてくれる人が出てきたりするようにも感じます。

三池「そういうものですよね。助監督というのは、たとえば女優さんが交代することになったとしたら『その人に合う赤いパンプスを急いで探さなきゃ!』と、パンプスを探すことに必死になるような仕事なんですよ(笑)。なぜ俺は赤いパンプスを探しているんだ…と考える意味も時間もないような感じで。そういうことの積み重ねでした」

亀梨「一生懸命にパンプスを探しているうちに、きっとまたいろいろな人と出会ったりするものですよね。パンプスを探すためにこの人に話しかけた、という出会いもあったりする。そこからつながる縁もあるだろうし、縁って本当におもしろいものだなと思います」

――それぞれがひたむきに打ち込むことで、チーム全体の熱気につながることもあると思います。本作の現場の雰囲気はいかがでしたか?

亀梨「本当にエネルギーのあるチームでした。監督とはクランクイン前から役作りについてたくさんお話しさせてもらいましたし、現場に入ってからも俳優部としてやるべきことに集中ができるような環境でした。アクションについても、監督がご自身で動いて見せてくれたり、各部署の方々が『これはどうでしょう』『ああやってみたらどうだろう』と監督に自分の考えをプレゼンしたりと、熱量の高さを常に肌で感じていました。僕もこの作品のために費やしている時間がものすごく心地よかったです」

■「ファンの方がいるからこそ、暗い道のりでも進んでみようと思える」(亀梨)

――亀梨さんは今年、芸能活動25周年を迎えました。お仕事への向き合い方で変化してきたことはありますか。

亀梨「監督のおっしゃるように、僕も無我夢中で進んできたと思います。ただ年々、雑念が増えてきたようなところもあって。若いころのほうが、なんの雑念もなく、なぜこんなに自信を持って生きていられたんだろうと思うくらい(笑)。怖いもの知らずだったのかもしれません。10代や20代の半ばくらいまでは『お前、亀梨だろう』という洗脳で乗り越えられていたものが、出会いの幅が広がったり、経験が増えるごとに、だんだん自分の足りなさに気づいてきて。20代後半、30代前半はそういう想いが強く、僕にとって一番辛かった時期かもしれません。でも最近はそれが吹っ切れてきて、とても心地がいいんです。『足りないと思うのであれば、まだまだ自分にはやることがあるんだ。頑張る場所がたくさんあるんだ』と覚悟できたんだと思います」

――今年はインスタグラムやYouTubeを始めたりと、亀梨さんにとって変化の年になりそうです。

亀梨「少し前から、今年はそういう年にしたいなと感じていました。覚悟を持って進んだものは、とにかくやりきる。最近はそう思いながら、しっかりと自分に向き合い始めることができているような気がしています」

――40代に向けて、いい風が吹いているようです。三池監督は40代に入ってすぐに、『オーディション』や『殺し屋1』など観客に新鮮な驚きを与えるような衝撃作を生みだしています。40代をどのように過ごすといいと思われますか?

三池「亀梨さんは、自分らしくやっていく人だと思うので僕からのエールは必要ないかもしれませんが(笑)、やはり必要とされる人になることが大事なんだなと。『この企画だったとしたら、あの人がいいんじゃないか』と思ってもらえるようになると次の扉が開いていくし、そういう形でお互いが存在していけるといい。それは監督としてもそうですし、役者さんとしてはキャスティングされる存在として立っていなければいけない。運命が交われば、また一緒の扉を開けられるはずですし、お互いにいつか必要になる時がきっと来るはず。本作が、そういった希望が広がっていく扉のひとつになったらいいなと思っています」

亀梨「ものすごくありがたいお言葉です。本作の現場はもちろん、今回の旅を通しても、映画の現場にもっと触れたいなという想いが強くなりました。自分にとって力や時間を注いで挑んでいきたいもののひとつは、映画なのかなと。映画の現場もとても好きですし、完成した作品を観ても、スケール感を含め『こんなに贅沢なものはないな』と感じます。エンドロールでは各部署の方々の顔も浮かぶし、みんなで過ごしてきた時間や体感したこともすべてがひとつの形になるなんて、こんなに素敵なことはないですよね。これはやめられないなと。昨夜、三池監督とお食事をしていてカンヌ映画祭に行った時のお話を聞きながら、そういう場所に行けるようになりたいと憧れたり、本作を通してたくさんの刺激をいただいています。ここで感じた想いを、大切にしていきたいです」

――シッチェスでも、亀梨さんはファンの方からサインや写真撮影を求められていましたし、海外のファンの方と出会う機会にもなりました。

亀梨「僕もファンの方のことをすごく大切に思っていますし、ファンの方がいるからこそ、暗い道のりでも進んでみようと思える。僕の支えであり、エネルギーになっています。ただ、ファンの方が喜ぶことだけをしたり、ファンの方が求める自分だけでいようとも思わないタイプなので、そこはご了承いただきたいなと。僕は嘘をつくのがめちゃくちゃ下手ですし、生き方も下手くそで(笑)。僕がこのように進みたいという欲望が出てきた時は、きちんとそれを示したいと思っています。そうやっていくことで見られる景色を共有できる間柄でいられたら、とても幸せです」

取材・文/成田おり枝

スペイン・シッチェスで『怪物の木こり』三池監督×亀梨和也が対談