大手電力会社10社は11月29日、2024年1月の電気料金を発表しました。10社中、東京電力をはじめとする5社が「値上げ」となります。また、現状のままでは、2024年5月以降に全社が電気料金を値上げする可能性もあります。なぜなのか。本記事では、電気料金のしくみと、政府の激変緩和措置の補助金に触れながら解説します。

燃料価格が「自動的に」電気料金に反映されるしくみ「燃料費調整制度」とは

まず、電気料金が決まるしくみ「燃料費調整制度」について説明します。

燃料費調整制度とは、電力会社が、燃料価格や為替相場の変動を、政府の認可を待たずに迅速に電気料金に反映させられるようにするための制度です。

2022年から続くロシアウクライナ侵攻により、液化天然ガス、石炭、石油等の価格が世界的に上昇しており、さらに、円安も重なり、価格高騰を招いています。

政府(経済産業省)による電気料金の認可は、直近では5月に行われ、6月から電気料金が改定されました。その後、後述する「補助金」の減額の影響により、10月に電気料金が上昇しました。そして、2023年1月の大手電力会社5社(北海道電力中部電力東京電力九州電力沖縄電力)の値上げは、燃料費調整制度によって、燃料価格の高騰が電気料金に転嫁されることによるものです。

燃料費調整制度のルール

燃料費調整制度の計算式は以下の通りです。

【燃料費調整制度の計算式】

燃料費調整額=燃料費調整単価×1ヵ月あたりの使用電力量

電力会社ごとに、燃料の仕入れ価格や比率が異なるので、「燃料費調整単価」も電力会社ごとに差があります。大手電力会社10社のうち、値上げをする5社としない5社に分かれたのは、そのことによります。

ここで登場する「燃料費調整単価」とは、連続する3ヵ月間の平均燃料価格です。それを、その最後の月から起算して3ヵ月目の価格に自動的に反映させるのです。

たとえば、2024年1月の燃料費調整額の計算に用いられている「燃料費調整単価」は、2023年8月~10月の平均燃料価格です([図表]参照)。

連続する3ヵ月の平均値をとることで、可能な限り急激な電気料金の上昇を避け、国民生活や産業に悪影響が及ぶのを防ごうとしているということです。

ただし、これだけでは、まだ、急激かつ大幅に上昇してしまうケースが完全に回避できるわけではありません。そこで、値上げは「基準燃料価格」+50%の額までという上限が設けられています。この「基準燃料価格」は、上記の3ヵ月間の平均をさします。なお、その数値と比べて燃料価格が大幅に上昇してしまった場合は、差額は電力会社が「持ち出し」をして賄うことになります。

政府の「補助金」終了で2024年5月以降に「全社値上げ」も?

政府は、2023年1月以降、現在まで、電気代・ガス代の負担軽減策として、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を行ってきています。これは、電力会社・都市ガス会社に補助金を交付し、その分だけ、事業者に電気代・都市ガス代を「値引き」させるというものです。現状、2024年4月まで実施することが予定されています。

業者に補助金を給付するしくみは一見、回りくどいような気もします。しかし、他方で、補助金の制度は使用量に応じて値引きの恩恵を受けられるものなので、直接の給付金よりも公平な制度であるという見方もできます。

補助金は2023年9月以降、当初の約半分に減額されており、現時点での補助金の額は以下の通りです。

【電気代】

・低圧契約の家庭・企業等:1kWhあたり3.5円

・高圧契約の企業等:1kWhあたり1.8円

【都市ガス代】

・1,000万㎥未満の家庭・企業等1㎥あたり15円

2023年10月に大手電力会社各社が電気料金を値上げしたのは、この補助金の縮小の影響です。

そして、2024年4月にはこの補助金が期限を迎えるので、もし補助金が終了すれば、その段階で、1月に値上げをしない電力会社も、値上げに踏み切ることが想定されます。

なぜなら、前述の通り、現在の燃料価格の高騰の主な要因は、ロシアウクライナ侵攻による世界的な燃料価格の上昇と、超低金利政策による円安です。いずれも長期化する可能性があり、2024年4月までに解消される見通しは立っていません。

つまり、今日の燃料価格の高騰は当面続く可能性があり、このままでは、2024年5月から、電気料金がさらに値上がりすることは避けられないとみられるのです。

「補助金」で対応するのは限界がある

では、2024年5月以降も補助金を継続すればよいかというと、そう話は単純ではありません。

補助金の制度は、本来、一時的・時限的なものです。また、特定の業種の事業者に経済的特典を与えるものなので、その程度によっては、他の業種と比べて不公平になる可能性があります。したがって、燃料価格の上昇が長期化・永続化するにつれ、補助金で対応することには無理が生じることになります。

したがって、今後は、補助金等による価格対策以外にも、たとえば、税負担の軽減によって実質的なダメージを緩和することや、エネルギー政策を転換して化石燃料への依存からの脱却すること等、中長期的な視野に立った、抜本的な対策を講じていくことが求められているといえます。

(※画像はイメージです/PIXTA)