一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は、国際的な経済関連機関がフィリピンの現状と未来をどう見ているのか解説していきます。

S&P「BBB+」格付けを維持

S&P Global Ratingsは、フィリピンの格付けは、建設的な発展結果をもたらし、広範な信用メトリクスを支えるであろうとする国の平均を上回る」との声明を発表し、経済に対する安定した見通しを維持。フィリピン経済は健全な成長が続き、財政パフォーマンスも今後24ヵ月で実質的に改善することを期待しているとし、BBB+を維持しました。

フィリピンの財務大臣ディオクノ氏は、「国際的な格付機関はフィリピン経済のマクロ経済基盤への信頼を確認し続けており、私たちはAへの道を追求し続けています」と述べています。「BBB+」格付けは、政府が目指す「A」のレベルから1段階低く、安定した見通しは次の6ヵ月から2年間は格付けが維持される可能性があることを示しています。

S&Pはまた、フィリピンの短期信用格付けをA-2で維持しました。パンデミック後もフィリピンの経済回復が強力であると指摘する一方で、近い将来においては世界的なリセッションリスクが依然として存在すると述べています。

フィリピン経済は2023年には5.4%のGDP成長が予想されており、これは2022年の7.6%からは低減します。S&Pは、この減速は、主に外部のマクロ経済的な動向と高い金利水準の影響を反映しているとしています。また第3四半期は5.9%成長で、第2四半期の4.3%から改善しています。9月までの9ヵ月間での経済成長率は平均で5.5%となり、政府の6~7%の目標を下回っています。

S&Pは、高インフレが個人消費を制約する可能性が高いと指摘しています。ヘッドラインインフレは、3ヵ月ぶり低い水準4.9%に低下しましたが、年初来の平均は6.4%で、依然中央銀行の6%予測を上回っています。

一方で、世界的な経済減速、中国や米国などの主要な貿易相手国の経済低迷が、フィリピンの成長を減速させる可能性もあります。それにもかかわらず、S&Pはフィリピンの経済成長は、同レベルの開発水準の国をはるかに上回るだろうと予想しています。さらにフィリピン一人当たりGDPが2023年には3,903ドル、来年には4,273ドルに上昇する可能性があるとし、実質GDP一人当たり成長率は2023年から2026年までに年平均約4.4%になると述べています。

その理由を、しっかりとした家計と企業のバランスシート、そしてOFWからの相当な送金流入がフィリピン経済の中期的な軌道を支えるから、としています。さらにインフラ整備や、規制および税制改革を通じたビジネス環境の改善も、経済生産性の成長を支えるはずとしています。

フィリピン財政赤字…縮小を予想

S&Pは、今年の国の財政赤字が、GDP比で昨年の4.4%から今年は3.8%に縮小すると予測しています。今後12ヵ月から24ヵ月で、財政および債務の設定をパンデミック前の水準に戻すことは、高インフや先進国の緊縮的な金融政策、サプライチェーンの混乱のために難しいかもしれないとしつつ、次の3年間で国の赤字がGDPの2.7%になると予想しています。マルコス政権は、2028年までに国の赤字対GDP比率を3%に削減することを目指しています。

またフィリピン中央銀行(BSP)は11月16日の政策決定会合で、政策金利を16年ぶりの水準である6.5%に据え置きました。BSPは、インフレを抑制するために2022年5月から2023年10月までに基準金利を450ベーシスポイント引き上げています。S&Pは数ヵ月間でインフレが徐々に低下している兆候が見られることから、金利の引き上げは緩和されるか、一時停止する可能性があるとしています。

フィリピン下院委員会「外資優遇策法の修正案」を承認

国際通貨基金(IMF)は、フィリピンは、持続可能な成長を達成するためには、適切な税制優遇措置を創設し、税収を効果的に動員する必要があると指摘。中長期的には投資を引き寄せる環境を作り出すことは成長の見通しにとって重要ですが、同時にフィリピン政府がその他の優先支出を賄うために十分な資源を有していることを確認する必要があるとしています。

先週、フィリピンの下院委員会は、企業の回復と税制優遇に関する法律(CREATE法)の修正案を承認しました。CREATE MORE(CREATE to Maximize Opportunities for Reinvigorating the Economy)法案では、登録された事業や企業に対して、簡素化された効率的な税還付システムを導入することを目指しています。法案によれば、経済特区およびフリーポート内の国内および輸出企業は、それぞれの投資促進機関の登録に規定されている通りに、関税免除、輸入に対するVAT免除、および国内購入に対するVATゼロレートを引き続き享受することになります。また強化された税控除制度の下での法人所得税率を20%に引き下げることも目指しています。

またこの法案は、大統領に対してFiscal Incentives Review Board(FIRB)の勧告なしで優遇パッケージを変更・作成・付与する権限を与えるものです。IMFは、Marcos大統領、がFIRBの勧告なしに優遇パッケージを変更する際には慎重であるべきだと指摘し、意思決定を迅速化するかもしれない、権力の濫用を防ぐために慎重な監視が必要だとしています。また、政府は雇用を多く生み出し、人々のスキル向上に寄与できる製造業などのセクターに焦点を当てるべきだとも述べています。

財務省の最新データによれば、CREATE法による政府の損失は2022年に804億ペソに達し、2021年の68億ペソの損失を上回っています。これには法人所得税率の引き下げに伴う592億ペソの損失も含まれています。

IMFは、教育、健康、社会保障をサポートできる税収が政府にとって重要であると強調し、特にフィリピンが上中所得国の地位に移行するにつれて、国際的な金融機関からの優遇的な融資へのアクセスが減少するため、国内で収益と資源を動員することがますます重要になると述べました。

写真:PIXTA