本記事は、マネックス証券株式会社が2023年12月1日に公開したレポートを転載したものです。

本記事のポイント

・米国の利上げ打ち止め・米国景気はソフトランディング

・相場サイクルとしては「逆業績相場」と「金融相場」が同時進行するイメージ

・日本の景気は①マイルドインフレの定着、②インバウンド、③経済対策、④円安の持続等で緩やかな成長維持

・日銀の緩和策修正はむしろデフレ脱却=金融政策正常化とポジティブに受け止められるだろう

・今期の業績は15%増益で着地。来期は前半2%、後半7%増益がコンセンサスに。PERは16倍台半ばに上昇、日経平均は2024年年末に4万2,000円を予想。

・企業の経営改革は継続。①M&A、②事業再編、③設備投資などが成長期待を高める。

2024年は「FRBの利上げが終焉する年」

かのウォーレン・バフェットが絶大な信頼を寄せ、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創設者、レイ・ダリオをして「当代最高の投資家」と言わしめた、ハワード・マークスがなによりも一番重視するものは「市場サイクル」である。

彼は予測を信頼していない。将来になにが起き、どうすればリターンを高められるか、わかる投資家はほとんどいないという。将来を見渡すことができないのであれば、では、どうやってポートフォリオを組めばよいのか?

その答えは、市場がいま、サイクルのどこにいるかを理解することだ。ハワード・マークスはこう述べている。「この先どうなるのかは知る由もないかもしれないが、いまどこにいるかについては、よく知っておくべきだ」。

換言すれば、将来の予測はできないが、現状の分析はできるということだ。その伝で言えば、いちばんわかりやすいサイクルのひとつが、FRBの利上げサイクルだろう。FRBの金融政策については、もちろん、いつから利下げに転じるかという「将来の予測」はできない。

しかし、いまが、「利上げの最終局面」にいることは十中八九、間違いない。2024年は「FRBの利上げが終焉する年」と位置付けられる(もしくはすでに終了していて、それが「はっきりと確認される年」となるかもしれない)。これが来年の相場シナリオの基礎をなすものだ。「FRBが利上げを止めると相場はどうなるか」をまず考えるのである。

古典的な市場サイクルの捉え方に、「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」というものがある。景気循環をベースに、金融政策の緩和・引き締めとそれに応じた景気の拡大・縮小を組み合わせたものだ。FRBの利上げが終焉するということは、「逆金融相場」が終わって、次は「逆業績相場」に移行することになるが、果たしてどうだろう。

この図式は極めて単純化されたもので、昨今の実態にはそぐわないところも多い。特に今般のFRBの金融引き締めは、インフレを鎮静化させることが第一の目標であったが、そもそもそのインフレは景気過熱によるディマンド・プル型のインフレではなく、コロナ禍が引き起こした供給制約によるところが大きい。

加えてロシアウクライナ戦争による資源価格上昇などが拍車をかけた面もある。当初より金融政策だけで対応できる性質のものではないという指摘がなされていた。景気の実態とはかけ離れた要素で起きていたインフレに呼応した金融政策であるので、その金融政策のサイクルと景気サイクルがズレてしまうのは、いわば当然と言えるだろう。

米国の利上げ打ち止め・米国景気はソフトランディング

そうは言っても、これだけ強烈な利上げを行ってきたわけだし、金利水準もじゅうぶん高い。経済にブレーキがかかり、米国景気がスローダウンするのはほぼ確実だ。問題は着地の仕方だが、これまでの経済指標の推移や諸条件を考慮すればソフトランディングの可能性が非常に高いと思われる。

「逆業績相場」と「金融相場」が同時進行するイメージ

それらを踏まえて来年の相場をサイクルに当てはめれば「逆業績相場」と「金融相場」が同時進行するようなイメージか。

米国景気の減速を背景に企業業績も伸び悩むが、景気減速の程度が深刻ではないので「足元の」業績を株式市場は悪材料視せず、「将来の」業績回復に目を遣るだろう。それはFRBの利下げ転換期待とセットである。つまり、景気・業績見通しと利下げ期待の綱引きとなる。

日本の景気は緩やかな成長維持

日本の景気は①マイルドインフレの定着、②インバウンド、③経済対策、④円安の持続等で緩やかな成長維持。

それが米国の状況だとすると、日本は、インバウンドデフレ終焉、経済対策の効果もあって国内景気は堅調さを保つ。そこに円安の継続も加わり、上場企業の業績は来年度も緩やかな増益が見込まれる。

日銀の緩和策修正はポジティブに受け止められる

日銀の緩和策修正はむしろデフレ脱却=金融政策正常化とポジティブに受け止められるだろう。

日銀の金融政策および為替について述べると、日銀が春にイールド・カーブ・コントロール(YCC=長短金利操作)撤廃するとみられるなど、金利が上がる可能性が出てきているがまったく問題なく、むしろポジティブ材料だ。

日銀は10月の金融政策決定会合で、長期金利の1%超えを容認する姿勢を示した。しかし足元の長期金利は0.7%を割り込んでいる(11月末時点)。

YCCが撤廃されたところで、日本の長期金利は1%前後がいいところだろう。さらに短期金利のマイナス金利も解除されるだろうが、マイナスがゼロになる程度だろう。さらに踏み込んだとしても0.25%が限度。ざっくり言って、「概ねゼロ金利」である。だから経済に対するインパクトはほとんどない。一方、金利正常化への一歩を踏み出したことで、ようやく日本も真の意味でデフレが終わり、真っ当な金融環境になるというポジティブな印象を市場に与えることになるだろう。 

来年の円相場は円高が急速に進むことはなく、140円台から150円台の水準で推移すると見ている。確かにFRBが利上げを停止し、市場で将来の利下げ期待が高まれば米国金利は低下し、金利差は縮小する。しかし、上述の通り、日本の金利は絶対的な幅という点ではほとんど変動しないだろうから、米国金利がどこまで下がるかにかかっている。

前段で景気・業績見通しと利下げ期待の綱引きとなると述べたが、さらに利下げ期待についても、早期か否かという見方がわかれて、やはり綱引きとなるだろう。住宅価格や労働市場の堅調さを考えると、早期利下げ期待は裏切られる可能性が高い。それに気づいたとき、米国金利はそれほど低下しないだろう。金利差を材料にした円買いは続かないと思う。しかも、金利差というのは、あくまで為替の要因のひとつでしかなく、そのほかにも経常収支など需給面での円安要因を考えれば、上記の範囲が妥当な為替の見通しだ。

懸念材料としては、政治リスクが挙げられる。日本では岸田政権の支持率低迷。米国では大統領選。岸田首相が退陣し、岸田政権が掲げた「資産運用立国」の旗が降ろされてしまったとしたら、外国人投資家の失望売りを呼ぶかもしれない。でも具体的に有効な「素晴らしい」施策が打ち出されているわけではない。つまり、アドバルーンを上げただけなので、仮にここでポシャってしまっても、それほど影響はないだろう。外国人投資家の注目は、日本企業が改革を続けていくかどうか。継続的な改革によって長期的に成長していけるかどうか、そこを見ている。

トランプ返り咲きになっても、株価急落の大きなリスクにはならない

大統領選の行方も懸念されるが、仮にトランプ返り咲きになっても、前回のときに特に「トランプ氏のせいで」経済がおかしくなったり、株価が下落してはいないので、大丈夫だろう。Xなどへの投稿で短期的なアップダウンはあっても大きなリスクにはならない。トランプ政権の4年間通算で米国株は大きく上昇した。その原動力となったのは、トランプ減税であり、FRBの連続利下げだ。

コロナ・ショックは大胆な金融・財政政策を呼び、結果的にハイテク株が急騰した。中国との貿易摩擦は一時的に相場の重石となっても、結局は財政・金融政策が経済と株価のパフォーマンスを左右するということである。

米国大統領選については、ここにきて明るいニュースがある。共和党の予備選でニッキー・ヘイリー氏を支持する声がウォール街中心に集まっているという。いまの段階では、まだなんとも言えないが、「バイデン vs. トランプ」一択しかなかった状況よりは、はるかにましだ。

日経平均は2024年年末に4万2,000円を予想

今期の業績は15%増益で着地。来期は前半2%、後半7%増益がコンセンサスに。PERは16倍台半ばに上昇、日経平均は2024年年末に4万2,000円を予想。

相場予想に戻ると、日本株は緩やかな業績の伸びに加え、成長期待でバリュエーションが拡大し、この2つの要因によって日経平均は4万円の大台を越えると予想する。

EPS成長とPERの組み合わせは図表3のとおり。業績(EPS)については中間決算が一巡した段階で2024年3月期の予想が13%増益(日経新聞の集計による)。半年後の本決算は控えめに見積もっても15%増益程度の着地になるだろう。その2024年3月期EPS見込みに対して、来年度の予想EPSは年前半に2%増益、後半になって7%増益が市場のコンセンサスとなるだろう。それにPERをかけたものが右端の株価である。無理のない数字だと思う。

成長期待でバリュエーションが拡大するというロジックは、7月4日公開の記事『「日経平均4万円」の根拠…成長期待の高まりが株高の背景【ストラテジストが解説】』で詳しく解説しているので、再読いただきたい。

企業の経営改革は継続

①M&A、②事業再編、③設備投資などが成長期待を高める。

この成長期待を内外にアピールするものが日本企業の変革の姿勢である。不採算事業からの撤退など事業再編を進めたり、積極的なM&Aで成長分野を取り込み、足元の業績が振るわなくても工場建設を進めるなど長期的な観点からの成長投資を実施するなど、前向きな案件が着実に増えている。こうした動きが2024年にさらに加速するか否か――それが来年の一番の注目ポイントである。

もうひとつ、重要なポイントを繰り返す。来年の米国株相場は「逆業績相場」と「金融相場」が混在するような展開になる。言い換えると、景気・業績の見通しと利下げ期待の綱引きだ。ここで問題になるのがすでに今年後半の相場が、その様相を呈してきていることだ。なにが問題かといえば、業績予想がじゅうぶんに高まらないうちに利下げ期待で株価が上がり、株価が割高になっていることである。業績予想は確かに改善している(図表4)。

しかし、金利見合いでは全然足りないのである。イールドスプレッドは過去平均の3%に対して1%前後。現状の金利のもとでは圧倒的に株価が割高だということだ。 

これが2024年の株式相場の大きな課題である。この問題にどうやって相場は折り合いをつけていくのだろうか。常識的には、米国株はマイルドな金利低下に反応するが(すでに織り込んで割高だから)、過剰には株価は上がらず、やはりモデレートな上昇にとどまる。

そうしたなか、米国の状況とは景況感も金利環境も異なる日本株がデカップリングして強い上昇を演じられるか。辰巳天井の格言どおり、高値を目指す展開を期待したい。無論、辰巳天井のその先の高値へと続く2024年の相場として、である。 

広木 隆

マネックス証券株式会社

チーフ・ストラテジスト 執行役員

(※写真はイメージです/PIXTA)