クイズ王・伊沢拓司が率いる東大発の知識集団「QuizKnock」が、動画制作の裏側を公開した。“エンタメと知の融合”という方針のもとにつくられたQuizKnockの動画は、勉強コンテンツにも関わらずなぜ面白いのか。今回は、QuizKnockの動画が面白い理由を動画制作過程から紐解いてみたい。

参考:【写真】制作時間50時間越えとなる動画づくりの様子

 QuizKnockは伊沢をはじめ、各々がテレビや出版業界などで活躍する頭脳派集団だ。エンタメ業界で大活躍の彼らは2017年4月にYouTubeチャンネル「QuizKnock」を開設すると、ふくらPが中心となり、楽しみながらも安心して知識が得られる動画を次々と制作。いまや登録者数213万人という、人気YouTuberとしての顔もある(2023年11月30日時点)。

 100万再生以上の動画を立て続けに生み出すQuizuKnockだが、実は動画制作には出演者以外に10名の企画プランナーや作問担当者、編集者、校正、校閲担当者など大勢が関わっている。2023年11月26日に投稿された動画では、同年10月17日に公開した「【間違いを探せ】東大卒なら文章内の誤字、指摘できるよね?(以降、間違いを探せ)」という動画の企画会議から作問、撮影、編集、校正・校閲の様子に密着。1本の動画をつくり上げるまでを紹介している。

 先立って公開された『間違いを探せ』は、普段から動画に出演する河村が企画したもの。この企画には「ちゃんと学びになって、バトルも楽しめる」というテーマがあり、河村と作問担当者が丁寧に動画のイメージをすり合わせる様子が印象的だ。河村との確認を重ね、約16時間をかけてようやく問題が完成したのだが、すぐに撮影とはいかないのがQuizKnock。作問者とは別の人物が問題文が正しいかチェックしているという。今回は問題に複数指摘が入ったため不備がなくなるまで修正を重ね、ようやく撮影に至った。

 撮影後に行われる編集では、担当者が企画発案者や出演者による撮影後のフィードバックに沿い、問題の解答や解答につながる伏線を、カットや画角、テロップで忠実に動画に収めていくのだが、とくに同企画で笑いどころとなる「大逆転チャンスYeah!!!」や「老骨に鞭打つ」のカット割りや画角は要注目ポイントだ。面白さと正しい情報を伝える努力には、ただただ感嘆するばかりである。

 編集者が作業を終えると、今度は校正・校閲担当者による徹底したファクトチャックの工程へ。今回の密着動画には、ふくらPが同チャンネルのコンテンツについて「ネット情報に比べると、正しい確率がめちゃめちゃ高い」と話すシーンがあるが、その言葉を裏付けているのが、まさにこの校正・校閲だ。誤字脱字のみならず出演者の発言も対象となる校正・校閲にかけられた時間は約5時間半。校閲担当によるチェック後には編集担当者による修正とふくらPのチェック、サムネイルの作成などが同時進行で行われ、制作時間55時間37分に及ぶ『間違いを探せ』は、ようやく公開に漕ぎつけたのだった。

 実際に公開された12分40秒の『間違いを探せ』をみてみると、そこには企画者の河村や作問者の意図どおり、問題に困惑する出演者が映っており、今回の企画の成功を物語っている。編集者が悩んだ「大逆転チャンスYeah!!!」は視聴者にも好評で、時間をかけた校正・校閲も、動画を通して正しい知識を伝えるためにいかに重要な工程であったか、テロップを見れば一目瞭然だ。

 この裏側密着動画に登場したのは動画制作に携わる一部のメンバーだったが、実際には各工程に複数人の担当者が存在しており、ふくらPを中心としたYouTube制作チームは大所帯。ものごとにおける方向性や目的は、人数が多いほどずれが生じる可能性が高いわけだが、QuizKnockが大人数で活動しても“エンタメと知の融合”という方針からブレない理由は、「クイズってかっこいい」というふくらPの長年の思いに共鳴している人びとが集まっていることにあるようだ。

 今回の動画は、QuizKnockの活動方針とそれを体現する制作チームの統一性がみられた貴重なコンテンツといえる。今後QuizKnockの動画を視聴する際は、動画制作に携わる人びとの意図や思いを想像しながらみると、より動画が面白くなるかもしれない。

(文=せきぐちゆみ)

動画サムネイルより