イギリスの鉄道警察が、痴漢対策に本腰を入れています。特に容疑者や受刑者に厳しい「画像公開」を行っていることで話題になっています。

鉄道での犯罪内容が赤裸々に公開

イギリス鉄道警察がホームページ上で、痴漢行為による実刑判決で受刑中の犯罪者と、指名手配中の容疑者について「顔写真」を公開しています。まるで「デジタルさらし首の刑」といった感じで、衝撃的な生々しさです。

受刑者たちは、実名に加えてどの町のどの通りに住んでいるかハッキリと書かれ、入所の際に撮られたと思われる「マグショット」が公開されています。犯した痴漢行為の内容も「下半身露出」「車内での自慰行為」「盗撮」「いやらしい目でジロジロ見た」など詳細に表現され、下された刑も「禁固刑」「性犯罪者リストへの登録」など、具体的に知ることができます。

イギリスでは、犯行からたった2~3日で禁固刑が確定して収監されているケースも多いようです。日本では警察に何度も事情聴取されたり、示談に持ち込もうと弁護士が出て来たりと、被害女性に長期間に渡って精神的苦痛を強いるようなケースがあるのに対し、「スピード解決」で被害女性を心身ともに解放しようという配慮を感じます。

2021年夏から、鉄道警察の主導で「ゼロ・トレランス(許容ゼロ)」のキャッチコピーとともに痴漢対策キャンペーンが始まりました。その背景には、電車のきっぷをオンラインで買う人が増え、駅の有人きっぷ売り場が次々に閉鎖されていることがあります。「無人駅」が増えたことで、2015年頃から痴漢件数は倍増したとされています。その痴漢撲滅キャンペーンの一環で始まったのが、先述の「デジタルさらし首」です。

様々な刑がある中、もしかしたら最も重いのが、自分は犯罪者だと広く周知されてしまう「デジタルさらし首の刑」かも知れません。再犯に対する抑止力はどの程度あるのか、追跡調査が待たれます。ただ、すべての痴漢犯罪者の顔写真が公開されるわけではないそう。公開基準は何なのか、鉄道警察に問い合わせをしてみましたが、明確な答えは得られませんでした。

さらに生々しいのは、「この顔にピンと来たら警察まで」という呼びかけとともに掲載されている、防犯カメラや被害者自身が撮影した指名手配中の容疑者の写真。特に、被害者が撮影したアングルの写真は、「獲物」を舐め回すように見つめる、今まさに「痴漢行為に及んでいる犯人の顔」のリアルさが半端なく、私自身も電車内での痴漢を多々経験したことがある同じ女性として思わず胸が苦しくなります。

最新技術導入も、残る冤罪の心配

「痴漢は日本特有の文化」。そんなことをいう人もいますが、英国でも71%の女性がなんらかの痴漢被害を経験したことがあるそうで(国連女性機関の調査による)、3割以上の女性が電車や駅で痴漢にあったことがあると回答しています(イギリス鉄道警察による)。

痴漢犯罪の難しさは、被害者が告発しないで我慢する場合が多いこと。「痴漢にあっても告発できなかった」「どうせ警察は動いてくれない」--イギリスでも多くの女性がそんな理由で声を上げないでいるようで、実際に起こっている痴漢被害の4%しか警察に届けがないというデータもあります。

そんな現状を打破しようと、鉄道警察がついに動いたわけです。ほかにも痴漢被害にあったことがない男性などに最新技術のバーチャル・リアリティ(VR)の仮想空間で痴漢にあう体験をしてもらうことで、「被害者を助けなくては」という認識を高めたり、痴漢の被害報告をしやすいように専用アプリを開発したりと、努力を積み重ねてきました。その結果、痴漢告発件数は「ほぼ倍」になったそうです。

危惧されるのは、冤罪です。もっとも英国では駅や電車内に15万台以上の防犯カメラが設置されていて、また、頻繁にパトロールしている警官や私服警官の服にもカメラが装着されています。言い逃れができないほどに犯行現場をバッチリ撮っているため、自信を持って「デジタルさらし首」に処せるのだろうと推察されます。

ですが、警察に100%手違いがないとは思えません。特に疑問に感じるのは、逮捕前の容疑者の顔写真を公開することです。冤罪や、関係ない人の写真を取り違えて公開することがないと言い切れるのでしょうか。勝手な書き込みが独り歩きするネットの怖さを考えると、万が一の冤罪や人的ミスでの「デジタルさらし首」の恐ろしさに戦慄を覚えます。

英国の鉄道警察に問い合わせたところ、「容疑者の顔写真は、該当人物が特定できた段階で法律にのっとってホームページから削除しています」ということですが、「鉄道警察が公開した容疑者の顔写真を載せた雑誌や新聞などの記事は削除されませんよね?」と再度問い合わせたところ、鉄道警察から明確な返答はありませんでした。「デジタルさらし首」の「デジタルタトゥ―」は、やはり残るようです。

女性として、「痴漢は絶対に許さない」という心強い対策は待望の動きではありますが、デジタル時代の痴漢対策はまだ手探り段階にあるようです。

駅のイメージ(画像:写真AC)。