児童文学作家ロアルド・ダールによる名作「チャーリーとチョコレート工場」で有名な工場長ウィリーウォンカの“夢のはじまり”を描く映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(12月8日公開)。ティモシー・シャラメを主演に迎え、監督は「パディントン」シリーズのポール・キング、製作は「ハリー・ポッター」シリーズのデイビッド・ヘイマンという布陣で、きらめくイマジネーションにあふれるウィリーウォンカの物語を描きだす。

【写真を見る】ティモシー・シャラメが若きウィリー・ウォンカに。映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』では美声も披露!

世界一のチョコレート店を開くという亡き母との夢を叶えるために、ウォンカがやってきたのは、一流のチョコレート職人が集まる町。しかし、そこは夢見ることが禁じられた町だった。人々をあっと驚かせる魔法のチョコレートを生み出すウォンカは、彼の才能を妬む“チョコレート組合3人組”に邪魔されながらも、宿屋で出会ったヌードルら大切な仲間と共に夢を叶えることができるのか?

人々を幸せにする「魔法のチョコレート」を作りだすチョコ職人ウォンカのように、漫画「失恋ショコラティエ」にも大のチョコレート好きな彼女のためにチョコ作りの腕を磨く主人公が登場する。人はどうしてチョコレートに魅了されるのか。MOVIE WALKER PRESSでは、チョコレートもジョニー・デップが主演した『チャーリーとチョコレート工場』(05)も大好きという、「失恋ショコラティエ」の原作者、水城せとなにインタビュー。本作の見どころはもちろん、好きなキャラクターやチョコレートが人を惹きつける理由について語ってもらった。

■「アミューズメントパークにいるような感覚で楽しみました」

冒頭からシャラメは美しい歌声を披露する。「出てきた瞬間から惜しみなく歌と踊りが楽しめるところがすごく楽しいなって思いました。今度のウィリーウォンカはこんな感じなのかって。ウォンカも人に対して壁を作り、お城のような工場に引きこもっている偏屈な感じはまったくなく、いままでとは違う世界線ウォンカというふうに考えればいいのかなと思いながら映画のなかに入っていきました」と、シャラメ演じるウォンカに惹き込まれていったと明かす。

本作で描かれるのは亡き母と約束したチョコレート店を開くために突き進むウォンカの姿。「『チャーリーとチョコレート工場』はチョコレート工場自体がウリでとても派手で華やかな印象があります。今回はウォンカの若き日の物語だけど、決して地味ではない。チョコレート工場の派手さの代わりに、いろいろな仕掛けが映画全体にあって、アミューズメントパークにいるような感覚で楽しみました」とワクワク状態が続いていたと教えてくれた。

「今回のウォンカはすべての人に心を開いて、常にお人好し。見え見えの罠にもホイホイ引っかかるし、してやる側ではなくしてやられる側(笑)。このウォンカが年月を経てあの偏屈なウォンカになっていくのか、それとも今回のウォンカは違う世界線ウォンカなのかなどと、今後の展開なども含めていろいろと想像できていいなと思いました」と目を輝かせる。「いままでのイメージだと悪い大人を陥れる側だったけれど、今回のウォンカは希望に満ちていて、人に心を開いていて。人を寄せ付けないどころか人が寄ってくるキャラクターで、こういうウォンカもステキだと思いました」と笑みを浮かべた。

すでに何度も観たいと思えるほど気に入った水城のイチオシは、ケイラ・レーン演じるヌードルウォンカがチョコレートを作るシーンだ。ウォンカの発明家としての才能が明らかになるシーンの一つでもある。「木箱はチョコレートを作るポータブルのキットのよう。ドールハウスのようにも見えてすごくキュンとしました。ウォンカにとってあのキットが最初のチョコレート工場なんだなって。きれいな液体の入ったボトルがいろいろ入っていてキラキラしているし、作品の世界観のすべてが象徴されている感じがしました」と一番好きなシーンと笑顔を見せる。

■「シャラメ版のウォンカをしっかり印象付けたのはすごいこと」

『君の名前で僕を呼んで』(17)で一躍世に知らしめ、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(19)や『DUNE/デューン 砂の惑星(21)などで世界中で大ブレイクし、本作でウィリーウォンカ役に抜てきされたティモシー・シャラメについて、「実はドラマ『HOMELAND/ホームランド』で副大統領の息子役を演じたのを観て以来。少し見ない間にすっかり大きな俳優さんになったなと思いました(笑)」と目を細め、「ウィリーウォンカはそのキャラクター性が作品の顔のような役。ジョニー・デップの強烈な印象があるなか、シャラメ版のウォンカをしっかり印象付けたのはすごいこと。すばらしい世界観を持った役者さんだと感じました」と水城も太鼓判を押す。

ヒュー・グラント演じるウンパルンパの歌も楽しみにしていた要素の一つだった。「ウンパルンパって決して表情は豊かではないけれど、ヒュー・グラントの巧さなのか、ちょっとした表情や仕草から目が離せない感じでおもしろかったです。ウンパルンパに囲まれて暮らしているウォンカを知っていたから、そうなる前の出会いが描かれていたのはすごくインパクトがありました」とにっこり。「“はじまり”つながりで言うと、ウォンカチョコレートに入っている “ゴールデンチケット”誕生のきっかけを知ることができたような気持ちになれたのも嬉しかったです。いろいろとつながるし、さらに想像や妄想が膨らんでいます」とワクワクが止まらない様子で話した。

ウンパルンパ役のヒュー・グラントのほか、ウォンカの母親役にサリー・ホーキンス、ウォンカの夢を邪魔する宿屋の主人役にオリビア・コールマンなど、イギリスの名優たちも勢ぞろい。このなかでもウォンカの夢をサポートする仲間たちが印象的だったという。「みんな優しくて魅力的ですが、個人的には『ダウントン・アビー』のジム・カーターが好きなので、いい役で出てきてくれてよかったなって思います!神父役のローワン・アトキンソンなど豪華でおもしろい顔ぶれだと思いました」と満足の表情を浮かべた。

「失恋ショコラティエ」とは違うタイプの幻想的なチョコレートが登場する。水城が気になったのは雷のチョコレート”ひとすじの光“。食べたらきらりと閃きが舞い降りる、ウォンカがチョコレートを食べたことがないヌードルに作る最初のチョコレートだ。「雷のチョコレートが一番食べやすそうな気がして。『チャリチョコ』に出てくるチョコレートもそうですし、『ハリー・ポッター』の時にもカエルチョコやあり得ない味のグミとか、食べるのが怖いお菓子たちがたくさん出てきたと思います。あれって、イギリス的な発想なのかなって思ったりもしました。今回も、みんな割と躊躇なく食べるので、私は食べるのはちょっと…勇気がいるような気がしました」と苦笑い。

「食べたら宙に浮いてしまったり、飛んでいってしまったり。食べたらなにかが起きちゃうみたいなお菓子は、チョコレートが大好きでもなかなか手は出せなそうです。色味がいかにもなにか入っていそうな感じがありましたよね(笑)」と作中のチョコレートの感想を話した水城は「でも、コンセプト自体は大好きです。やっぱり食べたら空を飛んじゃうってワクワクさせてくれますから」と微笑んだ。

■「ウォンカのお店が『もしかしたらあるかも…』という気持ちになって」

「失恋ショコラティエ」では、主人公の爽太が一つ一つ丁寧にチョコレートを作り上げていく。「ウォンカはチョコレート職人で爽太はショコラティエ。そこが大きな違いです」と解説。共通点はチョコレートで人を幸せにする、魅了するところだ。「お菓子は子どもにとっても大人にとっても魅力的。自然と非現実の気分に浸らせてくれる食べ物なんですよね。お菓子って栄養素的には食べなくても生きていけるものだし、むしろ食べない方がいいくらい(笑)。それでもお菓子に手を出してしまうのは、現実からちょっと抜け出して気持ちを休めたり、ちょっと現実離れした幸せな気持ちを味わいたいから。だからお菓子は必要なんです。そういう意味で大人にこそお菓子は求められているかもしれないし、だからこそこの映画は大人が観ても楽しいのかなって思います」と人々がお菓子に惹かれる理由への持論を展開した。

作品からはいい人も悪い人もみんなチョコレートが好きだという“チョコレート愛”を強く感じたという。「良くないことだと思っても、チョコレートが出てくると抗えない、みたいな。“チョコレートホリック”という言葉があるように、どんな人にとっても中毒性のあるものなんだなと思いました」としみじみ。劇中には失恋をチョコレートで癒すようなシーンも登場する。「チョコレートで勇気が沸いて、『なんかうまくいきそうに感じる』と前向きになる。自信のようなものを持たせてくれる力がチョコレートなどのお菓子にはあると思っているので、『そうだよね』と納得しながら観たシーンでした」とチョコレートが持つ力にも触れた。

さらに水城はチョコレートの町にやってきたウォンカが憧れのグルメアーケードを訪れるシーンも大好きだという。「イギリスが好きで何回か行ったことがあるのですが、ロンドンには本当にあのようなステキなアーケードがあって。なんだかすごく嬉しくなりました。実際にアーケードがあるのを知っていると、ウォンカのお店が『もしかしたらあるかも…』という気持ちになって。個人的に嬉しく感じたポイントです」と経験談と重ねて感想を語る。

イギリスのお菓子事情にも触れ、「パッケージがすごく凝っていて可愛いんですよね。独特のファンタジー感はイギリスならではだと思います。特別高級なチョコレートじゃなくても、香水が入っているような美しい箱で売っていたりして。お菓子やチョコレートには夢が詰まっているという共通認識があって、イギリスのパッケージが作られているのかな…」と想像を膨らませる。「もし、自分がイギリスに生まれ育っていたら、どんな漫画を描いていたのかなって思うんです。きっと日本のお菓子文化で育った自分には思いつかなかったような、ぶっ飛んだ世界観のショコラティエの話を描いたかもしれません」と笑い飛ばした水城は「シャラメのウォンカは飄々としていて、愛を周りに振りまく存在です。『失恋ショコラティエ』の爽太というよりもオリヴィエのほうに近いかも。オリヴィエはお菓子の文化を楽しむみたいなところがあるので」とシャラメ版のウォンカに感じた「失恋ショコラティエ」のキャラクターとの共通点も指摘した。

取材・文/タナカシノブ

漫画「失恋ショコラティエ」原作者・水城せとながウィリー・ウォンカを描き下ろし!/イラスト/水城せとな