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image credit: Steve Fitzgerald/Wikimedia Commons

 オーストラリア先住民族(アボリジナル)が昔から伝えてきた伝統的な薬にはモルヒネすら超える強力な鎮痛効果があったようだ。

 先住民族ニキナ・マンガラ族の長老ジョン・ワトソン氏はワニに襲われ指を食いちぎられるという悲惨な目にあった。

 この時彼は、マングローブに生育する植物の樹皮をちぎって噛み砕き、柔らかくしたものを傷口に塗り鎮痛剤代わりにした。

 これを知ったグリフィス大学の名誉教授ロン・クイン氏は非常に驚いた。この植物に鎮痛効果があることを知らなかったからだ。

 そこでクイン教授はワトソン氏に協力を仰ぎつつ、強力な鎮痛剤の開発に着手。30年にわたる試行錯誤の末、ついに鎮静剤を完成させた。

 この植物由来の鎮痛剤オーストラリアアカデミーからも高く評価され、現在2032年開催のブリスベン・オリンピックでデビューを飾るべく準備が進められている。

【画像】 ワニに遭遇し指を食いちぎられ、マングローブの樹皮を塗った先住民

 1986年オーストラリア北西部に位置するキンバリー地方の僻地で狩猟をしていた先住民族ニキナ・マンガラ族の長老、ジョン・ワトソン氏はワニに襲われた。

 命からがら逃げ出すも、指の一部を食いちぎられてしまった彼は、激しい痛みに耐えながら、湿地に生息するマングローブの一種、「マジャラ(Barringtonia acutangula)」を探した。

 どうにか見つけると、彼はその樹皮をちぎって噛み砕き、柔らかくしたものを傷口に塗り、それから病院へ向かった。

 本当ならこの体験は、子や孫に語り聞かせる武勇伝で終わったはずのものだろう。

 しかし経緯は不明だが、グリフィス大学の名誉教授でグリフィス創薬研究所のメンバーであるロン・クイン氏はこの話を聞きつけ、大いに興味を持った。「なぜ彼は樹皮を傷口に塗ったのか?」と。

 これがオーストラリア先住民「ニキナ・マンガラ族(Nyikina Mangala)」とグリフィス大学との30年にわたる協力関係のきっかけだ。

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先住民が使っていた樹皮にはモルヒネを超える鎮痛効果

 ワトソン氏が長老をつとめるニキナ・マンガラ族では、大昔からマジャラの樹皮・根・葉をさまざまな用途に利用してきた。

 例えば、ワニに襲われた時に使用したように痛み止めとして、あるいは魚を気絶させて捕りやすくする薬として、さらには「ドリームタイム」(アボリジナルに伝わる神話体系・法概念・霊的世界観)においても重要な役割を果たしてきた。

 長年の研究の末、クイン氏はマジャラの樹皮に2種の化合物が含まれていることを発見した。

 1つは炎症による痛みを抑え、もう1つは神経の損傷による痛みを和らげる。それはきわめて効果的で、試算によれば、モルヒネよりも10倍効果のある鎮痛薬を開発できる可能を秘めていた。

 これらの成分を利用して、天然由来鎮痛剤の開発を進めるワトソン氏とクイン氏が狙うデビューの舞台は、2032年に開催されるブリスベン・オリンピックだ。

 それは切り傷・ただれ・刺し傷などの痛みを抑えるジェル状・クリーム状の薬で、オリンピック選手たちに使ってもらえるよう準備が進められている。

 「先住民たちが何千年にも渡って語り伝えてきた伝統薬が、オーストラリア人全員に恩恵をもたらす可能性があることを、医薬品当局にに納得させたいと思っています」と、クイン氏は語る。

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先住民は植物の驚くべき薬効効果を知っていた

 オーストラリア先住民の伝統知識をもとに開発された鎮痛剤は、各方面で高く評価されている。

 2021年、ワトソン氏とクイン氏の両名は、ジャッカ自然療法財団から助成金を獲得。さらに今年、オーストラリア技術科学工学アカデミーATSE)の伝統知識イノベーション賞を受賞した。

 受賞理由は、商業利用の可能性だけでなく、「伝統的所有権を守りつつ、伝統知識の完全性を尊重」するというアプローチが評価されたことだ。

 グリフィス大学は、その所有権を先住民族のコミュニティに譲渡しており、このプロジェクトによって、伝統知識が科学を進歩させる可能性やその正当性が認められる道筋となることを期待している。

 「このプロジェクトによって、ほかの先住民の薬が市場に出回る道が開かれるかもしれません」「私たちが長年続けてきたことが報われたようでうれしいです」と、ジョンの息子アンソニーワトソン氏は語っている。

 オーストラリアには触れただけで地獄の痛みが襲う猛毒植物「ギンピ・ギンピ」などが存在するが、毒と薬は表裏一体であり、古代から先住民族はそれを有効利用していたのだ。

 というか何がすごいってやっぱり植物だな。

References:Australia’s 30-year quest to unlock an ancient painkiller - Freethink / written by hiroching / edited by / parumo

触れただけで地獄の痛み、猛毒植物「ギンピ・ギンピ」からまったく新しい神経毒を発見(オーストラリア)

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オーストラリア先住民族の植物を使った伝統薬にモルヒネの10倍の鎮痛効果