中東のアラブ首長国連邦が、国産の防衛品開発に乗り出しています。これまでの外国産兵器への依存から脱却を図る背景に、「ポスト石油」を睨んだ意図が見え隠れしています。そこに日本が一役買う余地はあるのでしょうか。

UAE軍が国産無人機を100機導入 脱アメリカ依存?

UAEアラブ首長国連邦)の総合防衛企業であるEDGEグループは2023年11月16日、ドバイ・エアショーの会場で、UAE軍から固定翼UAS(無人航空機システム)「REACH-S」を100機受注したと発表しました。UAE軍がMALE(中高度長時間滞空)に分類される国産UASの導入を決めたのは、これが初めて。産油国で知られるUAEが、防衛産業を強化する動きにおいて、ひとつの画期となりそうです。

REACH-SはアメリカのMQ-9「リーパー」などと同じ、MALEに分類されるUASで、自律離着陸機能を備えており、行動可能距離は最大200kmと発表されています。胴体下部には電子工学センサーを搭載するためのマウントを備えており、主な任務は国境警備や偵察ですが、EDGEグループは兵装の搭載も可能であることと、既に試作機が兵装の投下試験を行っていたことも明らかにしています。

UAE軍は長年、アメリカに対して兵装の搭載が可能なMQ-9の売却を求めていましたが、兵装の搭載が可能なMALEに分類されるUASの売却は、大量破壊兵器の拡散防止を目的として1987年に発足した「ミサイル技術管理レジーム」で制限されています。

UAEはこのミサイル技術管理レジームを批准していません。このためアメリカはMQ-9の売却を認めず、MQ-9と同じジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)が開発した、兵装を搭載できないMALE「プレデターXP」の輸出のみを認めてきました。

そのGA-ASIは11月13日に、EDGEグループが開発した精密誘導兵器を、自社のMALEであるMQ-9B「スカイガーディアン」に統合することで同社と合意しています。ただ、これはUAE軍がREACH-Sの導入により、兵装の搭載が可能なMALEの分野でもアメリカへの依存を脱却しようとしていることに対する、GA-ASI、さらに言えばアメリカの焦りの現れなのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

軍用機も車両も国産つくってるよ!

日本ではあまり知られていないと思いますが、UAEUAS以外にも国産兵器の開発に取り組んでおり、2019年に首都アブダビで開催された防衛装備展示会「IDEX2019」で、練習/軽攻撃機の「B-250」を発表しています。

B-250は100%カーボンファイバー製のターボプロップ機で、左右両主翼下に3か所、胴体下に1か所のハード・ポイントが設けられており、対戦車ミサイルやレーザー誘導爆弾、レーザー誘導ロケットポッドなどが搭載できます。また、胴体下にはセンサーターレットも搭載されており、偵察任務に使用することもできます。

B-250のデザインやレイアウトは、ブラジルのエンブラエルが開発してベストセラー練習/軽攻撃機となったEMB-314「スーパーツカノ」によく似ています。もっとも、機体のサイズは「本家」EMB-314よりやや大きいです。

筆者はIDEX2019の会場で、開発を担当したカリダス社(当時)にB-250とEMB-314が似ていると感じたと告げたところ、同社の担当者は「B-250はエンブラエルを退職したエンジニアを招聘して開発された」航空機であることを明らかにしました。

このようにUAEは、欧米などの実績のあるメーカーから、エンジニアの招聘や基本設計の委託、ライセンス生産権の取得といった手法を駆使して、国産兵器を開発しています。

ロシアの車両メーカーであるGAZの子会社が基本設計を担当した装輪装甲車「ニマー」シリーズは、地元のUAE軍はもちろんのこと、サウジアラビア軍やヨルダン軍などの中東諸国の軍隊、さらにはアフリカスーダン軍やヨーロッパのセルビア軍などにも採用されています。

日本の軍用機が欲しい?

REACH-Sを開発したEDGEグループは、B-250を開発したカリダスや、ニマーを開発したニマー・オートモーティブなど、25社を超えるUAEの防衛企業を統合する形で、2019年に誕生した企業です。

誕生してからまだ日の浅いEDGEグループですが、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が2020年12月に発表した全世界の防衛企業の売上高トップ100で22位にランクインしています。

SIPRIで武器・軍事支出プログラムの上級研究員を務めるピーター・ウェズマン氏は、EDGEグループの躍進を「外国の防衛企業への依存を減らしたいというUAEの願望によるもの」と分析していますが、筆者はこれに加えて、原油の生産量が減少する未来をにらんだUAE生存戦略によるところも大きいのではないかと思います。

かつての日本や現在の韓国などは、防衛産業の育成によって農業国から重工業国へと脱皮しました。UAEが「ポスト原油」体制下でも国家として生き残るため、防衛産業をテコにして重工業国への脱皮を図っているとしても、何ら不思議はありません。

日本はUAEとの間で、航空自衛隊が使用しているC-2輸送機の売却交渉を行っています。C-2のメーカーである川崎重工業UAEへの輸出に向けたプロジェクトチームを立ち上げたのは2016年のことで、2020年11月にはUAEの求めに応じて不整地運用試験も行っていますが、いまだに売却交渉は成立していません。

UAE空軍はC-17輸送機を保有しており、C-2の必要性は必ずしも高くはありません。にもかかわらずC-2に高い関心を示しているのは、単に輸送機が欲しいというだけでなく、将来の重工業国化を目指す上で、日本の持つ航空技術力も欲しいという側面があると筆者は思いますし、本気でC-2UAEへの売却を目指すのであれば、かの国が求めているであろう技術移転などを含めた、重工業国化へのサポートも必要になるのではないかと思います。

UAE空軍のF-16E。航空機はアメリカやフランスなど様々な国から購入している(画像:UAE国防省)。