観客が演者と同じ空間に同居し、物語の一部として作品に参加する「イマーシブシアター(没入型演劇)」。日本発のオリジナルイマーシブシアター『Anima』が、2023年12月9日(土)・10日(日)・16日(土)・17日(日) に東京のアートホテル・BnA_WALLで上演される。

本作は、東宝株式会社演劇部による制作協力のもと、イマーシブシアター制作チームdaisydozeが2022年に上演した『Dancing in the Nightmare -ユメとウツツのハザマ-』をブラッシュアップして制作した新作公演。客席に座って観劇する通常の演劇とは違い、観客自身も含め、観客の視野に入るもの全てが作品の一部となる“唯一無二の没入体験型エンタテインメント”となる。

物語の主人公は、心理学者であり夢分析を専門とするユング。夢の中から目を覚まさなくなった妻に責任を感じ心を閉ざしたユングは、ある時「宿泊者の夢が現れて浮かぶ」というホテルで宿泊者の夢を分析。やがて自分自身も夢を見るようになり、自分の「魂の声(=アニマ)」を探しに夢の中へと潜り込んでいくーー。

ユングが夢の中で出逢うのは浦島、乙姫、夜の海神、誘惑、虚無の5人。かつて魚河岸が並んで「日本橋 竜宮城の港なり」と川柳で詠まれるほど盛況し、芸者、呉服屋の街としても栄えた日本橋からインスパイアされたキャラクターたちが、ユングの感情を映し、物語を彩る。

今回、作・演出の竹島唯(daisydoze)とアートディレクション・演出の近藤香(daisydoze)に単独インタビューを実施。作品の見どころやイマーシブシアターの面白さを聞いた。

一番中身に自信がある作品に

ーー最初に、おふたりがイマーシブシアターに取り組んだきっかけや経緯を教えてください。

近藤香(以下、近藤) 私はもともと会社員をしながら、ダンサーとして活動していたのですが、会社を辞めたタイミングでニューヨークに長期間行きました。そのときに初めてPunchdrunkという団体の『Sleep No More』というイマーシブシアター作品を観て。今から5年前のことです。学生の頃からミュージカルをやっていたので、比較的たくさん作品を観てきたのですが、『Sleep No More』は一番の衝撃だったんですよね。非言語で、自分が作品の一部になったような体験で、目の前で迫力のあるダンスが繰り広げられて。圧倒的な体験で、人生で初めて目を閉じても眠れなかった。その体験が忘れられず、東京に戻ってきてからイマーシブシアターを作り始めました。竹島とは、共通の知人を介して知り合い、2018年からdaisydozeとして一緒に活動しています。

竹島唯(以下、竹島) 私も一番最初のイマーシブシアター作品は『Sleep No More』でした。ニューヨークに住む友人から「絶対行った方がいいパフォーマンスがある」と言われて、一緒に観に行ったんです。感想としては、「もう、なんだこれは!」という感じですよ(笑)。意味が分からないし、疲れるし、とにかく消化しきれなかった。

これが2017年頃のことで、ミュージカルの研究のために大学院に行こうと思ったタイミングでしたが、自分でもイマーシブシアターを作ってみたいと。日本発で海外に通じるコンテンツが作れるかもしれないと思って。

ーー今回はどのような作品になりそうですか?

竹島 私たちが2020年に浅草でイマーシブシアターの作品(『Shadows of the Flowers -華の影たち-』)を作ったときは、まさにコロナ禍でした。いかに“密な空間”といいますか、観客の没入感を高めるかが重要なのに、観客と距離をとって、人が容易に集まれなくて……。あの当時の手弁当だった創作環境と比べると、今回は東京アート&ライブシティ構想実行委員会や東宝など、いろいろな方のご協力があり、随分ステップアップした気がします。感慨深いですね。

実は今回の会場となるアートホテル BnA_WALLでは、2022年にも一度作品(『Dancing in the Nightmare -ユメとウツツのハザマ-』)を作っています。ホテルですが、アーティストが集まり、芸術を作るスペースにしたいという考えがあるんですね。2022年の経験がある分、会場とチームが一緒に作品を作り上げている感覚が強く感じられます。

近藤 イマーシブシアター作品はどうしても組み立てが難しいので、演者・スタッフ全員が精一杯になりがちで。BnA_WALLとは2度目ですし、企画全体の部分においてさまざまな協力を得られたことで、初めて作品に注力・集中できる環境が整ったなと感じます。もちろん今までも真剣に取り組んできましたが、もっともっと欲が出てきて、「こういったことにしたい」と作品世界におけるディスカッションができるようになり、今までで一番お見せしたい、中身に自信があるものに近づいてきています。

作品を作るために不可欠な、15秒ごとに刻まれた「時刻表」

ーーイマーシブシアターは同時多発的にシーンが行われますよね。どのように作品を作り上げているのですか?

竹島 大きく分けて、自由回遊型と誘導型があります。私たちの作品は、全部実はパズルで組み立てられている「誘導型」をとっています。普通の芝居は1シーンが展開されていき、物語の筋も1筋しかないですよね。でもイマーシブシアターは、複数のシーンと物語の筋が同時進行で進んでいく。なので、私たちは話の中身を作ったら、それをシーンに区切り、一つひとつをどこの場所で誰が表現するのか、15秒ごとの時刻表に落とし込んでいきます。

ーーえ、15秒ごとですか!

竹島 はい。何分何秒に出れば絶対にすれ違わないで済むのかなど、隅々まで計算をしています。13人がいかにぴったりなタイミングでシーンを一斉につくっていけるか。映画の『ミッション・インポッシブル』のようですよね(笑)。

ーー大変さがよく分かります。竹島さんも近藤さんも「演出」をされていますが、役割の違いはあるのですか?

竹島 お互いができない領域をカバーし合っているんですけど、大きく分けると、作品を作るという点は私が主担当。こういう物語にしたい、こういうキャラクターにして各シーンはこういう風にしたい、この人はこうやって入ってきて、こういうパフォーマンスをして、こうやって出ていきたい、そこまでは私がなんとなく作ります。そしてその構想を逐一近藤に話します。「ここの辻褄があっていないのでは?」といった指摘をもらい、再度練り上げていきます。作家と編集者みたいな関係性ですかね。近藤がそれぞれのシーンのイメージを膨らませ、音など具体的な演出に落とし込んでいきます。

近藤 本が上がった段階で、本を頭の中で3D展開させながらこれが実現可能なのかという検証を私は主に担います。とは言え、この検証部分にも竹島は絡んできてくれて、「ここはこういう意図があるから、こんな早く出ちゃ駄目」などとアドバイスをくれますし、本の部分でも、作品のメッセージ性や構想段階でのは壁打ちは私も一緒にやっています。分担はうまく分かれていますが、二人三脚で作っている感覚が強いです。

能動的に体験してみて!

ーー「ユング」や「夢」......改めて今回のテーマを選ばれた理由を改めて教えてください。

竹島 私たちが作品を作るときに大事にしているのが、場所。場所に物語を感じるかがすごく重要なんです。で、ふたりでその場所に行って、「ここでこういうのがあったらいいね」とブレストをして......。

近藤 そう、最初にそこで得られたインスピレーションを起点として、そこから唯さんがリサーチしてくれて、ブレストで出た種を膨らませて、作品に仕立てていくんです。

竹島 今回は「夢」から入りました。ホテルは寝る場所だから、夢っぽいものがいいかもね、と。そして、BnA_WALLは各部屋がアーティストによって作り込まれているので、それを壊したくないなと思って。

とあるピンクの部屋があるんですが、その部屋を作ったアーティストはもう亡くなってしまっているそうなんです。でもそのアーティストが作った世界が部屋に残っていて、ファンはそこに泊まりに来て、彼の嗜好性やアートの中に泊まることを楽しんでいる。それってすごいことだなと思いません? 実際に泊まると分かるんですけど、すごく不思議な気持ちになる。そういう体験をもっと拡張できないかなというところが出発点でした。

そこから、日本橋という場所について調べ始めて、日本橋という橋の真ん中に道路元標という日本の道の始まりがあることが分かった。橋のふもとには乙姫像があって、「日本橋 竜宮城の港なり」という川柳が残っている。誰が書いた分からない川柳ですけど、この川柳を書いたのは浦島太郎なのではないか……、夢と浦島太郎の話が同時進行で走っていきました。

ーー面白そうですね。最後に、どんな方にイマーシブシアターを体感して欲しいですか? どのような心持ちで作品を楽しめばいいか、読者にメッセージをお願いします!

竹島 そうですね。ぜひ能動的に楽しんで欲しいなと思っています。私たちの作品は、お客さんが「あのときのシーンって、こういう意味だったのかな?」と脳みそで紡いでいくことで完成するんですね。普通の舞台は起承転結があって、そこまで人の行動に余白がないし、物語を追っていく楽しみ方をすると思うんですけど、私たちが作っているものは、全員のキャラクターの起承転結を追えないんですね。なぜかというと、いろいろなキャラクターに誘導されるがままに見ているから。でもそうすることで、より没入感を担保できるし、お客さんが余白を想像して楽しむことができるんですよ。

その想像力によって、私たちが提供しているものの3倍も4倍も広く深い物語になると思っているので、あえて余白を残している。これまでのお客さんを見ていても、一歩引いた状態ではあまり楽しめないと思うので、「これってどういう意味なんだろう?」など問いを持って能動的に楽しめると、圧倒的な面白さを感じてもらいやすいなと思います。

近藤 うんうん、そして、ぜひ観終わったあとに、話し合ってもらいたいですね。「あれ、見た?」でも「あれはどういう意味だと思う?」でも。

竹島 そうですね。ぜひ見た後に日本橋で一杯飲みながら、語ってみてほしいです!

Anima】本ビジュアル(表)
Anima】本ビジュアル(裏)

取材・文・撮影:五月女菜穂

<公演情報>
イマーシブシアター『Anima

作・演出:竹島唯(daisydoze)
アートディレクション・演出:近藤香(daisydoze)

【出演】
iona いのまいこ Kurumi Shiina 新藤静香 Jenes
Hagri Mitsuki YOH UENO Rion Watley RYOSUKE.
藤岡義樹 中村翼 大塚瑞季

2023年12月9日(土)・10日(日)・16日(土)・17日(日)
会場: 東京・BnA_WALL

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/anima/

公式サイト:
https://www.daisydoze-immersive.com/anima

左から)近藤香、竹島唯