東京都は世帯年収910万円未満の制限を撤廃し、私立高校含めて授業料を実質無償化にするというニュースが大きな話題になっています。対して、国が打ち出しているのは、高校生がいる世帯の増税……人々の反応をみていきましょう。

東京都の子育て世帯…年収1,000万円超が4割だが

2024年度、東京都は都内在住の高校生を対象とした授業料助成の所得制限を撤廃、私立高校を含めたすべての高校で授業料を実質無償化にする方針を固めたと大きく報道されました。現在、都内高校の授業料は公立で一律12万円、私立高校で平均48万円。年収910万円未満の世帯に対しては、この額を上限に助成をしています。さらに公立小中学校では給食費の無償化も支援する方針だとか。この報道を受けて、都内在住の子育て世帯は、一斉に歓喜の声をあげたことでしょう。

東京都内に居住する小学生までの子どもを養育する両親と、ひとり親世帯などが調査対象ではありますが、東京都令和4年東京都福祉保健基礎調査「東京の子供と家庭」』で、東京都の子育て世帯について確認してみましょう。

まず親の年齢は父が42.3歳、母が40.9歳。「共働き世帯の割合」は66.7%と、5年前の調査から5ポイント以上増加しました。また就業している父母の従業上の地位は「正規の職員・従業員」の割合が最も高く、父が75.6%、母は47.8%でした。

共働き世帯の年収に注目すると、「800~1,000万円未満」の割合が最も高く19.8%。「1,000~1,200 万円未満」、「1,200~1,500万円未満」、「1,500万円以上」を合わせた「1,000万円以上」の世帯は共働き世帯で38.5%と4割に達します。

【東京在住「共働き世帯」の世帯年収】

100万円未満:0.3%

100万~200万円未満:06%

200万~300万円未満:1.1%

300万~400万円未満:4.5%

400万~500万円未満:6.3%

500万~600万円未満:8.4%

600万~800万円未満:18.7%

800万~1,000万円未満:19.8%

1,00万~1,200万円未満:15.9%

1,200万~1,500万円未満:10.8%

1,500万円以上:11.8%

出所:東京都令和4年東京都福祉保健基礎調査「東京の子供と家庭」』より

この調査の大半は東京在住の「小学生の親」ではありますが、「高校生の親」なら、さらに一段、年を重ねて給与も増えているはず。つまり今回の「私立高校も実質無償化」となれば、恩恵を受ける家庭は相当数いると考えられます。

東京都は「高校生世帯負担軽減」、政府は「高校生世帯負担増」

もちろん、都内私立高校も実質無償化に対して、「私立無償化により格差が拡大するのではないか」「私立高校を無償化するなら、公立高校に還元するほうが良い」「財政が苦しい地方では真似できない。地方との格差がさらに広がる」など、否定的な声も聞こえてきます。

確かに東京都は47都道府県のなかでも、平均年収がダントツトップの自治体。地方と比べると、収入面では余裕のある家族が多いのも事実。しかし家賃は高く、物価高が止まらないなかでは、東京都在住の家族に余裕があるとはいえません(関連記事:『都道府県「平均年収」ランキング…1~47位【2022年最新版】』)。

またこれまで所得制限となっていた世帯年収1,000万円前後は、行政からの支援のボーダーラインとなることが多く、「ほんと、大変……」と嘆きの声が多く聞かれました。そこにきての「所得制限撤廃」「私立も実質無償化」の方針は、ほとんどが英断と評価しているようです。

一方、東京都の方針に対して、岸田総理・政府が進める「異次元の子育て」にも注目が集まっています。先日報道されたのは、いわゆる「高校生増税」。高校生がいる世帯の扶養控除を見直し、所得税で38万円、住民税で33万円としている控除の水準を、所得に関係なく一律で引き下げ。税負担は児童手当の範囲内にとどめるようにするという方針が発表されました。

それに対して「子育ては中学生で終わりじゃない!」「高校から大学までいくらかかるか知っているのか!」などと批判が殺到。実現する可能性が高いとはいえ、検討段階というニュース。それにも関わらず、「異次元の少子化対策」を掲げている岸田総理に対して、「本当に子育てを応援する気はあるのだろうか?」と批判が集中しました。

高校から大学生の子の教育費用(入学・在学費用)は、平均942.5万円/1人。1人当たり年130万円ほどと、かなりの大きな負担です(日本政策金融公庫『教育費負担の実態調査結果』(2021年12月20日発表)より)。

そして今回の高校授業料無償化の報道。

――岸田総理、これが子育て支援だ

――国は子育て世帯に厳しく、東京都は子育て世帯に優しい……それってどうなの?

といったように、国と東京都の方針を対比させ、国の方針を疑問視する声が多数聞こえてきます。東京都の財政規模は他道府県と比べて飛びぬけて大きく、どこか異次元なところもありますが、少子化東京都だけでなく地方でも重要課題。(先陣を切ったのは大阪府と、功績を推す声も多く聞かれますが)東京都を称賛する市民の声を受けて、追随する地方自治体も出てくるのか、さらには国も少子化対策に本腰を入れてくるのか、注目が集まっています。

[参考資料]

東京都『令和4年度東京都福祉保健基礎調査「東京の子供と家庭」』

日本政策金融公庫『教育費負担の実態調査結果』(2021年12月20日発表)

(※写真はイメージです/PIXTA)