韓国のハンファオーシャンがこのたびポーランドの次期潜水艦プロジェクトに名乗りを上げました。ただ、そこにはドイツフランススウェーデンの名だたる軍需企業も参画しています。韓国企業に勝機はあるのでしょうか。

ポーランド唯一の潜水艦はかなりの老齢艦

韓国企業ハンファグループの海事部門であるハンファオーシャンは2023年11月29日ポーランド潜水艦調達プログラム「オルカプロジェクト」に、韓国製潜水艦KSS-IIIを提案すると発表しました。

オルカプロジェクト」はポーランド潜水艦戦力を増強しようとするポーランドの国家プロジェクトです。

ポーランドには2023年11月現在、旧ソ連が設計・建造したキロ級潜水艦の1隻「オゼル」しかありません。

数年前まではノルウェーから購入した中古の潜水艦(コッベン級)が4隻ありましたが、これらは老朽化によって次々退役、唯一残った「オゼル」も1986年4月就役と、すでに40年近い艦齢となっていることから、新たな潜水艦の取得を計画するようになったといいます。なお、ポーランド政府は自国の造船能力を向上させるためにも、技術移転を含めた外国製潜水艦の国内でのライセンス生産を念頭に置いて選定するそうです。

ちなみに、この「オルカプロジェクト」は目新しいものではなく、2010年前半からすでに検討されていたといいます。2014年にはフランスのナーバルグループやドイツのティッセンクルップ、スウェーデンサーブスペインのナバンティアなどと交渉が行われたものの、このときは水上艦(フリゲート)の更新が優先されたため、新潜水艦は導入されることなく終わりました。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、ポーランドは陸海空のすべての分野で大幅な軍備増強を図っており、NATO(北大西洋条約機構)の一員として、有事の際はバルト海の制海権を確保する必要があることから、新たな潜水艦については特に、巡航ミサイルの発射能力に大きな関心を持っているといわれています。

ライバルは手強い名門企業ばかり

今回、ハンファオーシャンがメディア説明会で披露したKSS-IIIは、2021年8月に1番艦「島山安昌浩(トサンアンチャンホ)」が就役したばかりの韓国最新の国産潜水艦です。

水上排水量約3000トン、水中排水量約3600トン、全長83.3m、全幅9.6m、高さ14.7m、速力は約20ノット(約37km/h)、乗員数は約50名。ディーゼルエンジン燃料電池によって推進する、AIP(非大気依存推進)潜水艦です。

兵装は魚雷発射管のほかに垂直発射装置(VLS)も備えており、ここからSLBM潜水艦発射弾道ミサイル)も発射可能だといいます。なおSLBMについては、2021年7月4日に水中発射試験に成功しているとのことです。

しかし、オルカプロジェクトには、すでにドイツのティッセンクルップが最新のU212級で売り込みを始めているといわれています。同級はドイツノルウェーから計6隻(ドイツ2隻、ノルウェー4隻)受注しており、早ければ1番艦が2029年ノルウェーへ引き渡される予定です。

またフランスのナーバルグループとスウェーデンサーブも関心を示しているそうで、一部報道によると、前者はスコルペヌ級、後者はブレーキンゲ級でトライアルに参画する可能性が高いといわれています。

前者は、すでにチリ、マレーシアインド、ブラジルに採用された実績があるベストセラー艦で、後者は2027年に1番艦が就役予定の最新鋭艦です。

ただ、韓国はポーランドに対して戦車や自走砲、軽戦闘機などの輸出に成功しているため、それらのライセンス生産などを足掛かりに海洋安全保障の分野でも成功を収めたい模様です。

なお、ハンファオーシャンの説明によるとKSS-IIIポーランドの国防力を向上させるだけでなく、産業面と経済面の双方でも利益をもたらすものだとしています。

韓国のハンファオーシャンがポーランドに提案する国産潜水艦KSS-III(画像:ハンファ)。