現在、Huluにて配信中のドラマ「プレイ・プリ」は、数々の海外ドラマを配信してきたHuluが満を持して制作した初のオリジナル韓国ドラマ。日本では「LINEマンガ」で配信中の、2F(イエフ)作の韓国発webtoon「プレイリスト」が原作。覆面シンガーとして活動する、表向きは平凡な女子大生のSNSを、彼女の歌を気に入った超人気アイドルがフォローした事から始まるヒミツのラブストーリーだ。この作品でプロデューサーを務めているのは、日本でも大ヒットし新たな韓国ドラマブームのきっかけとなった「梨泰院クラス」のチーフプロデューサー・イ・ミナ氏だ。そのイ・ミナ氏へのインタビューが今回実現。日本を始めとする海外で韓国ドラマがウケる理由や、OTT(※インターネット回線を通じてコンテンツを配信するストリーミングサービスの総称)の急激な普及によるメリット・デメリットなどについて聞いてみた。

【写真】平凡な女子大生と超人気アイドルの秘密の恋を描く韓国ドラマ「プレイ・プリ」の一場面

■韓国と海外、どちらにも偏らない感性のバランス感覚が重要

――最近はOTTの普及で、世界中ほぼ同じタイミングで作品を観られる状況になりました。以前は、“韓国の視聴者の為に作った作品が海外に普及して、結果、ヒットする”という流れでしたが、現在は最初から海外の視聴者も想定して作るわけですよね?制作において、何か意識の違いはありますか?

イ・ミナ OTTの普及により、これまで見せる事ができなかったさまざまな題材で、果敢にさまざまな表現ができる時代になったと思います。でも、そのような過程の中で、韓国人ならば受け入れられるあるシーンが、海外の方には抵抗があったようで、視聴を途中離脱されてしまった事もありました。ですから、果敢な表現も大事ですが、グローバルマーケットにおける共感帯を作っていく、という部分がとても重要です。

作品に対する演出家の理解度がどれくらいかをしっかりと把握した上で、制作サイドや監督と絶えずコミュニケーションを取り、“偏りの無いバランスの取れた作品”を作っていく事が非常に大事だと実感しています。どんなテーマを扱うのか、どんな制作陣で構成するのか、については慎重にアプローチするようにしています。

――韓国と海外の感性の違いがあった場合、どっちを優先するか、は非常に難しい問題ですよね。

イ・ミナ 作品ごとに表現の仕方は異なってくるので、制作に着手する際には、より深く考えて取り組むべき問題だと思います。

OTTの爆発的な普及により、俳優やスタッフの取り合いが起きている

――OTTの普及で、以前に比べて制作する作品数が格段に増えましたが、そのせいで監督やスタッフ、俳優の取り合いになっているのでは…と心配になります。想定していた監督やキャスティングが叶わない場合もありますよね。

イ・ミナ そうですね。OTT時代の幕開けから取り合いはずっと続いています。だから「絶対この俳優でやりたい!」という時には、その俳優のスケジュールが空くのを待つ事もあるんですが、その間に作品の持つトレンドや流行が世間とズレてしまう場合も…。それに、制作費が天井知らずに高騰していて、TV局のドラマが作られにくくなって、作品数が大幅に減少している状況です。OTTの普及は良い事だけじゃなくて。こういった短所もありますね。

――地上波のドラマにしわ寄せが来ているんですね…。

イ・ミナ はい。それだけじゃなく、海外と韓国内のOTTの命運も分かれている状況です。単純に俳優や制作陣のネームバリューに頼るのではなく、作品の内容でしっかり受け入れられる作品が今後増えていってほしいと願っています。

■イ・ミナ氏が分析する、「韓国ドラマが海外で受け入れられた4つの理由」

――日本を始めとして、韓国ドラマが今、世界中でどんどん受け入れられている理由はどんな点だとお考えですか?

イ・ミナ いろんな要素があるので悩みますが、4つの理由を挙げたいと思います。まず1つ目は、韓国ドラマの特徴として、ジャンルが1つに限られていない、つまりさまざまなジャンルがハイブリッドされている点です。ロマンス、コメディ、時代劇、ホラー…いろんなジャンルが1つの作品に溶け込んでいて面白さが膨らんでいるのだと思います。

2つ目は、韓国人のせっかちな気性に関連していると思いますが、韓国ドラマは展開がスピーディーだという事。ストーリーをしっかり説明していく事はもちろん重要ですが、それ以上に物語の展開の速さに集中する傾向があります。めまぐるしく展開する物語が、視聴者に痛快な刺激を与えてくれるのではないでしょうか。

3つ目は、韓国ドラマは家族愛や友情など、人間がベースとして持っている感情を描く作品が多いので、視聴者の心の深い部分にタッチするのではないかと思います。これはジャンルを問わず、絶対に手放さない基本的な要素として大切にしている部分です。このように感情を伝えていく方法については、視聴者の方々にも共感されやすい点だと思いますし、俳優も感情をより繊細に表現できるように気を配りながら演じています。

4つ目は、韓国ドラマは海外の作品に比べて暴力や性的な描写の規制が厳しく、保守的なので、あらゆる年齢層が安心して観られるという点で、視聴者層が広がったのだと思います。

■今、韓国のMZ世代には日本のカルチャーが大人気

――日本でMZ世代にK-POPや韓国の俳優さんがヒットしているように、最近、韓国でもJ-POPや日本の映画やアニメがたくさん受け入れられていますよね。

イ・ミナ はい。imaseさんの「NIGHT DANCER」や、映画だと「今夜、世界からこの恋が消えても」「THE FIRST SLAM DUNK」「すずめの戸締まり」…。俳優では坂口健太郎さんが人気がありますね。

――イ・ミナさんが関心を持っている日本の俳優は居ますか?

イ・ミナ 高橋一生さんです。作品ごとに役柄に合わせて驚異的な変身を遂げる俳優さんなので、「次はどんなキャラクターでどんな姿を?」と、常に次回作が楽しみで、彼の出演作は必ずチェックしています。いつか機会があれば、是非一緒に仕事をしてみたいです。実現したら、本当に光栄ですね。

Huluオリジナル「プレイ・プリ」は、毎週土曜12:00に2話ずつ新エピソードが追加され、全8話構成で、Huluにて独占配信中。

◆取材・文/鳥居美保

Huluオリジナル韓国ドラマ「プレイ・プリ」のプロデューサー・イ・ミナ氏/(C)HJ Holdings, Inc