矢部孝東京工業大学名誉教授は、独自開発した装置によりトリチウム水を従来の方法に比べて桁違いに低減できることを実証し、日本原子力学会欧文誌に発表、この度掲載されました(2023年9月26日受理、オンライン公開11月21日)。タイトルは、A New Separation Method of Hydrogen Isotope by Dynamically Created Nonequilibrium State‐「動的に作られた非平衡状態*(1)」による水素同位体*(2)の新しい分離法」‐と題されている。

従来は、沸騰温度の違いや凍結温度の違いを利用していたが、普通の水(軽水)とトリチウ ム水はほぼ同じ性質を持っているため、その分離は非常に効率が悪く、装置も大掛かりで高価であるため実用的ではないとして、薄めて海洋放出することが決定された経緯がある。

矢部名誉教授の方法は、風呂などの湯気で馴染みのある蒸気を利用するものであり、沸騰とは異なる。水の沸騰は100度で起きるが、風呂の蒸気は40度程度という沸騰温度よりもはるかに低い温度で発生する。この蒸発をはやめるために、プロペラを用いて水を微細化する方法、エネルギー効率を高める方法など、日本、米国、中国で特許を取得している。高温の蒸気は、冬場の窓での結露と同じ原理で、低温に接することで液体化し、蒸留水となる。空気中の水蒸気の量を詞節すれば、トリチウム水と軽水とで異なる非平衡状態を作り、異なる結露を引き起こすことにより、トリチウム水と軽水を分離することができることを示した。

今回の装置は、矢部名誉教授が2006年に発表した「マグネシウム循環社会」のために、海水からマグネシウムを取るために開発されたものである。電解法で海水から取る方法は、高価でエネルギーコストが高すぎ、膜を使う逆浸透膜法は膜を洗い流す必要があり、マグネシウム回収ができない。このため、膜を使用しない全く新しい仕組みを作ったのだが、 この方法が放射性物質の除去に使えるのではないかと考えた。

東電がトリチウム水の海洋放出を考えていることを憂い、何とかできるのではないかと思い、今回のアイデアに至り提案しようとしたが、東電の提案応募条件が「学会で認められているもの、雑誌などに掲載されているもの」とあったため、矢部名誉教授が以前在籍していた大阪大学レーザーエネルギーセンターの旧友である乗松孝好名誉教授に協力をお願いし(2023年8月実施)、処理後の水の測定を行った。結果、元々含まれていた重水が半減したことがわかった。トリチウム水は放射性物質であるため取扱い安全基準が厳しいので、それよりも重水素が水となった重水を使うこととした。トリチウムは水素の3倍の質量だが、重水素は2倍で、より水素に近いので、より分離が難しい。それでも分離できれば、トリチウムは問題ないはずである。実験は8月末に行われ、重水が半減したため、9月に欧文誌に投稿して、11月13日に正式に掲載可が決定した。トリチウム半減期は13年であるが、本装置で1回処理するだけでこれを実現できることがわかった。装置の改良により、さらに劇的に減少することが期待されている。

矢部名誉教授は、海水中に存在する1800兆トンという石油10万年分のエネルギーを生み出すマグネシウムに着目し、これを石油に代わるエネルギーとして、発電などに使う「マグネシウム循環社会」を提案し、 2006年に世界的に権威のあるApplied Physics Lettersに発表した。この評価により、2009年TIME誌で「環境のヒーロー」として紹介された。詳細は、 自著「マグネシウム文明論-石油に代わる新エネルギー資源」(2010年、PHP新書)に書かれている。既に海水を処理して、塩分濃度0%の純水を作る実験にも成功し、さまざまな汚染水の浄水化にも成功している。福島の汚染残土を水洗し、洗った水からセシウムストロンチウムなどの放射性物質を除去できる可能性があるが、 福島県への提案は受理されていない。そのため、今回、トリチウム水の削減を目指す実験に絞ったようだ。膜を使わずに不純物を除去できるため、環境を汚さず、さまざまな汚染水の浄化が可能であり、これから期待されている我が国での半導体工場への超純水の供給や、工場からの排水に含まれる有機フッ素化合物(PFOS、PFOA)などの化合物も除去できる可能性が期待されている。

非平衡状態*(1):オーロラの形成、地球大気の動き、地球内部のマグマの動き、コーヒーにミルクを入れて混ざりつつある状態。 この様に、物質やエネルギーの流入や流出がある状態を「非平衡状態」と言います。

水素同位体*(2):水素には天然に1H、2Hおよび3Hの3つの同位体がある。1H(軽水素)、2H(重水素)、3H(三重水素トリチウム、放射性同位体であり半減期は12.32年)。

【日 時】2023年12月19日(火) 14:00-16:00(受付開始13:30~)

   *懇親会有り(希望者限定要予約/17時赤坂・会費6千円)

【会 場】TKP新橋カンファレンスセンター(東京都千代田区内幸町1‐3ー1 幸ビルディング12階12C)

【参加者】マスコミ各社、研究者、企業その他関係者様

【人 数】先着25名様(要予約)

※参加ご希望の方は、電話、FAX、メールのいずれかにて下記までお申込みください。

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