日本人の心をあらわすもの、といえばお祭りだ。近所の祭りや岸和田のだんじり祭りといった全国的に有名な祭りなどに訪れたという人は多いのではないだろうか。地元に祭りが当然のようにあることを考えると、どれだけの数の祭りがあるのか。
 なんと日本には30万もの祭りがあるのだ。(神社本庁調べ)その中には「奇祭」と呼ばれる祭りも多く含まれている。

 『大人の探検 奇祭』(有楽出版社/刊)は、作家・奇祭評論家の杉岡幸徳氏が、長い間「奇祭」に魅せられ、各地を放浪し、これらの祭りを見、手で触れ、写真に焼き付けてきた集大成となる。

 本書で紹介されている奇祭のひとつに、毎年4月第1月曜日に開催されている神奈川県川崎市にある金山神社の「かなまら祭り」がある。どこが奇祭かと言うと、女装者たちが「エリザベス神輿」というピンクの男性器の神輿を担いで「でっかいま〜ら!かなまち!」と叫びながら街を練り歩くのだ。
 このエリザベス神輿は東京の浅草橋の女装クラブ「エリザベス会館」が寄進したもの。ほかにも男性器の神輿は2基あり、木の男性器を載せた「かまなら神輿」と日立造船が寄進した黒い鉄製の「舟神輿」がある。この祭りは海外で「Utamaro Festival」として有名で、毎年、BBC、ロイター、フランス国営テレビなど、世界中のメディアが取材に来るほどで、世界中から外国人が押し寄せる。

 では、なぜこのような変わった祭りが始まったのか。本書では以下のように解説されている。
 まず、若山八幡宮の中にある金山神社の祭神はふいご(気密を高めた空気を送り込むための器具。鉄など金属の精錬で用いる。)の神でもある。ふいごの動きが男女のセックスを連想させるという理由から、性の神でもあるのだ。
 江戸時代、川崎宿の「飯盛女」という名の娼婦たちは劣悪な環境で働かされていた。なので、性病除けや商売繁盛を祈願して、神社の境内にゴザを敷き、神社にあった男性器の奉納物を持ち出し、卑猥なしぐさをして遊んだ。これが、かなまら祭りの起源とされている。その後、祭りは忘れ去られていたが、1970年代に女装クラブ「エリザベス会館」がピンクの男性器の神輿を寄進して、現在の祭りが始まったというのだ。そして、今でも性病除けの祭りとされている。

 祭りはもともと非日常な空間だが、「かなまら祭り」をはじめ、子どもが神官に大根を投げつける「あらい祭り(大根祭り)」、なぜか髭を撫でながら酒を飲む「ひげなで祭り」など、飛びぬけて奇矯な奇祭が本書では紹介されている。ふつうのお祭りでは味わえない異空間を体験してみたいという人は、日本各地で開催されている奇祭に出かけてみてはいかがだろう。
(新刊JP編集部)

性病除けを願掛けする!? 日本の“奇祭”