※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。2023年11月のマーケットを振り返り、「1. 概観、2. 景気動向、3. 金融政策、4. 債券、5. 企業業績と株式、6. 為替、7. リート、8. まとめ」のそれぞれについて解説します。

1.概観

【株式】

11月の主要国の株式市場は、世界的に長期金利が大きく低下したことを受けて、投資家のリスク選好姿勢が強まったことから、中国を除き上昇しました。米国株式市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ局面が終了したとの見方が強まり、米長期金利が大幅に低下したことを好感して、大きく上昇しました。欧州の株式市場も、長期金利が低下するなか、米国株の上昇を受け、堅調な展開となりました。日本の株式市場も、日本企業の決算が好調なことや、米長期金利の急低下に伴いハイテク株などに買い戻しが入ったことから、大幅な上昇となりました。一方、中国株式市場は、景気対策期待が下支えとなったものの、中国不動産市場の低迷による景気減速懸念などから上値が重く、上海総合指数、香港ハンセン指数ともにほぼ横ばいでした。

【債券】

米国の10年国債利回り長期金利)は、FRBが米連邦公開市場委員会(FOMC)で2会合連続の政策金利据え置きを決めたことを受けて、利上げ局面が終了したとの観測が強まったことから、大きく低下しました。ドイツ長期金利は、欧州経済の減速や米長期金利の大幅な低下を受けて、低下しました。日本の長期金利は、米長期金利が大幅に低下したことや、日銀が早期に金融緩和政策の修正に動くとの見方が後退したことから、低下しました。

【為替】

円の対米ドルレートは、FRBによる利上げ局面が終了したとの見方が強まり、米長期金利が大幅に低下したことを背景に反発し、147円台に上昇しました。

【商品】

原油価格は、中国や欧州に加え、米国の景気減速による世界経済の先行き懸念を背景に、原油需要が鈍るとの見方が高まったことから下落しました。

2.景気動向

<現状>

●米国の7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+5.2%と、堅調な個人消費にけん引され、前期から大幅に加速しました。

●欧州(ユーロ圏)の7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+0.1%でした。前期比は▲0.1%と3四半期ぶりにマイナス成長となりました。

●日本の7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率▲2.1%と、3四半期ぶりのマイナス成長となりました。個人消費と設備投資が弱含みました。

●中国の7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.9%と、前期から減速しました。前期比は+1.3%と前期から伸び率が拡大しました。

●豪州の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+2.1%と、前期から減速しました。輸出や投資が伸びたものの、個人消費の伸びが鈍化しました。

<見通し>

●米国は、これまでの大幅な利上げに伴う景気抑制効果や、強かった7-9月期の反動から、10-12月以降は景気が減速するとみられます。ただし、雇用が比較的安定しており、個人消費が底堅いことや、企業収益が回復傾向にあることから、景気は24年にかけ緩やかな減速となる見通しです。

●欧州は、ECBの金融引き締めによる景気抑制効果が強まるなか、24年にかけ低成長が続くとみられます。ただし、財政の支援、コロナ下で積み上がった貯蓄、労働市場の安定、インフレの鈍化などが景気を支えるため、腰折れはしないとみています。

●日本は、7-9月期に下振れしたものの、経済活動が再開するなか、インバウンド消費の増加や経済対策の効果を背景に、緩やかな景気回復のパスに徐々に復調する見通しです。円安地合いも景気を支えるとみられます。

●中国は、不動産市場の低迷や海外景気の減速で需要不足が続き、若年層の雇用悪化の影響などから個人消費も力強さを欠くことから、24年にかけて景気の回復ペースが鈍化するとみられます。ただし、政府が拡張財政を継続することから、小幅な減速にとどまる見通しです。

●豪州は、中国景気の減速に加え、利上げの累積効果や、粘着質なインフレで家計の実質可処分所得が圧迫されることから個人消費が力強さを欠くとみられるため、24年にかけて景気が緩やかに減速するとみられます。

3.金融政策

<現状>

●FRBは、10月31日11月1日のFOMCで、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標(5.25~5.50%)を2会合連続で据え置きました。記者会見でパウエルFRB議長は、従来通り、政策判断はデータ次第で決めるとの方針に変わりはないことを示しました。

欧州中央銀行(ECB)は10月の理事会で、2022年7月の利上げ開始から11会合ぶりに利上げを見送り、政策金利の据え置きを決めました。また、資産購入策の特別枠(PEPP)は、少なくとも24年末まで償還があった分の再投資を続ける方針を維持しました。

●日銀は、10月の金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の再修正を決めました。長期金利の上限の「目途」を1.0%に引き上げ、長期金利が1.0%を一定程度上回ることを容認する方針です。短期金利マイナス金利政策については維持しました。

<見通し>

●FRBは、最近のインフレの鈍化傾向を受けて利上げサイクルを終了し、現状のFF金利を24年中、据え置くとみています。景気が想定以上に堅調なことから利下げ開始は2025年以降にずれ込むと予想しています。

●ECBは、高止まりしているコアインフレを抑制するため、現状の政策金利(預金ファシリティ金利4.00%など)を24年前半まで据え置くと予想しています。雇用が鈍化していることから、24年7-9月期に利下げに転じると想定しています。

●日銀は、24年3月の春闘回答集計を確認した上で、24年4月に、「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を改定するとともに、マイナス金利の解除やYCCの解除・再修正を実施すると予想しています。

4.債券

<現状>

●米国の10年国債利回り長期金利)は、FRBが月初のFOMCで2会合連続の政策金利据え置きを決めたことを受けて、利上げ局面が終了したとの観測が強まったことから、大きく低下しました。その後もインフレ鈍化を示す経済指標が続いたため、月末にかけて一段と低下しました。

ドイツ長期金利は、欧州経済の減速や米長期金利の大幅な低下を受けて、低下しました。

●日本の長期金利は、米長期金利が大幅に低下したことや、日銀が早期に金融緩和政策の修正に動くとの見方が後退したことから、低下しました。

●米国の投資適格社債については、株式市場の上昇を受けて国債と社債の利回り格差が大きく縮小しました。

<見通し>

●米国の長期金利は、FRBの利上げ局面が終了したとみられることから、緩やかに低下する展開を予想します。堅調な雇用による景気の底堅さからFRBの金融引き締めは当面続くとみられますが、先行きは景気減速とインフレの低下に伴う金融緩和が見込まれるためです。

●欧州の長期金利も、ECBの利上げ局面が終了したとみられるため、米長期金利に連れて先行きは緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、日銀による金融緩和政策の修正が意識されるなか、金利水準をやや切り上げる展開を想定します。

5.企業業績と株式

<現状>

●S&P500種指数の11月の予想1株当たり利益(EPS)は244.0で、3ヵ月連続で過去最高水準を更新しました。前年同月比は+5.4%、前月比は+0.7%でした。TOPIXの予想EPSは171.7、前年同月比は同+9.0%、前月比は+1.6%と増益基調が続いています。

●米国株式市場は大幅高となりました。FRBが月初のFOMCで2会合連続の政策金利据え置きを決めたことに加え、10月の雇用統計消費者物価指数が市場予想を下回ったことで、利上げ局面の終了観測が強まり、長期金利が急低下したことが追い風となりました。

●日本株式市場も米国株式市場の上昇に加え、日本企業の決算が好調なことや、ハイテク株などに買い戻しが入ったことなどから大幅に上昇しました。

<見通し>

●S&P500種指数採用企業の増益率(純利益ベース)は10-12月期が前年同期比+5.4%で、その後も改善傾向が予想されています。一方、TOPIX採用企業の10-12月期の純利益は同+8.5%で、その後は一進一退が予想されています。

●米国株式市場は、堅調な企業収益を背景に緩やかにレンジを切り上げると予想します。FRBの金融政策に対するタカ派(金融引締め)姿勢は緩和しましたが、データ次第で政策判断を行う方針を示していることから、経済指標や要人発言で振れやすい展開となりそうです。

●日本株式市場は、日本の名目GDP成長率の上昇や、製造業における景気循環の底打ちによる企業業績の改善を織り込む形で上値を試す展開が想定されます。24年度の賃上げ、税収の上振れ、財政政策に対する期待が株価上昇要因として注目されそうです。

6.為替

<現状>

●円の対米ドルレートは、FRBによる利上げ局面が終了したとの見方が強まり、米長期金利が大幅に低下したことを背景に反発しました。日米金利差の縮小から月末にかけて円買い・ドル売りが入り、147円台に上昇しました。

●円の対ユーロレートは下落し、約15年ぶりの安値水準となる161円台で終了しました。ユーロは、金利先安観の強まった米ドルに対して上昇しました。

●円の対豪ドルレートは、下落しました。豪ドルは、金利先安観の強まった対米ドルに対して上昇しました。

<見通し>

●円の対米ドルレートは、FRBの利上げ局面が終了したとみられるものの、引き続き日米の金利差から下落圧力を受けるため、当面もみ合う展開を予想します。先行きは米国の景気とインフレが減速することに伴い、FRBによる利下げが意識され、円が小幅に上昇すると想定しています。

●円の対ユーロレートは、当面レンジ内でもみ合うものの、先行きの欧州金利の低下による金利差縮小により小幅に上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートも、当面もみ合うものの、中国経済の減速や豪州中銀の利上げ打ち止めにより小幅に上昇する展開を予想しています。

7.リート

<現状>

●グローバルリート市場(米ドルベース)は、米長期金利が大幅に低下したことを受けて、大幅高となりました。S&Pグローバルリート指数のリターンは前月末比+10.4%でした。また、円ベースのリターンは、為替効果がマイナスに寄与し、同+7.7%となりました。

●米国は、長期金利が大幅に低下したことや、株式市場が上昇したことを受けて買い戻しが入り、大きく反発しました。欧州も、米国リートの上昇を好感して堅調な展開となりました。日本やアジア・オセアニアも、長期金利が低下したことを受けて、上昇しました。

<見通し>

●グローバルリート市場は、不動産市況の停滞や長期金利の高止まりから当面振れの大きい展開が見込まれますが、FRBの利上げ局面が終了したとみられるなか、長期金利が低下することに伴い、中期的には回復するとみています。

●米国は、当面振れの大きい展開が見込まれるものの、中期的には底堅い景気を背景に持ち直すとみています。欧州は、景気の停滞から当面上値の重い展開を想定します。日本やシンガポールは、景気の回復基調を背景に緩やかに上昇するとみています。

8.まとめ

【債券】

●米国の長期金利は、FRBの利上げ局面が終了したとみられることから、緩やかに低下する展開を予想します。堅調な雇用による景気の底堅さからFRBの金融引き締めは当面続くとみられますが、先行きは景気減速とインフレの低下に伴う金融緩和が見込まれるためです。

●欧州の長期金利も、ECBの利上げ局面が終了したとみられるため、米長期金利に連れて先行きは緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、日銀による金融緩和政策の修正が意識されるなか、金利水準をやや切り上げる展開を想定します。

【株式】

●S&P500種指数採用企業の増益率(純利益ベース)は10-12月期が前年同期比+5.4%で、その後も改善傾向が予想されています。一方、TOPIX採用企業の10-12月期の純利益は同+8.5%で、その後は一進一退が予想されています。

●米国株式市場は、堅調な企業収益を背景に緩やかにレンジを切り上げると予想します。FRBの金融政策に対するタカ派(金融引締め)姿勢は緩和しましたが、データ次第で政策判断を行う方針を示していることから、経済指標や要人発言で振れやすい展開となりそうです。

●日本株式市場は、日本の名目GDP成長率の上昇や、製造業における景気循環の底打ちによる企業業績の改善を織り込む形で上値を試す展開が想定されます。24年度の賃上げ、税収の上振れ、財政政策に対する期待が株価上昇要因として注目されそうです。

【為替】

●円の対米ドルレートは、FRBの利上げ局面が終了したとみられるものの、引き続き日米の金利差から下落圧力を受けるため、当面もみ合う展開を予想します。先行きは米国の景気とインフレが減速することに伴い、FRBによる利下げが意識され、円が小幅に上昇すると想定しています。

●円の対ユーロレートは、当面レンジ内でもみ合うものの、先行きの欧州金利の低下による金利差縮小により小幅に上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートも、当面もみ合うものの、中国経済の減速や豪州中銀の利上げ打ち止めにより小幅に上昇する展開を予想しています。

【リート】

●グローバルリート市場は、不動産市況の停滞や長期金利の高止まりから当面振れの大きい展開が見込まれますが、FRBの利上げ局面が終了したとみられるなか、長期金利が低下することに伴い、中期的には回復するとみています。

●米国は、当面振れの大きい展開が見込まれるものの、中期的には底堅い景気を背景に持ち直すとみています。欧州は、景気の停滞から当面上値の重い展開を想定します。日本やシンガポールは、景気の回復基調を背景に緩やかに上昇するとみています。

(2023年12月4日

石井 康之

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフリサーチストラテジスト

※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『日本株式市場は「大幅上昇」、今後注目される「株価上昇要因」は?~23年11月のマーケットを振り返る【ストラテジストが解説】』を参照)。

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